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21.王弟とメイドの新生活

本日最後の更新になりまーす!

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『お帰りなさいませ、レイドール王弟殿下』


 屋敷に入るや否や、二十人もの執事とメイドがそろって挨拶をしてきた。


「う、おお……?」


 いかにも育ちのよさそうな男女が息を揃えて頭を下げてくる姿は、ある種壮観な光景である。

王子として王宮に住んでいた頃ならまだしも、長らく辺境の田舎で過ごしてきたレイドールは思わず気圧されてしまった。


「ご主人様ー」


「ん、ああ……」


 背後に立っているネイミリアがレイドールの上着の裾を引っ張る。レイドールは頷き、気を取り直して咳払いをした。


「さて、この屋敷の主となったレイドールだが、君達の代表は誰かな?」


「私でございます。王弟殿下」


 進み出てきたのは口ヒゲを生やした執事服の男である。

 丁寧に整えられた髪とヒゲはロマンスグレーに染まっており、腰を丁寧に折って挨拶する姿からは誠実そうな人格がにじみ出ている。


「見た顔だな。たしか、王宮で働いていたよな?」


「はい、お久しぶりでございます。グラナード陛下付きで働いておりましたサラウィンと申します」


 執事――サラウィンは口元を緩めてレイドールに笑いかける。

 穏やかで落ち着いた雰囲気は5年前と変わらない。レイドールは幼少時、兄が開いた茶会でサラウィンからお菓子をもらった時のことを思い出した。


「そうか、サラウィンだったな。久しぶりだな」


「またお会いすることができて光栄でございます。よくぞ戻られました」


「ありがとう、ところで……一つ相談というか、ここにいる全員に連絡することがあるんだが」


「はあ? なんでしょうか」


 怪訝そうな表情になるサラウィンに、レイドールは口を三日月形にして笑いかける。


「ここにいる全員、クビだ。今すぐ出ていってくれ」


「は……?」


 あまりにも予想外の言葉にサラウィンの表情が凍りつく。その後ろに居並ぶ他の使用人もざわつき始める。


「わ、私どもになにか問題がありましたでしょうか? あるようでしたら……」


「問題なんて別にない。必要ないから出て行けって言ってるだけだ」


 取り付く島もなくレイドールが断じる。

 サラウィンは戸惑いがちに視線を左右に迷わせながら、なおも言い募る。


「この屋敷は見ての通りの広さでございます。そちらのメイド一人では掃除もままならないかと思いますが……」


「それはお前が心配することじゃない……言い方を変えようか。俺が信用しているのはここにいるネイミリアただ一人だ。他の人間を傍に置くつもりはない」


「それは……」


 お前たちは信用できない。

 だから出て行け。


 言外にそう言われて、サラウィンが屈辱に表情を歪める。

 老執事はしばらくレイドールとネイミリアを恨めしそうに睨みつけていたが、やがて諦めたように溜息をついた。


「……承知いたしました。このことは私のほうからグラナード陛下にお伝えしておきます」


「そうしてくれ、ご苦労さん」


 レイドールはヒラヒラと手を振って扉から出て行く使用人を見送った。サラウィンを先頭に使用人が屋敷から出て行く。彼らの表情には一様に戸惑いが浮かんでいる。

 やがて全員が出て行ったのを見計らい、ネイミリアを振り返った。


「……屋敷を調べろ。片隅までだ」


「かしこまりました。ご主人様」


 ネイミリアはエプロンドレスの裾をつまんで恭しく了解の言葉を返す。


「【影獣使役シャドウ・サーヴァント】」


 ネイミリアの影がグニャグニャと形を変えて人型を形作る。

 影から現れたのはメイド服の女達である。黒髪に黒い肌。まるで闇を練り固めたようなメイド達の顔には目も鼻もなく、卵のようにツルツルとしている。

 彼女達は当然ながら人間ではない。影の中に棲み、影から生まれる、ネイミリアの使い魔であった。


「屋敷の中を探索。危険な物がないか、誰か潜んでいないか確認してちょうだい。手の空いている者は屋敷内の物資を確認。特に衣類や食料品は念入りに」


了解イエス女主人マム


 十人ほどの影メイドは滑るような足取りで屋敷のあちこちに散っていく。

 影から生み出された彼女達はあらゆる隙間に入り込むことができ、屋敷の細部まで探っていく。まさにアリの入り込む隙間もなく探索する使い魔に、ネイミリアは満足そうな顔で頷いた。


「さて……それではご主人様はゆっくりとお休みくださいませ。屋敷の管理、雑事は全て私にお任せください」


「ああ、頼りにしている」


 力強い言葉の通り、ネイミリアはたった一人で広い屋敷のすべてを管理して見せるだろう。

 かつて世界を滅ぼしかけた魔女は、今では立派なメイドとなっていたのであった。



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