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31.爺と孫と副官と

「おお、申し訳ございませぬ。姫殿下。こちらのサファリスがどうも殿下を苦手としているようで仕方がなく……」


「はあっ!?」


 バーゼンからの突然の責任転嫁に思わずサファリスは叫んだ。セイリアは「やっぱり」と頷いて、唇を尖らせる。


「もう! いい加減に慣れなさいよ、サファリス大佐! 大佐が女嫌いだとは聞いているけど、一緒に戦っていく仲間なんだから。そんなことでは戦場でやっていけませんよ!」


「……大変、ご無礼を。セイリア殿下」


 サファリスは隣の上官を恨めしそうに睨みながら、セイリアへと頭を下げた。


「大佐もいいお年なんだから、女性嫌いを克服して結婚相手を探しなさい。目つきは悪いけど、大佐は顔つきも悪くないし、その気になればすぐにだっていい人が見つかるからね!」


「…………善処いたします。ご配慮に感謝を」


 これでもかと渋い顔になったサファリスは顔を伏せて表情を隠す。

 そんなサファリスの肩をバシバシと叩いて、バーゼンが割って入る。


「こ奴には私がきつく言っておきますゆえ、どうぞお許しくださいませ。それよりも、戦の話でしたな。ぜひとも姫殿下にもお意見をいただきたい!」


「うん、もちろん! 私もおじいちゃんと戦の話がしたいと思ってたんだ!」


「ほっほっほ、それはよかった!」


 無邪気に近寄ってくるセイリアに、バーゼンがニマニマとだらしなく頬を緩める。

 そんな上官を横目に、サファリスはこれ見よがしに溜息をついた。


(またこれだ……)


 サファリスは皇女であり、聖剣保持者でもあるセイリア・フォン・アルスラインのことを苦手としている。その最たる理由は横にいる上官にあった。


 グラコス・バーゼンという老将は帝国全土に勇名をとどろかせる英傑である。

 時に慎重に、時に大胆に兵を動かす用兵ぶりは見事の一言に尽きるものであり、敵からは悪魔、味方からは軍神と呼ばれるほどであった。

 サファリスは若い頃から厳しくも慈悲深いバーゼンに憧れの感情を抱いており、数年前に前任者の引退に伴ってその副官に選ばれた時には涙すら流して喜んだほどである。


(ずっと憧れていた勇将も、姫殿下にかかわるとこの姿とは。ああ、まったく……嘆かわしいことです)


 そんなグラコス・バーゼンであったが、セイリア姫殿下と接するときだけはまるで孫に弱い老人のように情けない姿になってしまう。

 そんなバーゼンの姿を見るたび、サファリスは無性に情けない気持ちになってしまうのだ。


「それで、おじいちゃん。大佐とどんな話をしていたの?」


「うむ、いかにしてブレイン要塞を落とすべきかと話してましてな」


 セイリアがあどけなく首を傾げて尋ねた。聞かれたバーゼンは、やはり一も二もなく口を割る。


「ブレイン要塞は国境にあるバルメス要塞以上に堅牢な構造をしており、水の利、兵糧の備蓄に関しても潤沢であるとの調べがついております。落とすにはまだまだ時がいるでしょうな」


「ましてや、そこを守っているのはバゼル・ガルスト将軍です。一筋縄ではいかないでしょう」


「ふうん、そんなにすごいんだ。敵の将軍は」


 バーゼンが説明して、横からサファリスが補足する。セイリアは感心したように頷いた。


「無論ですじゃ。ガルスト将軍は二十年にもわたって国境を守り続けた歴戦の猛将。ザイン王国にとっては守護神といっても良い人物じゃろう」


「へえ、それっておじいちゃんよりもすごいの?」


「まさか! ワシのほうがすごいに決まっている!」


 セイリアの無邪気な問いに、バーゼンがムキになって答える。


「いかに猛将とはいえ、しょせんはワシよりも二十は若い若輩。有能とはいっても、弱国であるザイン王国の中でのこと。わしらの敵ではありますまい!」


「そうなんだ、さすがおじいちゃん!」


「うむうむ!」


 姫殿下の称賛に胸を張るバーゼン。そんな上官を白々しく見ながら、サファリスは水を差して口を開く。


「とはいえ、その弱国の守護神のせいで帝国の覇道が妨げられてきたのもまた事実。この戦い、容易ならざるものとなりましょう」


「ふうん、だったら私がその人の首をとってこようか?」


 セイリアがなんでもないことのように言ってのける。


「私だったら、一人で要塞に入ってその人を討ち取ってこれるよ? そうすれば、この戦は私達の勝ちでしょう?」


「なりませぬ! 姫殿下にそのような危険なことは!」


 バーゼンが肩を怒らせて叫ぶ。先ほどまでの優しげな面立ちとは打って変わり、老将の顔つきは厳しいものへと変貌する。


「姫殿下、お願いですからバルメス要塞の時のような無謀なことはしないでくだされ! あの時は心臓が止まるかと思いましたぞ!」


 実のところ、帝国軍が国境のバルメス要塞を短期間で落としたのはセイリアの活躍が大きかった。

 聖剣保持者である皇女は帝国軍が要塞を攻撃するのに合わせて無断で突出して、驚異的な身体能力で城壁を飛び越えて要塞内部へと侵入したのだ。

 要塞に飛び込んだセイリアは聖剣を抜いて暴れまわり敵を混乱に陥れ、結果として城壁の守りが手薄となったところをバーゼン率いる帝国軍が破ったのである。

 その獅子奮迅の戦いぶりはまさに英雄。聖剣保持者としてふさわしいものであったが、彼女を溺愛するバーゼンにとっては悪夢のようなものだった。


「姫殿下、どうか約束してくだされ! あのような無謀な戦いはしないと、二度とこの爺を心配させないと!」


「ええっと、それは……」


 セイリアはバーゼンの剣幕にたじろぎながらも、もじもじと両手の人差し指を合わせて言葉を濁らせている。

 明言を避けている様子から察するに、今回のブレイン要塞攻略でも同じようなことをするつもりだったのだろう。


「ひ・め・で・ん・か!」


「あう……」


 憤怒の表情で詰め寄ってくる老将に涙目になるセイリア。

 そんな二人の姿にサファリスは沈痛そうに首を振って、横から助け舟を出した。


「セイリア殿下。先日の戦での突出した戦いぶり、真に見事でございました。しかし……殿下ばかりが活躍してしまっては、私どもを始めとした多くの士官が活躍をする機会を失ってしまいます。兵士の中にはこの機会に手柄を立てて立身出世を目指している者もおりますので、どうか我らに手柄を譲っていただけると有り難いのですが?」


「んー……そういうことなら…………わかった」


 セイリアはかなり長い時間考えて、やや不満そうに頷いた。

 姫殿下は勇猛な性格ではあるものの、決して家臣の手柄を奪いたいわけではない。こうして他の兵士のことを引き合いに出せば必ずわかってくれる。

 セイリアの清廉さと慈悲深さは彼女を苦手とするサファリスであっても、疑いなく理解していることだった。


「その代わり、殿下の力が必要となったら必ずご助力いただきます。どうぞそれまでご辛抱を」


「うん、わかった。楽しみにしてるね?」


「うむうむ、それでこそ姫殿下じゃ。臣下をいたわってこその王族。人の上に立つものの器ぞ!」


 素直に了承するセイリア。その頭をバーゼンが優しく撫でて、アイコンタクトでサファリスに礼を告げる。


「…………」


 サファリスは肩をすくめて上官に無言で応えて、二人から視線を逸らして要塞のある方角へと向けた。


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