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41.二つの聖剣

「ああ、まったく! せっかくいい気分だったのに台無しじゃねえか!」


 忌々しそうに吠えて、レイドールはダーインスレイヴの先端を突き出した。

 剣先から放たれた黒い刃が、鞭のようにしなりながら丘から駆け降りてくるセイリアに襲いかかる。


「呪剣闘法【蠍突スコルピオン】!」


「帝国式聖剣術【瞬雷フルゴル】!」


「――っ!?」


 黒い刃が身体に届く寸前、セイリアの身体が閃光とともに掻き消える。

 次の瞬間、レイドールのすぐ目の前に青白い剣を振りかぶった姫騎士が出現する。


「帝国の敵、みんなの仇っ!」


「チッ……!」


 レイドールへと稲光を纏った聖剣が襲いかかる。

 素早く地面を蹴って後方に飛び、必殺の一撃を躱す。しかし、避けきれなかった雷撃が肩を打って激痛が走った。


「瞬間移動とはいやらしいことをしやがるじゃないか! それがそっちの聖剣の能力かよ!」


「いやらしいなんて、クラウソラスを馬鹿にしないで! そんな悍ましい力を使う貴方に言われたくないっ!」


 レイドールとセイリアはわずかに距離をとって睨み合う。

 二人はそれぞれ聖剣に選ばれた聖剣保持者である。しかし、相まみえる二人の姿はあまりにも異なっている。


 王子と皇女。

 黒い剣と、白い剣。

 禍々しい瘴気を纏う男と、青白い稲光を纏う女。


 現代に甦った生ける伝説であるはずの二人は非常に対照的であり、水と油のように相いれないように見えた。


「聖剣に選ばれた英雄であるはずの貴方が、どうしてこんなことをするの! 貴方のせいでどれだけの人が死んだと思っているのよ!?」


 レイドールに剣先を突きつけてセイリアが叫ぶ。

 稲光を背に言い放つセイリアの姿は、まるで悪を咎め断罪する戦乙女のようであり、神話の一説のように神々しい。


「おいおい、何を寝ぼけたことを言ってやがる」


 一方、断罪を突きつけられた悪魔の立ち位置となったレイドールは、わずかに瞳を細めて唇を歪めた。


「そもそもザイン王国に攻め込んできたのは帝国のほうじゃねえか。自分から戦争を起こしておいて、返り討ちにあったら被害者面とか舐めてんのか?」


「帝国は大陸を統一して、平和な世界を創るために戦っているの! 帝国が大陸を一つにまとめればみんなが幸せになることができるのに、どうしてそれがわからないのよっ!?」


「平和……幸せ……? はっ、頭に虫でも涌いてるみたいだな!」


 レイドールは牙を剥いて吠えた。

 目の前に立つ雷の乙女が口にする言葉はあまりにも青臭く、清々しいまでに自分勝手なものである。

 この純粋な少女は、己が、帝国が正義であることを疑ってもいない。

 平和のためと称して起こした侵略によって、他者が不幸になるかもしれないとは考えられないのだ。


「帝国の聖剣保持者ってのはこの程度かよ。世間の厳しさも知らないタダのガキじゃねえか!」


「なっ……貴方だってそんなに年は変わらないでしょ! 子供扱いしないでよ!」


「精神年齢の話をしてるんだよ。温室育ちのガキの夢物語に巻き込まれるこっちの身にもなれっての!」


「っ……馬鹿にして!」


 セイリアがリンゴのように顔を真っ赤にして、レイドールへと斬りかかる。

 レイドールもまた素早く斬撃を繰り出し、二つの聖剣が正面からぶつかった。


「くうっ!?」


「ぐっ!?」


 風と雷。相反する属性の聖剣の間で小さな爆発が生じて、二人の身体が吹き飛ばされる。

 レイドールは空中で態勢を整えて両脚で着地して、セイリアは地面を転がって受け身をとる。


「【蠍突】!」


 レイドールは地面を転がるセイリアに向けて斬撃を飛ばした。


「【雷電トニトゥルス】!」


 セイリアは地面から起き上がるや、迫り来る漆黒の斬撃に向けて雷を放った。

 青白い雷はレイドールの呪いの斬撃を打ち破り、逆にレイドールへと襲いかかる。


「チッ!」


 レイドールは舌打ちをして横に飛ぶ。しかし、飛んだ先の空間にセイリアが現れた。


「【瞬雷】――ヤアッ!」


「ぐうっ……! 舐めんなっ!」


 振り下ろされたクラウソラスをレイドールは鉄製の小手によって弾き飛ばす。

 さらに返す刀でダーインスレイヴを叩きつけようとするが、無理な姿勢で放たれた攻撃は軽やかなステップで躱されてしまい、セイリアの足元の地面を抉るのみに終わる。


「逃がすかよっ! 呪剣闘法【石眼の女神メデューサ】!」


「へっ……きゃあ!」


 レイドールは剣先を地面に叩いたままの姿勢で範囲攻撃を発動させた。レイドールを中心として半径10メートルに黒いドームが出現する。

 それは敵を石化する呪いの空間であり、これに取り込まれた人間は瞬く間に石像へと姿を変えてしまう。


「うひゃあっ……なんなのよ、もう! 気持ち悪い!」


 ドームが消失したとき、そこから平然とセイリアが現れた。

 セイリアは身体に絡みついてくる黒い瘴気に困惑した顔をしているものの、目立って呪いの影響はなさそうである。


「チッ……面倒だな。聖剣の加護か?」


 レイドールは己の不利を悟り、苦々しく表情を歪めた。


 レイドールとセイリア。二人が聖剣保持者としてどちらが上手なのかはわからない。

 しかし、どうやらダーインスレイヴの呪いの力は、聖剣の加護を受けているセイリアに対しては効力が薄いようである。

 雷という破壊力に勝る武器を持つセイリアのほうが、相性という点で圧倒的に優位に立っているようであった。


「あれれ? ひょっとして、お兄さん。追い詰められてるの?」


 苦い表情をしているレイドールの顔を見やり、セイリアがにんまりと笑った。

 彼女もまた自分の優位に気づいたのだろう。天真爛漫な顔には勝ち誇ったような色が浮かんでいる。


「降参するなら命は助けてあげようか? お兄さんは強いみたいだし、帝国に服従するのならパパが雇ってくれるかもしれないよ? パパは強い人が大好きだから」


「はっ、鬱陶しいお気遣いありがとうよ!」


 すでに勝利を収めたような上から目線の言葉に、レイドールは唾とともに吐き捨てた。


「生憎だが、俺は二度と誰かの風下には立たないって決めてるんだよ。会ったこともない皇帝陛下とやらに自分の運命を委ねるなんぞ反吐が出るんだよ!」


「ふうん、そっか。じゃあいいよ…………死んで?」


「っ……!」


 再びセイリアが瞬間移動をしてレイドールの間合いへと踏み込んでくる。

 レイドールは表情を歪めながら、ダーインスレイヴで迎え撃った。


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