244.姫とメイド
レイドールが自称・嫁の登場に困惑していたとき、ネイミリアとセイリアの二人は一緒に王都の中を散策していた。
「ああ、こちらの像、まだ残ってたんですねー」
セイリアを連れて大通りを歩いていたネイミリアが立ち止まり、道の真ん中に立っている銅像を見上げた。
「これはアテルナ王国の初代国王の石像ですね。ほら、腰に剣を差して、胸にも短剣を身につけているでしょう? 腰の剣が『水』の聖剣であるミストルティンだと見せかけて、胸の短剣が本物なんですよ」
「詳しいのね、ネイミリア」
「実際に会ったことがありますからね。ミストルティンに選ばれるのは小っちゃくて可愛い女の子ばっかりなんですよ?」
「フーン……やけに線が細い男性だと思ったけど、女の人だったのね」
「はい。あの聖剣は。清らかな乙女じゃないと使えないとか言っていて、処女厨なんですよ。ロリコンでユニコーンとか本当に最低ですよねー」
ケラケラと愉快そうに笑いながら、ネイミリアがセイリアの手を握っている。
この二人はかつてレイドールの屋敷で共に生活をしており、親友に近い間柄になっていた。
社交的なようでいて意外と人の好き嫌いが激しいネイミリアがここまで懐くのは、実のところかなり珍しい。
それというのも、ネイミリアはセイリアのことを同じ男を共有している『姉妹』としてみなしているのだ。
「それにしても……セイリアさんがはるばる西方まで駆けつけてくれるとは思いませんでしたよ。ご主人様も助かったって喜んでましたよ? そんなにご主人様が恋しかったんですかー?」
ネイミリアがセイリアに悪戯っぽく笑う。セイリアはムッとした様子で唇を尖らせ、繋いでいた手を離す。
「違うわよ! 私はお兄さんのことなんて何とも思ってないんだからねっ!」
「セイリアさん、それは逆に好きだって言っているように聞こえちゃいますけど?」
「違うってば! ここには妹を送ってきただけ! もしくは……冒険者として魔物を倒しにきただけなんだからね!」
「フーン……そういうことにしてあげてもいいですけど、それにしても冒険者になったんですね? どんな心境の変化なんですか?」
ネイミリアが不思議そうに訊ねると、セイリアは何故か気まずそうに視線を外す。
「別に……ちょっと自分を見つめ直したくなっただけ。深い意味はないわ」
「そうなんですか? 王族で冒険者とかご主人様みたいでしたけど、好きな男のマネをしたいとかじゃないんですかあ?」
「違うわよ! ただ……本当に、自分が正しいのかわからなくなっただけっ!」
セイリアがダンッと強く地面を蹴る。
「……私は王族としてザイン王国に攻めてきたけど……だけど、実際に敵国だったあそこで生活していて、本当に自分がしてきたことが正しいかわからなくなっちゃったのよ。私が聖剣保持者として剣を振って、敵を斬れば平和になってみんなが幸せになれると思ってたけど……本当にそれが正しいのかわからなくなっちゃったの」
セイリアはアルスライン帝国西方侵攻軍の将として、戦場に出た。
ブレイン要塞の攻略時にも少なからぬザイン王国兵の命を奪っている。
「……王都で暮らしていたときに、戦争で夫や子供を失った女性と会ったわ。とても悲しんでいた。泣いていた」
彼女から大切な家族を奪ったのはアルスライン帝国だ。
ひょっとしたら……セイリアが斬り捨てた兵士の中に、彼女の夫や子供がいたのかもしれない。
そう気づいてしまったら、もう帝国軍の一員として戦場に出るのが怖くなってしまった。
「……もう人間と戦うのはこりごり。後腐れの無い魔物とだけ戦っていたい」
姫騎士として戦場で戦うことに倦んでしまった。
それがセイリアが王族であることを捨てて、冒険者として旅に出た本当の理由だった。
「自分が人を殺してしまった事実が無くなるわけじゃないけど……少しでも、罪滅ぼしがしたい。冒険者として人を助けたい。そんなふうに思ってるんだ」
「……何というか、セイリアさんは真面目ですね」
「……悪い? っていうか、何で変な顔をしてるのよ」
セイリアの告白を聞いて、ネイミリアが眉を下げて口を半開きにして、「うわあっ」とおかしなリアクションをする。
「いや……どうして、そんなにどうでも良いことで悩んでいるのか不思議に思いまして」
「どうでもいい? 戦争で人を殺したのよ?」
「はい。だから戦争ですよね? 戦争で敵を殺すのは当たり前じゃないですか」
ネイミリアがあっけらかんとした様子で言う。
「趣味で人を殺したとかなら悔い改めるべきだと思いますけど……戦争だったら仕方がなくないですか? 私だって三百年前の大戦のときには大勢の人間を殺しまくって国を滅ぼして、最終的には『あの男』に絆されて味方を裏切って実の姉まで殺しましたけど、少しも悪いと思ってないですよ?」
「…………」
本当に悪いと思っていないであろう表情にセイリアが顔を引きつらせる。
相談する相手を完全に間違えた。
ネイミリアは『破滅の六魔女』の一人であり、かつて人類を滅亡に追いやろうとした災厄だったのだ。
「どうしても気になるというのなら、殺した人数以上に人助けをすればいいじゃないですか。それでチャラですよ」
「チャラって……」
「それで足りないのなら、殿方とまぐわって子供でも産んだら良いんですよ。私だってご主人様の子供を産む気満々ですし、セイリアさんもそうしたらオッケーです」
「…………」
ネイミリアが愉快そうに言って、メイド服の裾を上下させて王都の町を駆けていく。
セイリアはしばし呆然とその背中を見つめるが……やがて、思い出したように友人を追いかけ始めた。
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