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235.妄執

明けましておめでとうございます。

旧年は皆様の応援のおかげで書籍2巻を発売。コミカライズもすることができました。心より感謝を申し上げます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。


(馬鹿な……このワシが、敗北するじゃと……?)


 ネフェルテの攻撃によって頭部を両断され、ガルボラスの巨体がゆっくりと倒れていく。

 聖剣による渾身の一撃は不死者であるはずのガルボラスにとっても致命傷である。このまま死は避けられないだろう。

 薄れゆく意識の中、ガルボラスの脳裏に浮かんでくるのは主人であるオスマンのことだった。


(ワシはオスマン様の側近。ワシの敗北はオスマン様の敗北。偉大なる女王陛下の恥となるようなことはあってはならぬ。ならぬのじゃ……!)


 ガルボラスは『終末の四騎士』の最古株であり、千年以上もオスマンに仕えている忠臣であった。

 そんなガルボラスにとって、主人から任された命令を果たすことができずに敗北するなど許しがたいこと。死をも上回る屈辱だった。


「許さぬ! 許さぬぞオオオオオオオオオオオッ!」


 そのまま死んでいくはずだったガルボラスはオスマンへの底無しの忠誠心を原動力にして、最後の力を振り絞った。

 倒れ、崩壊していく肉体から瀑布(ばくふ)のように大量の魔力が(あふ)れていく。


「誰も生かしては帰さぬ! 全部全部、消え去ってしまえ!」


「む……!」


「え……?」


 ガルボラスの最期を見届けていたジャスティとネフェルテが同時に表情を変える。死に体であるはずの巨人からありえない力が流れ出る。


「どこにこんな力が……不味い!」


「遅いわ! 餓鬼があっ!」


 ジャスティが今度こそトドメを刺すよりも先に、ガルボラスが魔法を発動させた。

 不死であるはずの『終末の四騎士』、その魂を燃焼させて生み出された最期の魔力が使役されていたアンデッドに宿っていく。


「「「「「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」」」」」


「「「「「カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタッ!」」」」」


「ぐわあっ!?」


「何だ!? 急にコイツ、強くなって……ガッ!?」


 ガルボラスの命と魂、そして憎しみと執念が込められたアンデッドが急に戦闘能力を増していった。

 パワーとスピードが軒並み上昇して、それまで押されていたはずのザイン王国軍の兵士に反撃をはじめる。


「クッ……アンデッド兵が力を増していく……!?」


 敵将を倒したはずなのに戦況が逆転した。

 元々、兵士の数だけみればアンデッド兵のほうがずっと多かった。ザイン王国軍が戦いを優位に進めることができたのは、兵士の練度と装備が良かったからである。

 しかし、ここにきてその前提が崩壊してしまった。

 ガルボラスの魂をかけた強化効果を受けたアンデッド兵が飛躍的に能力を向上させて、ザイン王国軍を圧倒するようになったのだ。

 兵士一人ひとりの力量はまだザイン王国軍の兵士が優っているが……ここに来て、数の差が大きく戦況に影響するようになった。

 十万のアンデッド兵がことごとく精鋭と化したことにより、王国軍の兵士は苦戦を強いられるようになってしまったのである。


「いけない、このままじゃ……!」


 霧の翼で飛んでいるネフェルテが顔を蒼白にする。

「援護しなくちゃ」とダガーを構えるが、次の瞬間、背中の翼が揺らいだ。


「あ……!?」


 霧の翼が霧散して消えていく。浮力を失ったネフェルテの身体が地面めがけて真っ逆さまに落ちていく。


「危ない! ネフェルテ殿!」


 咄嗟にジャスティが落下点に滑り込み、ネフェルテの身体をキャッチする。


「う、ぐ……すまない、ジャスティ殿……」


「ご無事で何より。それよりも……」


「く……情けない。まさかここにきて魔力切れだなんて……!」


 聖剣ミストルティンに魔力を込めようとするが、身体からは指先ほどの力も湧いてこなかった。

 いかに聖剣に選ばれた英雄であったとしても、人間であることには違いない。無限の魔力を有しているわけではない。

 ましてや、ネフェルテは聖剣保持者になってから日が浅く、心身共に未熟である。魔女オスマンの側近……『終末の四騎士』の一角を一撃で斃しうる力を振り絞ったことにより、魔力を全て使い果たしてしまったのだ。


「無理を成されるな。魔力を使い過ぎれば、魂がすり減ってしまいます……あのように」


 ジャスティの視線の先ではガルボラスの巨体が塵となり、そこから溢れ出た魔力がどんどんアンデッド兵に吸い込まれていく。

 文字通りに魂をかけた最期の悪あがきにより、有象無象の不死者は生え抜きの精鋭へと変わっている。


「カタカタカタカタカタカタカタッ!」


「ムンッ!」


 ジャスティが機敏な速さで飛びかかってきたスケルトンの頭部を槍で砕く。先ほどまでとは比べ物にならないスピードである。


「ジャスティ千騎長! ここも長くは保ちません!」


「敵の数が多すぎます! このままでは……!」


 配下の兵士がアンデッド兵に応戦しながら、焦ったように言ってくる。

 ジャスティ率いる決死隊は現在進行形でアンデッド兵に取り囲まれつつあった。先ほどまでならば練度の差でどうにかできたのだが……強化されたアンデッド兵を前にして、刻一刻と押し潰されそうになっている。


「……私が全力で時間を稼ぐ。ネフェルテ様だけでも逃がすのだ」


「ジャスティ殿!?」


 ジャスティのつぶやきにネフェルテが大きく目を見開いた。

 暴れるネフェルテの抵抗を無視して、ジャスティが若い騎士にその身体を託す。


「私が活路を築く。お前はネフェルテ殿下を逃がして、レイドール殿下と合流するのだ」


「ジャスティ千騎長……了解いたしました」


 若い騎士が頷いた。

 本心では自分達だけ逃げるだなんて拒否したかったが、ジャスティの目にゆるぎない色を見て取ったのだ。

 問答している時間はない。騎士がネフェルテを抱えて、馬の手綱を握りしめる。


「い、いけない……ジャスティ殿、逃げるのなら一緒に……」


「ネフェルテ殿下。私と貴殿では命の重さが違います」


 縋るようなネフェルテにジャスティが淡々と答える。


「千騎長とはいえ、私は一人の騎士にすぎません。死ぬことすらも任務に含まれている。けれど……貴殿は違います」


「…………!」


「生き残り、アテルナ王国を復興するという任務があるはず。それに聖剣保持者である殿下を失うことは人類にとっての損失。あって良いことではありませぬ!」


「だが……!」


「ゆかれよ、ここは騎士の戦場! 命を賭してこの場を収めて御覧に入れましょう!」


 ジャスティが槍を地面に叩きつける。破裂した大地の破片がアンデッド兵を薙ぎ倒して道を作る。

 築かれた活路をネフェルテを抱えた騎士が駆けていく。ジャスティは追いかけない。

 ただ周囲のアンデッド兵を引きつけて、決死の戦いを続ける。配下の騎士も同じく、指揮官と一緒に武器を振るう。


「いざ参らん! 千騎長ジャスティ・オイギストがここに在りと知らしめん!」


「ジャスティ殿……!」


 騎士に抱えられたネフェルテが手を伸ばす。

 しかし、その手は届かない。ネフェルテの瞳から涙がこぼれる。


(僕はまた無力だ……肝心な時に何も守れないだなんて……!)


 アテルナ王国を失った時のように。父を失った時のように。仲間を失った時のように。

 またしても、ネフェルテの手から大切なものが消えていこうとしていた。


「ジャスティ殿……」


 ネフェルテが抱きかかえられたまま、項垂れる。

 聖剣保持者になっても変わらない。仇討ちを果たしても変わらない。

 結局、自分はまだ弱いネフェルテのままだったのだ。


「ッ……!」


 だが……直後、轟音が轟いた。

 空から降りそそぐ雷。閃光がその場にいた全員の目を()いた。


「な……!」


「は……?」


 時間が停止したように、ザイン王国軍の兵士が凍りつく。

 戦闘中だというのに、揃いも揃って無様に固まってしまった。


「こ、これは……まさか……」


 しかし、その隙をついてアンデッド兵が襲いかかってくることはなかった。

 何故なら……たった一瞬。閃光が走り抜けたわずかな時間で、ザイン王国軍と交戦していたアンデッドが大量に消滅する。


「大丈夫、もう大丈夫だよ!」


 そして、雷光に遅れて場違いなほど明るい声が響き渡る。


「だって私が来たから! 帝国皇女改め冒険者セイリア。ここに参上!」


 堂々と言い放ち、金髪をなびかせた美女――セイリア・フォン・アルスラインは能天気に笑いかけてきたのであった。


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