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233.もう一つの決戦

コミカライズ連載開始いたしました。どうぞよろしくお願いします!


一迅社プラス

https://ichijin-plus.com/comics/73389384892658

挿絵(By みてみん)


 ザイン王国軍とアンデッド軍がぶつかり合う一方、戦場から少し離れた荒野にて二人の男が真っ向から相対していた。

 男達は視線をぶつけて火花を散らせ、静かに睨み合っている。


「…………」


「おいおい……人を誘い出しておいてだんまりかよ。ひょっとして、声を出す機能を主人から与えられていないのか?」


 目の前にいる男から視線を外すことなく、向かい合っている男の一方――レイドールが(うそぶ)いた。

 口調こそ軽いものであったが……レイドールの瞳にはわずかな油断もない。相手の一挙一動を見逃すまいと警戒している。


 レイドールがあえて戦場から離れて、荒野までやってきたのには理由があった。

 城壁の上に構えていた敵将らしき男の一人……おそらく、『終末の四騎士』の一人であろう褐色肌の男が視線で挑んできたからである。

 距離は離れていたが……視線が交わった瞬間、レイドールは理解した。

 あの男は危険だ。生かしておけば、戦況を根底からひっくり返しかねない強敵であると。この戦場から最優先で排除せねばならないと。


(この男を殺すことができるのは俺だけだろうな。下手に戦場を引っかき回されたら余計な被害が出る。誰にも邪魔されずに仕留めさせてもらおう)


 幸い、軍の指揮は部下に任せてある。経験の浅いレイドールが指揮を執らずとも、彼らがいれば十分軍を回して戦うことができるだろう。

 レイドールは褐色肌の男からの挑みかかるような視線に受けて立つことにして、共に戦場から離れて荒野に移動したのである。


「……女王オスマンが騎士の一人。『死』の騎士ザン=シャ」


 褐色肌の男が短く名乗った。

 予想通り、『終末の四騎士』の一人だった。


「『死』の騎士か……ネイミリアが言っていた。敵の首魁であるオスマン以上に警戒するべき敵であると」


 レイドールが目を細めて、ザン=シャと名乗った男の腰に差さっている剣に視線を向けた。

 あの剣こそが魔女オスマンによって生み出された魔剣――『ゲイボルグ』。

 かつて兄王グラナードが『光』の魔女から与えられたブリューナクと同等の力を有している魔性の剣である。


(そして、魔剣を佩いているのは大昔の英雄。その亡霊……厄介だな)


 ザン=シャという男のことをレイドールは何も知らない。

 知らないが……戦場で相まみえた瞬間に理解できた。あの男がとんでもない力量を有した無双の剣士であることを。

 グラナードのように戯れで魔剣を与えられたのではない。なるべくして魔女の使徒となり、魔性の剣の担い手となった不世出の英雄であることを。


(兄貴……グラナードは武術に関してはからきしの実力だった。それでも、ブリューナクを手にしたことでとんでもない力を手に入れた)


 ならば、ただの人間であった頃から英雄に足る力を持っていた人間が魔剣を手にしたのであれば、どれほどの実力になるのだろう?

 少なくとも、グラナードを凌ぐ戦闘能力を有しているのは確実である。


「……聖剣に選ばれし者よ。ルールーブとウィルフレッドを(しい)したのは貴殿か?」


「…………?」


「我が同胞はどのようにして死んだ? 何事か言い残したか?」


「同胞……ザイン王国に攻め込んできたあの二人の騎士か」


『疫病』の騎士――ルールーブ。


『飢饉』の騎士――ウィルフレッド。


 ルールーブはレイドールが討ち取った。

 ウィルフレッドを追い詰めたのはレイドールではないが……最終的にトドメを刺したのはレイドールである。

 仇というのであれば、それはレイドールで違いない。


「悪いが……死人の言葉をいちいち憶えているほど記憶力は良くないんでね。だが、二人の騎士を討ち取ったのは俺で間違いないと保証しよう」


「そうか……ならば良い。安心した」


 ザン=シャが頷いて、腰の剣に手をかけた。

 ゆっくりと鞘から抜き放つと……片刃の反り返った刀身が露わになる。

 弯曲したその剣は刃から不気味な紫色のオーラを放っており、気の弱い者であれば目にしただけで震えが止まらなくなることだろう。


「良かった……貴殿が同胞の仇で」


「…………」


「恨みも因縁も無き相手を殺さねばならないのは悲しいからな。貴殿と斬り結ぶ理由があって、本当に良かった」


「殺すのが悲しいか……随分と優しい言葉を吐くんだな。『死』の騎士ともあろう者が」


 レイドールもまた腰の剣を握りしめ、鞘から抜き放つ。

 漆黒の瘴気を纏った聖剣が解き放たれた。『呪い』の聖剣――ダーインスレイヴである。


「……『死』とは万物に公平なものだ。誰にでも平等に降りかかる。たとえそれが聖剣に選ばれた英雄であろうともな」


「ああ、違いない。だが……一つだけ、忘れていることがあるな」


 レイドールは皮肉そうに唇を歪めて、ダーインスレイヴの切っ先をザン=シャへと向けた。

 身の毛もよだつような瘴気がダーインスレイヴの周囲を逆巻き、早く戦わせろと訴えてくる。かつてない強敵を前にしたことで相棒の聖剣もまた興奮していた。


「『死』は公平。ならばお前にだって平等に与えられるべきものだろう? 自らが『死』を司る存在であると考えているのならば勘違いだ。今、この瞬間から俺がお前の死神だ。この剣がもたらす絶対の死から逃れられるだなんて思うなよ?」


「そうか……ならば、始めよう。どちらが死を制するにふさわしき者か。この一刀を持って証明するとしよう」


 これ以上、言葉はいらない。

 すでに両者ともに剣を抜いている。あとは戦って語り合うだけである。


 レイドールとザン=シャ。

 聖剣に選ばれた英雄と、魔剣に魅入られた英雄。

 いずれも無双の使い手。有象無象と隔絶する稀代の戦闘者。

 ザイン王国軍とアンデッド軍が熾烈な戦いを繰り広げている王都から離れた荒野にて、もう一つの決戦が巻き起ころうとしていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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