22.兄弟の対面
翌日、レイドールは王宮から迎えにやって来た文官とともに王宮へと向かった。国王となった兄、グラナードと謁見するためである。
国王との謁見ということもあってメイドであるネイミリアは連れていくことができず、屋敷に残していくことになった。
しかし、いざという時のためにレイドールの影の中にはネイミリアが生み出した影の使い魔が潜んでおり、荒事になった場合に城からの脱出を援護をすることになっていた。
「お待たせいたしました。それでは謁見の間までお通りください」
レイドールはグラナードの準備が整うまでと応接間に待たされていたが、しばらくして謁見の間まで通された。
「レイドール・ザイン王弟殿下が参りました」
レイドールが謁見の間に入ると、部屋の最奥には玉座に腰かけた男の姿があった。
その左右には側近の臣下が居並んでおり、不安や希望、敵意、困惑、様々な感情をレイドールへと向けてきている。
「…………」
レイドールは無言のまま玉座の前まで進み出て、片膝をついて頭を下げた。
「面を上げよ。レイドール」
「はっ」
グラナードが重々しい口調で言い、レイドールは兄の言に従って頭を上げる。
見上げる先、レイドールよりも一段高い場所に座っている男こそがグラナード・ザイン。
レイドールの腹違いの兄であり、聖剣『ダーインスレイヴ』の保持者となった弟を王都から追放した張本人である。
(……少し痩せたか)
玉座に腰かけてこちらを見下ろすグラナードに視線を向けながら、レイドールはぼんやりと頭に思った。
十歳年上の兄はレイドールの記憶にあるよりも少しやつれた姿をしており、頭にも若干白いものが混じりはじめている。
(国王というのはずいぶんと苦労する職業なんだな。あの兄貴が若白髪とは)
クスリと口元に笑みが浮かびそうになるのを堪えて、レイドールは王の言葉を待つ。
グラナードはしばし無言でレイドールを見下ろしていたが、やがて厳かに口を開いた。
「よくぞ来てくれたな、レイドール。我が弟よ」
「はっ、お久しぶりでございます。国王陛下」
「ふっ……他人行儀な話し方をしてくれるなよ。たとえ王となっても我らはたった二人の兄弟なのだ。昔のように呼んでくれればよい」
「そうですか、ではお言葉に甘えまして……兄上」
すう、とレイドールは息を吸って昂りそうになる心を抑える。
(他人行儀だと? たった二人の兄弟だと? その兄弟を問答無用で追放しておいて、なにを白々しいことを言いやがる)
「父上の葬儀に参加することができず大変申し訳ございません。王となった兄上を支えることができなかった無力な弟をお許しください」
「よいのだ。お前は南の開拓都市で魔物を抑えるという役割を見事に果たしてくれた。活躍ぶりは王都まで届いているぞ。さすがは我が弟だ」
「もったいない言葉でございます」
レイドールとグラナード。二人の兄弟は口に笑みを浮かべながら朗らかな様子で会話を続けていく。
周囲で見守っている家臣は追放された弟王子と兄王の再会がさぞや殺伐としたものになるだろうと予想していたのだが、思いのほかに和やかに会話をする二人を見て胸を撫で下ろした。
しかし、そんな二人の姿に宰相であるロックウッド・マーセルだけは土を噛んだように渋い表情になっていた。
(なんということだ。まさか二人の仲がこれほどこじれていようとは)
謁見を見守っている家臣のほとんどは気づいていないが、先ほどから玉座に座るグラナードも、その前に膝をついているレイドールも、どちらもまったくといっていいほど目が笑っていないのだ。
どれほど口調は柔らかく会話をしていても両の眼は敵意を剥き出しにしており、相手を斬りつけるように睨んでいる。
(レイドール殿下が国王陛下を恨んでいることは想定の範囲内だ。しかし、まさか陛下までもがこれほどまでに殿下に屈折した感情を持っていようとは……)
先王バーナードの第一王子として生を受けたグラナードであったが、彼は幼い頃から聖剣保持者であった初代国王に深い尊敬の念を抱いていた。
いずれは自分も聖剣に選ばれて中興の祖として国をさらなる繁栄に導きたい――そんな大志を抱いて王太子としての教育を受けてきたのだ。
そんなグラナードが聖剣ダーインスレイヴの保持者となったレイドールに対して嫉妬の感情を抱いていることを、傍で支えていたロックウッドは気がついていた。
レイドールが辺境に追放となったのも、病床の国王の代わりに政務を行っている第一王子と聖剣保持者となった第二王子との間で国が割れるのを防ぐという目的だけではない。
グラナードの心中で燃え盛る暗い妄執の炎が原因の一つとしてあったのである。
(それでも……先王陛下が亡くなられてグラナード陛下が即位して、すでに後継争いが起きようもないほど陛下の地位は盤石となった。レイドール殿下に対する怨嗟の念も多少は晴れたと思っていたのだが……)
どうやら、グラナードが抱いている嫌忌と嫉妬はロックウッドが想像していたよりも遥かに深いようである。
そして――間違いなく、その黒い感情にレイドールもまた気がついている。
自分を追放した兄が、今もなお自分のことを忌み嫌っている。そのことをはっきりと感じ取ったうえで、敵意の眼差しを返しているに違いない。
(はたして……これでレイドール殿下を懐柔して帝国と戦わせることができるのだろうか? そして、帝国との戦いに勝利して国難を救った後、兄弟の仲を円満に収めることができるのだろうか?)
そんなことはできるわけがない。心のどこかでそう思いながら、ロックウッドは緊張の唾をゴクリと飲み込んだ。
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