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40.災厄の魔神

「はっ……はははははははははッ!」


 天を衝く黒い竜巻の中心で、レイドールは狂ったように哄笑を上げた。

 周囲では禍々しい瘴気が狂風となって荒れ狂っている。身体の芯まで凍えるようなおぞましい光景であったが、渦中にいるレイドールには恐怖はない。

 それどころか、己を取り巻く邪悪な力の奔流に心地よさそうに目を細めて、三日月に唇を吊り上げる。


「これが聖剣! これが俺の力! はははははっ、アハハハハハハハハハハッ!」


 己が神や悪魔にでもなったかのような全能感がレイドールの身体を包み込む。握った柄を通して、津波のように膨大な力が流れ込んでくる。

 主人の狂喜に応えるように、聖剣ダーインスレイヴもますます嵐の勢いを強めていった。


 ダーインスレイヴから噴き出す漆黒の風は、レイドールが使う『呪剣闘法』と同じく敵を状態異常にする効力があるようだ。

 呪いの風を打ち付けられた帝国兵の身体には毒や麻痺、石化などの効果が発現して、一人、また一人と倒れていく。


「こんな、ばかな……」


「人間じゃねえ、化け物だ!」


「俺達は何と戦ってるんだ……あれは魔神アーリマンの化身なのか……?」


 辛くも呪いから逃れた帝国兵は逃げることすら忘れて、呆然と荒れ狂う黒い竜巻に見入っていた。

 先ほど数百の兵士を薙ぎ倒したばかりだが、それでもまだ数千の兵士が立ちふさがっている。


「多勢に無勢、それがどうした!? 数の違いなんて押し潰す! 地の利なんて踏みにじる! 俺を止められる奴がいるなら出てきやがれ!」


 初めて抜き放った聖剣――その圧倒的な力を手にしたことで、傲慢なほどの自信が湧き上がってくる。

 もともと、レイドールは開拓都市で5年間の歳月を戦いに捧げてきており、己が強者と呼べるほどに強くなったと自負していた。

 自分はすでに剣士として完成したものだとばかり思っていた。


(だけど……まだ上があった! 俺はまだ高みになんて到達していなかった!)


 傲慢と蔑むならばそうすればいい。

 慢心と侮るならばそうすればいい。


 ただし、決して弱者とは呼ばせない。

 この聖剣にかけて、初代ザイン国王より二百年の時を越えて己を選んでくれたダーインスレイヴにかけて、もう二度と敗北はしない。

 二度と、何者であっても己の道を奪わせはしない。


「もっとだ! もっと俺に力をよこせッ!」


『アアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 傲然たる意志を込めて限界まで力を高めていく。

 右手に握り締めた聖剣からも甲高い叫び声が返ってきて、黒い嵐がさらに勢いを増していく。

 戦場を覆い尽くすほどに巨大に成長した竜巻は、もはや一匹の黒龍が天に昇っていくようであった。

 その光景を目の当たりにして、帝国兵は戦意を失って膝から崩れ落ちていく。


「勝てない……こんなものに勝てるわけがない」


 誰かがぽつりとつぶやいた。それはその場にいる帝国兵全員の想いを代弁する言葉だった。

 こんな人知を超えた力に勝てるわけがない。挑むことすらも烏滸(おこ)がましい。

 身に浴びた呪いの風に蝕まれて、帝国兵の身体は身動きすらままならなくなっている。

 戦うことはおろか、逃走という選択肢すらも奪われて膝をつく兵士達の心中は、さながら天上の神の審判を待つ罪人の気分であった。


「おお……!」


「神よ……!」


 一方、レイドールの後方で戦いを見守っている王国兵もまた、地面に膝をついていた。

 彼らもまた荒れ狂う漆黒の風を浴びていたものの、どうやらダーインスレイヴの力は敵にだけ作用するらしい。呪いの影響は全くといっていいほどなかった。

 しかし、呪いの影響などなくとも、彼らは自発的に膝をついて祈るように両手を組んでいた。


 目の前には神か悪魔としか思えない超常の力の振るい手。

 それが敵であるならば失意と絶望に沈み、帝国兵がそうであるように嘆きの声を上げる他にない。


 だが――神の代行者たる聖剣保持者は敵ではない。自分達の味方なのだ。


 ゆえに、王国兵はひたすらに祈りを捧げる。

 あの狂風の主が味方であることに感謝して。

 あの暴威の化身が敵にならないように懇願して。


 ひたすらに、ひたすらに祈り続けた。


「ハーハッハッハッハッ! アハハハハハハハハッ!」


 そんな兵士達の心中は知らず、レイドールは呵呵大笑する。

 どれほど呪いの風を振り撒いてもなお湧き上がってくる力に、もはや遠慮する気にならなかった。

 この力でどこまでやれるか――それを試して見たくて仕方がない。


「呪剣闘法【終末の大蛇(ヨルムンガンド)】!」


 レイドールは湧き上がる高揚感のままに前方に向けて剣を振り下ろした。

 その矛先が向けられたのは、丘の上に作られた帝国軍の陣地。


 レイドールの周囲を荒れ狂っていた風が、聖剣の担い手である青年の意志に従って巨大な斬撃となって戦場を斬り裂く。


「ああああああああああああっ!?」


 戦場を真っ二つに斬り裂く黒い斬撃に、無数の帝国兵が飲み込まれて消えていく。

 それでも斬撃はまるで勢いを衰えさせることはない。轟音とともに戦場を引き裂きながら、丘の上に構えた帝国の本陣へと突き進んでいく。


「勝った……!」


 地形すらも変えかねないほどの攻撃を放ったレイドールは、己の勝利を確信して牙を剥いて嗤笑する。


「ヤアアアアアアアアアッ!」


 しかし――このまま帝国軍の陣地を斬り裂くかと思われた攻撃を前に、立ちふさがる影があった。

 細く小さな人影は巨大な黒い斬撃に比べてあまりにも頼りない。

 まるで嵐の海を突き進む小舟のようである。


「みんなを守って! クラウソラス!」


「なっ……!?」


 小さな人影が右手を翻した。瞬間、けたたましい轟音とともに雷光が閃いた。

 その少女が右手に握り締めているのは細く青白い剣。そこから放出された眩いばかりの雷撃が、津波のように押し寄せてくる漆黒の斬撃に正面からぶつかる。


 黒と白。風と雷が均衡したのはわずかに数秒であった。

 すぐに雷撃が斬撃を打ち破り、禍々しい呪いの風は千々に消えてしまう。


「ああ……忘れてたな。俺としたことが」


 渾身ともいえる一撃を無力化されて、全能感に昂っていたレイドールの心が冷えていく。冷静になった頭が状況を整理して把握する。

 確かに聖剣に選ばれた人間は神のごとき力を得るのかもしれない。

 しかし、神の力を手にしたのは自分だけではない。少なくとも、この戦場にもう一人いるのだ。


「お前が帝国の聖剣保持者――セイリア・フォン・アルスラインか!」


「調子にのっていられるのはそこまでよ! ここからは私が相手になってあげるんだから!」


 強敵の出現に牙を剥いて吠えるレイドール。

 ダーインスレイヴを握り締める彼に、裂帛の怒声とともにセイリアがクラウソラスを手に飛びかかってきた。


以下の作品を投稿しています。こちらもどうぞよろしくお願いします。

・毒の王

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・異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

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・悪逆覇道のブレイブソウル

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