225.彼女の戦い
「ヤアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「グフォオオオオオオオオオオオオオオッ!?」
セイリアが裂帛の気合と共に聖剣を振り抜いた。
聖剣クラウソラスから放たれた雷撃が数体のトロールを薙ぎ払い、まとめて焼き払う。
「帝国式聖剣術――【雷電】!」
「グフォオオオオオオオオオオオオオオッ!?」
敵地にて始まったセイリアとトロールの戦いであったが……それはもはや『戦闘』と呼べるものではなくなっていた。
三メートル近い巨体の怪物であるトロール。二十体はいるその怪物の群れをセイリアが追いかけては焼き払い、追いかけては斬り裂く……その繰り返しである。
最初こそは抵抗していたトロールであったが、現在は完全に防戦一方を通り越して逃げ惑うだけとなっている。
数百キロの体重を持ったトロールにとって、人間という生き物は敵ではない。追いかけて捕まえ、食べるだけの獲物だった。
時折、金属製の甲殻を身に纏った亜種がいるものの、よほどのことがない限りは負けないはず。
だが、目の前にいる敵――セイリアはトロールらがこれまでトロールらが狩ってきた人間とは明らかに異なっていた。
鎧や兜は身に着けていない。身体も小さくて、とてもではないが戦えるような体格には見えなかった。
むしろ、肉質も柔らかそうで極上の食材に見えるはずなのに……気がつけば、狩られているのはトロールの方だった。
セイリアが剣を振るたびに仲間のトロールが斃れていく。
巨体のわりにすばしっこい動きで逃げ出そうとする者もいたが、瞬く間に飛んできた雷撃に撃ち抜かれて動かなくなってしまった。
初めて人間という生き物の恐ろしさに触れたトロールは、すでに片手の指の数ほどまで減っている。全滅するのは時間の問題だろう。
「グヘエッ!」
しかし、一匹のトロールが思いついた。
セイリアが何のために自分達の集落に飛び込んできたのか、その原因を察したのである。
「グヒャアッ!」
「ヤアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
トロールが檻の中から人間を引きずり出して盾のように構えた。人質にされてしまったのは十歳前後の幼女である。
「……人質を取るんだ。小賢しいというか、本当にムカつくよね」
年端もいかない女児を盾にしたトロールに、セイリアが不愉快そうに目を細める。
すでに人質を取ったトロール以外は討伐されていた。残すところは一匹なのだが……醜悪に顔面を歪めたトロールは、幼女を腕に掴んだまま後ずさって逃げようとしていた。
「人質を離しなさい……とか言っても無駄だよね。言葉が通じているかもわからないし、貴方達に慈悲なんてないことはこの場所を見てみたらわかる」
セイリアの声はいつになく静かだったが……内心は怒りに荒れ狂っていた。
人間を文字通りに喰いものにするトロールの所業は許せるものではない。もちろん、自然界が弱肉強食で他の動物を食べることが悪だとは思っていないが……そんな理屈はセイリアの頭にはなかった。
人々を苦しめている魔物は倒す。それが現在のセイリアの信じる正義。
ザイン王国で様々な経験を経たうえで導き出した、自分だけの真実なのだから。
「もう殺すよ。悪く思わないでね」
「グヒャアッ!?」
「帝国式聖剣術――【瞬雷】!」
バチリと一瞬雷光が閃いたかと思えば、セイリアがトロールの背後に瞬間移動していた。
驚いて困惑しているトロールの背中に聖剣を突き刺し、そのまま胸部まで貫通させる。
「グ……フォ……」
セイリアの一撃はトロールの心臓を正確に射貫いていたが……巨体通りの生命力を持ったトロールはただでは絶命しなかった。
最後の力を振り絞り、せめてもの抵抗として人質として捕らえている幼女の身体を握りつぶそうとする。
「させないよ!」
「グオオオオオオオオオオッ……!?」
だが……できなかった。
突き刺したクラウソラスから雷が放たれ、トロールの全身を貫いた。
精密にコントロールされた電流はトロールの体内だけを駆け抜け、手の中にある幼女には少しも流れようとしない。
それどころか、電流によって腕の筋肉が収縮して握り潰されてしまわないように配慮までされていた。『伸筋』と呼ばれる関節を伸ばす筋肉だけを正確に刺激し、捕らわれた少女を解放したのである。
「きゃっ!」
「おっと! 危ない、危ない!」
トロールの腕から解き放たれて落下する幼女をセイリアが受け止めた。瞬間移動による目にも止まらぬスピードで。
「あなたは……」
「ごめんね、助けに来るのが遅くなって……もう大丈夫だよ」
「うっ……」
「よしよし……」
セイリアが頭を撫でてあげると、幼女の瞳から堰を切ったように涙があふれ出る。
胸にしがみついて泣きわめく幼女をあやしながら……セイリアは他の村人を救い出すべく、トロールが作った檻に向けて歩いて行った。
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