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187.飢餓の騎士

2日連続投稿になります!

読み飛ばしにご注意ください!


「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 一方、ルールーブが征く南側の街道から離れた北側の街道では、少年の姿をした怪物が怒りの叫びを上げている。

 ガリガリに瘦せ細ったメガネの少年――その正体は『終末の四騎士』の一人である『飢餓』の騎士ウィルフレッドだった。


「僕の呪いが消された! こんなことができる奴はアイツしかいない……『闇』の魔女ネイミリア! あのクソッタレな裏切り者も復活してたのか!」


 ウィルフレッドもまた己の術が消されたことに気がつき、ルールーブと同じように背後にネイミリアの影を感じ取っている。

 主君であるオスマンの妹でありながら、裏切って聖剣保持者に与したネイミリア――その存在を悟ったことで、普段は飄々としている少年は激しく怒り狂っていた。


「殺してやる。殺してやる……! 手足をもぎ取って内臓をえぐり出し、この世のありとあらゆる痛みを与えてから殺してやるからな! オスマン様を裏切って殺しておいて、ただで死なせてやるもんか!」


「カタカタカタ……」


 激昂して喚き散らしているウィルフレッドに、付き従っているアンデッドも困惑していた。骸骨の兵士が居心地悪そうにカタカタと歯を鳴らし、困ったように首を傾げる。


「どこだ、どこにいるんだ……。絶対に近くにいる。近くにいなくちゃいけないんだ。そうじゃなくっちゃ、アイツの皮を剥いでやれないじゃないか……!」


 少年騎士は怒りのあまり理性を失い、ブツブツとつぶやきながら自分の爪を歯で噛んでいる。

 指揮官が立ち止まったことで不死者の軍勢もまた動きを止めることになり、無数の骸骨や腐乱死体が所在なさげに左右に身体を揺らしていた。


「……そうだ。考えによってはラッキーじゃないか。『戦争』のお爺ちゃんよりも先に、『死』の兄さんよりも先に、あの忌々しい裏切り者を始末できるんだから。僕が誰よりもオスマン様の役に立つことができるんだって証明できるんだ。最高じゃないか」


 ガリガリと爪を噛みながら、ウィルフレッドは譫言のように言葉を続ける。

 激しく怒ったかと思えば急に笑い出し、また怒って、ニタニタと笑って……ある種の薬物依存者のように情緒が安定していない。


「そうさ……僕がオスマン様の一番なんだ。『戦争』のお爺ちゃんはもちろん、兄さんや姉さんにも負けない。聖剣保持者や裏切り者の魔女にだって渡すもんか。オスマン様は僕のものだ。僕だけの女王様なんだ……! だから、僕が守るんだ。僕が誰よりもたくさん敵を殺して、僕が一番だって証明するんだ……!」


 噛みすぎた爪が割れ、皮膚が千切れた指先からは血が流れ落ちるが……まったく気にする素振りもなくウィルフレッドは譫言を続ける。


 ネイミリアの存在に感づいてからずっとこの調子である。

 半日以上も進軍が止まっているが……周囲にはアンデッドしかおらず、そのことを指摘する人間はいなかった。


 だが……唐突に事態が動き出す。

 どこからか飛来してきた弓矢がウィルフレッドの頭部をかすめ、すぐ背後にいた不死者に突き刺さったのである。


「…………あ?」


 矢に射られて倒れるアンデッドの兵士。

 ウィルフレッドは指を噛んでいた動きを止め、錆びついたブリキ人形のように緩慢な動きで首を巡らせて矢が飛んできた方向を見やる。

 街道の先。少し小高い丘になっている辺りに大柄な人影が立っていた。


「ム……! 外してしまったか。一生の不覚!」


 丘の上に立つ男が悔しそうにつぶやく。

 本来であれば声が届くような距離ではないが……人間ならざるウィルフレッドの鋭敏な聴覚は、大男の真面目腐った声音をハッキリと捉えていた。

 二メートルに届こうかという長身の大男の手には大きな強弓が握られている。どうやら、あの大男が弓矢を放ってきたようだ。


「…………ああ、そっか。来たんだね。あの魔女の仲間が」


 ウィルフレッドは先ほどとは打って変わって冷めた口調になり、ペロリと指から流れる血を舐めとった。


「だったら、ちゃんと殺してあげないと。仲間を殺されて不死者に変えられたら、あの色狂いの魔女も少しくらいは悔しがるよね?」


 再び、丘の上の男が矢を放ってくるが、不死者の兵士が盾になってウィルフレッドをガードする。

 周囲をアンデッドの壁に囲まれた少年騎士が両手を大きく広げ、メガネの奥で妖しく瞳を輝かせながら配下の軍勢に命じる。


「命令するよ――殺せ。ただ殺せ。とにかく殺せ。いっぱい殺せ。ひたすら殺せ。心ゆくまで殺せ……! 僕の兵士、オスマン様から与えられた死者の軍勢よ! 敵を残さず殺し尽くして、僕こそがオスマン様の一番だって証明してみせろ!」


「「「「「カタカタカタカタカタカタッ!」」」」」


 アンデッドの大群は指揮官の命令に従い、即座に行動に移す。

 丘の上に立つ大男に向けて一斉に進軍をはじめた。


「おおっ、これはなんと(おぞ)ましき軍勢か! まともにやっては敵わん!」


 大男が感嘆のような悲鳴を上げて丘の向こうに消えていく。

 逃げた敵を追って、アンデッドの群れもまた丘を登って進軍していく。


 ザイン王国西方地域。北方街道の戦い。

 ウィルフレッド率いるアンデッドの軍勢一万は、千騎長ジャスティ・オイギスト率いる五百の少数部隊と接敵したのであった。


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