226.彼女とギルド
トロールを倒して捕まった村人を救出したセイリアは、そのまま依頼を受注したギルドまで帰還した。
森の外まで村人を送っていったため時間がかかったが……瞬間移動が使えるセイリアにとって移動時間はないも同じ。
今朝に依頼を受注して、その日の夕刻にはギルドに帰ってくることができた。
「あ、セイリアさん! 大丈夫でしたか!?」
セイリアがギルドの建物に入るや、顔見知りの受付嬢が走り寄ってきた。
茶色の髪を後ろで結んだ小柄な女性。年齢はセイリアと同じくらいである。
「ただいま、ルーシャ! 見ての通り怪我はないわよ!」
「よかった……それで村人は? トロールに攫われた人達は無事だったのですか?」
セイリアがトロールの集落に攻め入った理由は、ギルドから緊急で依頼が入ったからだ。
森の近くにある村がトロールによって襲われ、村人が攫われてしまったので救援に行って欲しいという依頼である。
依頼を受けてすぐに急行したセイリアであったが……トロールの集落に到着した時には、攫われた村人の半数が命を落としていた。
「半分も助けられなかった……だけど、生きている人は村に送り届けてきたよ」
「そうですか……」
セイリアが表情を暗くして報告すると、受付嬢のルーシャもまた沈痛な面持ちになった。
「まさかあんな場所にトロールが出るなんて……最近、増えていますよね。魔物の被害が」
ルーシャの言うとおり、最近になって魔物の出現が増大していた。
元々、魔物が多く生息している地域でも明らかに魔物が強化されたという報告が上がっており、冒険者のみならず騎士団までもが討伐に駆り出されている。
「魔物の大量発生……あの地震、ううん、赤い月の夜からだね」
セイリアが唇を噛む。
聖剣保持者であるセイリアは魔物増加の原因を知っていた。
『魔女の復活祀』と呼ばれる赤い月の夜を経て、『破滅の六魔女』が復活したからである。
(ネイミリアは良い子だったけど……他の魔女はやっぱり人間の敵なんだよね。あの地震だって魔女の一人が起こしたって話だし、やっぱり見つけたら戦わなくちゃ……!)
セイリアは心中で覚悟を固める。
ネイミリアという魔女と和解して友人になったが……他の魔女とはそうもいかないだろう。
仮に帝国軍や王宮と距離を置いたとしても、いずれは聖剣保持者としての義務を果たす時がやってくる。
破滅の魔女を倒して人類を救う。セイリアはそのためにクラウソラスに選ばれたのだから。
「あ……そういえば、セイリアさん。留守中にセイリアさんに会いたいって人がギルドに来たんですよ。王宮から来たらしくて……」
「また騎士団の人達かな? まったく、本当にしつこいんだから!」
父である皇帝ザーカリウス・ヴァン・アルスラインからは放任されているものの、セイリアのことを王宮に連れ戻そうとしている人間は多かった。
瞬間移動を使ってあちこちのギルドを渡り歩いて撒いてはいるが……たまに勘の良い者が居場所を嗅ぎつけてギルドや宿に押しかけてくるのだ。
(この町からも移動しなくちゃいけないかな? 食べ物も美味しくて気に入ってたんだけど)
セイリアはそっと溜息をつく。
王宮からの使いと顔を合わせれば面倒になるだろう。今日はもう夕暮れだし、明日には旅支度を整えて町を出ようと決意した。
(泊まっている宿は抑えられているかもしれないし、今晩はルーシャの家に泊まらせてもらおうかな? もう夕方だし、ギルドにまではこないよね?)
そんなふうに思案するセイリアであったが……彼女の予想に反して、背後でギルドの門が開かれた。
入ってきたのは帝国騎士団の鎧に身を包んだ兵士達。そして、エメラルド色の髪と蒼穹の瞳を持った一人の少女である。
「おお! 見つけたぞ、姉上よ!」
「ええっ!? 貴女は……」
「まったく……こんな辺境の町で冒険者活動とは恐れ入る。帝国中を探し回ることになるかと思いましたぞ!」
現れたのは見知った相手。セイリアの腹違いの妹。
皇帝ザーカリウスとエルフの女性の間に生まれた混血児。
帝国第五皇女――アルクス・ラインマキナ=アマルトゥ・アルスラインだった。




