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39.呪いの聖剣

 戦いが始まってから5時間が経過して、戦場に大きな変化が現れた。

 それまでブレイン要塞を背にして踏みとどまっていた王国軍であったが、撤退をして要塞の中へと戻って行ったのである。


「王国兵が撤退していくぞ!」


「そのまま要塞に攻め込むぞ! やつらに門を閉じさせるな!」


 撤退していく王国軍を追いかけて、包囲していた帝国兵が要塞へと突撃していく。


「おお、どうやら我らの勝利のようですな!」


 城門へ向かって行く帝国の兵士の姿に、ダラス・サファリスが喝采の声を上げた。


「さすがはバーゼン将軍。見事な采配でございました!」


「…………うむ」


 副官からの祝勝の言葉に、グラコス・バーゼンはなぜか浮かない顔で頷いた。


「……どうかしたの、おじいちゃん?」


 表情を暗くする老将の顔を覗き込み、セイリアが心配そうな面持ちで問いかける。

 バーゼンは可愛らしい皇女に心配をかけてしまったことに気がつき、ハッと目を見開いた。


「い、いえ、大したことではないのじゃが……どうもあっけなさすぎると思ってのう」


 最初こそ帝国軍は手痛い反撃を受けてしまったものの、すぐに巻き返して勝利へと突き進んでいる。

 すでに王国軍はブレイン要塞の内部へと退却を済ませている。閉まろうとする城門を何人かの帝国兵が押さえつけており、その隙に他の帝国兵が内部へとなだれ込んでいく。

 このままいけば、要塞は落とされて帝国軍の勝利となるだろう。


(バゼル・ガルストは愚者ではない。勝てない賭けをするような無能な将ではなかろう。ならば、どうして野戦に踏み出したのだ?)


 バーゼンは顔を伏せて考え込む。

 てっきり野戦で五分に持ち込む奥の手を用意しているものだとばかり思っていたのだが、その切り札もいまだ姿を現さないままである。

 それとも、この期に及んで奥の手を温存しておく余裕があるというのだろうか?


(このままでは我らが勝ってしまうぞ? さあ、どうした。ガルスト!)


「なっ……! バーゼン将軍、あれを!」


「むうっ!?」


 副官の叫びにバーゼンは顔を上げた。

 視線の先では、城門からブレイン要塞内部に入り込んだ兵士が慌てて外に逃げ出してきている。

 あと少しでつかみ取ることができたであろう勝利を投げ出してまで、這う這うの体で逃走をする兵士達。

 彼らの背中を、漆黒の斬撃が斬り裂いた。


「何じゃあれは……魔法なのか?」


 黒い斬撃によって数十人の帝国兵が吹き飛ばされる。花びらのように軽々と宙を舞っている味方の兵士の姿に、バーゼンは目を見開いてつぶやいた。

 どうやら要塞の中には攻撃魔法に長けた魔術師がいたようである。

 どうしてこれまで温存してきたのかはわからないが、確かに高位の魔術師ならば戦況に一石を投じる切り札と成り得るだろう。


「……違うよ、おじいちゃん。アレは違う」


「姫殿下?」


 セイリアが固く緊張した声でつぶやいた。

 バーゼンとサファリスが怪訝に振り返ると、鎧を身に着けた皇女の顔が見る見るうちに蒼褪めていく。

 唇はキュッと強く結ばれており、小さな肩が小刻みに震えている。

 天真爛漫を絵に描いたような性格のセイリアが、これほどまでに怯えを露わにしているところを、二人は初めて見た。


「わあああああああああああっ!?」


「っ……!?」


 震える皇女に見入っていたバーゼンであったが、戦場を斬り裂く悲鳴にハッと要塞に目を向ける。

 ブレイン要塞の城門はいまだに閉ざされることなく開け放たれている。

 城門の周囲には無数の帝国兵が倒れていて、無事な兵士達も門から距離をとって怯えた様子で槍を向けている。


 やがて――多くの帝国兵に見守られながら、城門をくぐって一人の男が現れた。


 黒い鎧を着た若い男である。右手に携えている剣すらも漆黒で、黒に塗り固めた姿はまるで伝承に登場する死神のようである。


「フッ!」


「なっ……!?」


 男が素早く右手を振るった。剣から禍々しい瘴気が斬撃となって放たれる。

 黒鎧の男を中心に円を描くように広がった凶々しい斬撃が、城門を取り囲んでいる帝国兵の身体を撫でるようにして通り過ぎる。

 途端、血の一滴も噴き出すことなく兵士達は倒れていき、屍のように地面に横たわってしまった。


「魔法なんかじゃないよ…………アレは聖剣。クラウソラスと同じ聖剣だよ」


 セイリアが震える声でつぶやいた。サファリスもまた驚愕に叫ぶ。

 まっすぐに黒鎧の男を睨みつける皇女の瞳に揺れているのは、敵意と高揚――そして畏怖の感情である。

 セイリアの腰のクラウソラスも、敵として立ちふさがった同格の神器を前にして興奮したようにバチバチと火花を放出している。


「なっ……まさか敵にも聖剣保持者が!?」


「そうか……ザイン王国にもあるのだったな。十二本の聖剣の一本が」


 サファリスが愕然と叫び、バーゼンはこれでもかと表情を歪める。

 戦場の流れが大きく変わり、確実に掴めるはずだった勝利が手から離れていくのを歴戦の老将は鋭敏に感じ取っていた。


「なんと忌まわしき力よ。闇と呪いの聖剣めが!」


 バーゼンの視線の先で、再び男が聖剣をかざした。

 呪いの瘴気が黒い竜巻となって戦場に巻き上がり、数百の帝国兵をまとめて薙ぎ倒した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 聖剣を闇属性にする作者のセンスよ。最高。
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