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44.決着

「おじいちゃんっ! みんなっ!」


 王国軍の攻撃を受けている味方の陣地を見上げて、セイリアがこれでもかと悲鳴を上げた。

 奇襲を仕掛けた王国兵がどこから現れたのかはわからないが、自分達の陣地がまさに落とされようとしているのは遠目にもわかった。

 陣地には皇女である自分の配下達――特に、実の祖父のように敬愛しているグラコス・バーゼンもいるのだ。

 セイリアは冷静さを欠いて、自軍の陣地に向けて駆けだそうとする。


「皇女殿下ッ、危ないっ!」


「っ……!?」


 背中に鋭い声がかけられた。戦場に生き残っていた帝国の兵士のものである。同時に、ぞわりと冷たい殺気が首の後ろを撫でる。

 セイリアが慌てて振り返ると、ゾッとするほどすぐ近くに剣を振り上げたレイドールの姿があった。


「余所見をするなんてつれないじゃねえか。傷つくぜ!」


「くうんっ!?」


 迎撃する余裕などない。セイリアは回避に全神経を集中させる。

 もつれそうになる脚で後方へと跳びながら、背骨に激痛が走るほどに身体をのけぞらせた。


「フッ!」


「きゃ……!」


 短い裂帛の声を吐いて、レイドールが斬撃を見舞う。

 エビぞりになったセイリアの顔のすぐ前を漆黒の剣が通過していく。一瞬、回避が遅ければ首を両断されていたかもしれない。


「【瞬雷】!」


 一刻も早く陣地に戻らなくては――そんな焦りに追い詰められながら、セイリアが聖剣の加護を発動させる。

 ミスリルの鎧を身に着けた皇女の身体が消失して、十数メートル後方へと瞬く間に移動する。


「今日のところは勝負はお預けよ! この借りはいつか必ず……あ?」


「阿呆がっ! 逃がすわけねえだろうがっ!」


 レイドールの間合いの外へと退避したセイリアであったが、予想外の光景を目の当たりにして驚愕に目を見開くことになった。


 セイリアの目の前に黒い円盤が迫ってきている。

 否、円盤ではない。それは恐るべき速さで回転しながら飛んでくる一本の剣であった。

 まるでギロチンの刃のように迫り来る剣の向こうに、なにかをぶん投げた体勢のレイドールがいた。その手の中に聖剣ダーインスレイヴはない。


(投げたっ!? 聖剣をっ!?)


 そんな馬鹿な。混乱するセイリアの頭に理不尽な悲鳴がよぎった。

 いったい、どこの世界に神が造りたもうた秘宝を敵に投げつけるような馬鹿がいるというのだ。

 この男には、伝説の武器に対する敬意はないのか!?


「かっ飛べええええええええっ!」


 迷わずダーインスレイヴを投擲したレイドールは、尖った八重歯を剥き出しにして叫んだ。

 レイドールにとって聖剣ダーインスレイヴは誰よりも頼もしい相棒であったが、同時に自分の人生を決定的に狂わせた加害者でもある。勝利のために放り投げることくらい、平然とやってのけるのだ。


「んぐうううううっ! このおおおおおっ!」


 一方、セイリアとて無抵抗ではない。

 予想外の攻撃に度肝を抜かれはしたものの、それでも必死に敵の攻撃を受け止めようとする。

 瞬間移動の技――【瞬雷】は一度使用すると、クールタイムを置かなければ再び使用することはできない。

 回転しながら肉薄する刃を防ぐ手段は、もはや己の手の中の剣しかない。


「くうっ!!」


 クラウソラスはダーインスレイヴと比べて一回り以上は細く、薄い形状をしている。

 回転するダーインスレイヴの質量はもはや鉄塊と変わらず、とてもではないが受け止められるものではない。

 二本の聖剣は互いに重なり、互いにもつれ合うようにして後方へと飛ばされて行ってしまった。


「ハアアアアアアアアッ!」


「へ、あ……きゃああああああっ!?」


 聖剣を失ったセイリアの顔に影が落ちる。太陽を背にして飛び込んできたのは、当然ながらレイドールである。

 レイドールもセイリアも聖剣を失っている。武器を持たないレイドールがとった攻撃手段は…………ただの飛び蹴りだった。

 天高く舞ったレイドールが、駆け抜けてきた勢いのままにセイリアの腹部を蹴りつける。


「かはっ……!」


 セイリアが着ているミスリルの鎧は打撃で壊れることはなかったが、それでも衝撃まで殺すことはできない。

 セイリアの身体が『く』の字に曲がり、勢いよく後方へと吹き飛ばされる。ボールのように地面を何度も跳ねてようやく停止する。

 ぐったりと四肢を投げ出して倒れるセイリアはピクリとも動かず、完全に気を失ってしまっているようだった。


「帝国皇女セイリア・フォン・アルスライン。聖剣保持者レイドール・ザインが討ち取ったり!」


 レイドールがダーインスレイヴを拾って天に掲げ、高々と宣言する。王国軍の兵士からワッと歓声が上がった。


「ああ……」


「そんな……皇女殿下……」


 対する帝国軍の兵士は絶望の声を上げて、膝を地面につく。

 陣地を失い、聖剣保持者も敗れた帝国軍には、もはや戦おうとする者は誰もいなかった。


 ザイン王国とアルスライン帝国。

 二人の聖剣保持者をぶつけ合った戦いは、王国軍の勝利で幕を下ろしたのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 討ち取ってないやん生きてるし
[一言] 討ち取ったりって、殺してないなら、討ち取ってないじゃん
[一言] お、姫殿下生き残ったか。最近は少女相手だろうと殺し合いになれば普通に息の根を止める殺伐とした作品ばかり読んでたからちょっと予想外。俺の心が世紀末過ぎるのか。
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