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237.妖精戦団


「征きなさい、妖精戦団! 我らの身体に宿る妖精の力をとくと見せつけよ!」


「「「「「ハッ!」」」」」


 第五皇女アルクスによって率いられた部隊がアンデッド兵に向けて手をかざす。

 五百人の兵士から放出された大量の魔力が大気を揺らす。彼らの頭上に凝った魔力が矢の形状に変わっていき、輝かんばかりの光を放った。


「おいおい、マジか……!」


 ザイン王国軍の魔法使い――フレアバードが息を呑む。

 禁忌の実験によって精霊と融合を果たしたフレアバードの目には、突如として現れた『妖精戦団』を名乗る部隊から放たれている膨大な魔力がはっきりと映し出されていた。

 ザイン王国軍にもフレアバードを中心とした魔法使いの部隊がいるものの、アルクス配下の兵士らとの能力差は明白である。


「このレベルの魔法使いだけを固めて部隊を作ったのか……帝国はどんだけ人材が余ってるんだよ!」


 改めて、ザイン王国とアルスライン帝国との戦力の差を見せつけられた心境である。

 一度はレイドールによって侵攻を阻止されたアルスライン帝国であったが……どうやら、まだまだ余力を残していたようだ。

 敵国といくつもの国境線を抱えているがゆえに最大戦力を投入できなかっただけで、本気を出していたらレイドールが介入する間もなくザイン王国は攻め滅ぼされていただろう。


「放て!」


『『『『『照らせ(イルーミノー)』』』』』


 アルクスの合図とともに、兵士が手を下ろす。

 膨大な魔力によって構築された光の矢が一斉に放たれて、アンデッド兵に降りそそいでいく。

 まばゆいばかりの閃光が生じて、セイリアに向けて襲いかかろうとしていたアンデッド兵が蹴散らされる。

 数千のアンデッド兵が秒とかからずに塵となって消滅した。アンデッドにとっての弱点属性である光の魔法を使ったとはいえ、目を剥くほどの威力である。


「括目せよ! 妖精戦団はエルフと人間の力を併せ持った特殊部隊である! 妖精の力を有した我らの力、とくと目に焼き付けるがよい!」


 圧倒されているアンデッド軍に向けて、アルクスが得意げに叫んだ。


 妖精戦団。

 アルクスの指揮下にあるその部隊の兵士は、人間とエルフとの間に生まれた混血児によって構成されている。

 アルスライン帝国は亜人連合国と長年の敵対関係にある。国内には捕虜として連れてこられた亜人が大勢いて、奴隷として酷使されていた。

 そんな亜人奴隷の中でも、エルフは美しい容姿から性奴隷として扱われることが多い。

 男女がそういった行為に及べば、子供ができてしまうのは自然なこと。そのため、帝国にはエルフと人間の間に生まれた混血児がいて、差別の対象となっている。


「半端者などと侮るなかれ! 勇敢なる戦士達よ、不死者を殲滅せよ!」


「「「「「オオッ!」」」」」


「殺せ殺せ殺せ! 不死の怪物を本物の死体に戻してやれ!」


『『『『『照らせ(イルーミノー)』』』』』


 アルクスの命令に従い、妖精戦団の兵士がアンデッド兵を駆逐していく。

 光の魔法を放って不死者を塵に還し、魔法をかいくぐってきた敵は槍で突き殺す。

 妖精戦団の兵士は魔法使いとしての能力も高いが、身体能力も低くはないようだ。アンデッド兵を危なげなく(さば)いている。


 人間とエルフの混血。

『穢れた血』などと蔑視されている彼らであったが、能力的に低いというわけではない。

 むしろ、人間とエルフの良い部分を併せ持っていることで、お互いの足りない部分を補うことができていた。

 人間はエルフよりも身体能力が高いが、魔法への適性が低い。魔法使いとして覚醒するのはごくわずかである。

 対して、エルフは魔法への適性が非常に高い代わりに身体能力が低い。一人一人が魔法使いとして優れた能力を有しているものの……身体は貧弱そのもの。金属製の武器はほぼ扱うことができず、せいぜい弓矢を使えるくらいだった。

 混血児はそんな両者の良いところ取りができており、人間と同等の身体能力、エルフと同等の魔力を有している。

 妖精戦団は差別階級にありながら有能極まりない力を持った混血児……非常に扱いづらい立場である彼らの使い道を模索した結果、ようやく生み出された存在だった。


「ハハハハハハハハハッ! アンデッドがゴミのようだ。全てを塵に還してやる!」


「うっわあ……アルクスってば、はしゃいじゃって。よほどストレスが溜まってたのかな?」


 嬉々として指揮を執り、アンデッド兵を殲滅している妹の姿にセイリアがドン引きしていた。


「この子ってば、秘蔵っ子だから外に出してもらえなかったのよね。初めての国外で羽目を外しているみたい」


「セイリア殿下、彼女はいったい……」


 セイリアに近寄り、ダレンが尋ねた。

 あれほどの魔法部隊を有していたことも驚きだが、幼い少女がその指揮を執っていることにも輪をかけて驚かされる。

 いったい、彼女は何者なのだろうかと問いかけた。


「あの子の名前はアルクス。アルクス・ラインマキナ=アマルトゥ・アルスライン。私の母親違いの妹で、末っ子の第五皇女。まあ、嫡出子として認められていない弟妹だったら他にもいるみたいだけど……」


「帝国の皇女……エルフであるように見えますが……?」


「複雑なのよ。気にしないであげて」


「…………」


 セイリアが曖昧な笑顔で答えると、ダレンも口を閉ざした。

 これ以上の詮索は、一介の騎士でしかない自分が踏み越えて良い領域を超えている。

 自分がやるべきことは正体不明の人物の素性を調べることではない。ここは戦場、まだ決着はついていないのだから。


「お味方と判断してもよろしいでしょうか? なれば、援護させていただきます」


「もちろん。私も魔力が回復してきたからいくよ!」


「それでは……全軍、反撃せよ! 魔法部隊を援護してアンデッド兵を殲滅しなさい!」


 ダレンがザイン王国軍の兵士をまとめ上げ、アンデッド兵に突撃する。

 妖精戦団によって二の足を踏んでいたアンデッド兵を次々と討ち取って、敵の数を減らしていった。

 聖鎧の発動によって消耗していたセイリアもそこに加わる。

 連続して聖鎧を発動できる練度には達していない彼女であったが、それでも聖剣保持者であることに変わりはない。

 戦場に稲光が閃くたび、アンデッド兵の残骸である塵が舞う。


 ザイン王国軍とアンデッド軍。

 アテルナ王国を舞台とした両者の戦いは勢いを増しながら、決着へと向かっていく。

 しかし……その戦場にザイン王国軍の大将であるレイドールの姿はない。アンデッド軍の副将である『死』の騎士の姿もない。

 彼らの戦いもまた、主戦場から少し離れた場所で巻き起こっていたのである。


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挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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