224.彼女の生き方
セイリア・フォン・アルスラインは帝国皇女である。
『雷』の聖剣保持者としてザイン王国との戦争に参戦していた彼女は、戦いに敗れて捕われの身になってしまう。
捕虜になったセイリアは自分を倒した聖剣保持者――レイドール・ザインと共同生活を送ることになり、生まれて初めての出来事をいくつも経験することになった。
善かれ悪かれ……戦士としても女としても様々な経験を積んだセイリアは、ザイン王国とアルスライン帝国の間で和睦が結ばれたことで故郷に帰ってきた。
敗北したセイリアは相応の罰を受けることも覚悟していたのだが……意外なことに、帰国した彼女にお叱りはない。
それどころか……ザイン王国との友好関係を結んだ立役者として称賛され、勲章まで与えられたくらいだ。
察するに、帝国軍が格下の小国を相手に敗北したという事実をなかったことにしたいのだろう。
虎の子である聖剣保持者まで出しておいて敗北したなど、公にすれば民に不安が広がることになってしまう。
かくして、アルスライン帝国に帰国したセイリアはしばしの間、皇女としての生活に戻ることになった。
貴族の子女との茶会に参加したり、ドレスで着飾ってパーティーに出席したり。本来、皇女としてあるべき姿に戻ったセイリアであったが……彼女の中にあるのは虚しく開いた心の穴である。
「こんなことをしていられない……私は聖剣に選ばれた英雄なんだから! 少しでも世のため人のためになるように剣を振らないと!」
などと宣言して……セイリアは父親の許可を待つことなく王宮を飛び出した。
セイリアが向かったのは冒険者ギルド。ザイン王国にいた頃には幾度となく利用していた、魔物退治の専門機関である。
ギルドの門を叩いたセイリアは精力的に活動した。次々と困難な依頼を引き受けては帝国中を駆け回り、人々を苦しめる魔物を討伐していった。
もちろん、城を出奔して危険な魔物退治をしている皇女を王宮の人間らは連れ戻そうとしている。
だが……雷光を身に纏って縦横無尽に飛び回ることができるセイリアを捕らえられる者は皆無である。
父にして皇帝であるザーカリウス・ヴァン・アルスラインが「ほっとけほっとけ!」と娘の暴走を大笑いしていたこともあって本格的な捜索もできず、セイリアの魔物討伐の旅は半ば公認されている状況となっていた。
セイリアが冒険者の道を選んだのには大きく二つの理由がある。
一つ目は短期間とはいえザイン王国で冒険者として活動したことで、いかに人々が魔物によって苦しめられているのか知ったから。
強力な魔物は本来、レイドールが治めていた開拓都市のような辺境の地域にしか出現しないものである。
だが、近年になって魔物の出現数、活動範囲が大きく増大していた。魔物が現れたことがないような地域でも被害が生じており、人々が襲われて命を落としているのである。
苦しんでいる人々の姿を目の当たりにして、見て見ぬふりをできるほどセイリアは薄情な性格ではなかった。
冒険者として暮らした数ヵ月間は、セイリアの人生観を変えるには十分な経験だったのである。
もう一つの理由は、戦争の『正義』を見失ってしまったことである。
アルスライン帝国は『破滅の六魔女』の脅威に立ち向かうために人類の力を結集するべきだという大義を掲げて、各国に侵略戦争を仕掛けてきた。
セイリアもそれが正しいことだと信じてきた。ザイン王国にやってくるまでは。
ザイン王国で生活して人々とふれあい……彼らの生活を壊してまで帝国の正義を押し付けることが、本当に正しいことなのかという疑問がセイリアの心に芽生えたのである。
また、敵国の王族であるレイドール。そして、宿敵である『破滅の六魔女』の一角であるネイミリアと一つ屋根の下で暮らしたことにより、それまでの価値観が根底から覆されてしまった。
『帝国の正義』のために聖剣を振るうことが正しいことであると信じきれなくなってしまったのだ。
懊悩し、葛藤し、迷って苦しんで後悔をして……結果、セイリアは自分自身の正義を貫く道を選択した。
誰かに強制されたのではない。自分自身で剣を振るう理由を見出した。
すなわち……冒険者として、人類の敵である魔物と戦う未来を選んだのである。
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