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161.魔女の復活祀


「ぐうううううううっ……!」


 レイドールは床に伏せて、上下に激しく振動する地震に耐えた。

 すでにネイミリアの手によって防御魔法は発動している。床や壁、柱を黒い蛇が縦横無尽に走っており、地震による衝撃から王宮を守っている。

 地震はたっぷり十分ほど続き、ようやく振動は収まった。


「くっ……! 静まったか……!」


「ご、ご主人様、ご無事ですか!?」


「問題ない……それよりも!」


 レイドールは執務室の窓に駆け寄り、大きく開け放つ。

 眼下を見渡して地震による被害を確認する。

 ネイミリアの魔法によって王宮は守られており、被害はそこまで大きくはない。一部、壁が崩れている部分が見受けられるが、すぐに修繕できる程度の軽微な損害である。


 被害が大きいのは、王都の町のほうだった。

 十分にわたる地震によって建物がいくつも崩壊しており、霧のような砂塵が生じて王都全域をうっすらと覆っている。

 それはまるでこの世の終わりのような光景であり、町全体が死に向かっているように見えた。


「これは……何てことだ」


「ご主人様! 上、上です! アレを見てください!」


「ああっ!?」


 同じく窓に駆け寄ってきたネイミリアが、レイドールの袖を引きながら上空を指差す。

 ネイミリアの指を追って視線を上に向けると、そこには煌々と輝く満月が地上を見下ろしている。

 一見して異常なものはないが……すぐにレイドールは異変に気がついた。


「月が……紅く染まっていく……?」


 黄金に輝く満月であったが、それがゆっくりと、まるで内側から血が滲んでくるようにして紅く染まっているのだ。

 やがて月は完全な深紅に色を変える。見る者の不安を駆り立てるような鮮やかな紅い色彩が夜空を支配した。


 異変はまだ終わらない。

 深紅に染まった満月から、巨大な眼球が涙の粒を落とすようにして雫が生じたのである。

 血の涙のような紅い雫が、大地に向けてゆっくりと滴り落ちていく。

 はたして、あの雫が落ちた場所では何が起こっているのだろうか。恐怖と混乱をひたすらに掻き立てる不気味な現象である。


「ああ、何ということでしょう……とうとう、やってきてしまいました」


「ネイミリア……?」


 普段は底抜けに明るく、空気も読まずに卑猥な冗談ばかりを口にしているネイミリア。

 その端正な顔が激しい恐怖に染まっており、肩が小刻みに震えている。


「どうしましょう、ご主人様。どうやら……お姉様達が帰って来るみたいです」


「お姉様……まさか、『破滅の六魔女』か!?」


 レイドールがネイミリアの両肩を掴み、強い口調で訊ねる。ネイミリアはコクリと頷いて、青ざめた顔を夜空へと向けた。


「破滅の魔女の復活……この世の終わり。終末戦争の始まりです……!」


「っ……!」


 その言葉にレイドールは息を呑む。脳裏に帝国皇帝から言われた言葉がリフレインする。


『魔女による『大厄災』は三百年前に初めて起こったものではない。一定の周期で幾度も引き起こされているのだ』


 ザイン王国のダーインスレイヴ。帝国にある三本の聖剣――それらが一斉に保持者となるべき人間を定めたのは、魔女の復活が始まる前兆である。

 帝国皇帝ザーカリウスはそんなことを言っていた。


「まさか……本当に世界の終わりのようなのがやってくるなんてな。いや……伝説が騙りでないことは、とうに知ってるがな」


 レイドールは腰の聖剣の柄を撫でた。

 ダーインスレイヴはカチカチと鍔鳴りの音を響かせており、うっすらと瘴気を放っている。

 どうやら――この聖剣もまた宿敵の帰還を悟り、好戦的に牙を鳴らしているのだろう。


「レイドール殿下! ご無事でいらっしゃいますか!?」


 廊下からドタドタと足音が響き、ダレン・ガルストが部屋に飛び込んできた。


「先ほどの地震により城下では……」


「わかっている。言わなくていい」


 レイドールは素早く身体を翻した。

 魔女の復活は気になるところだが……今は為政者として、成すべきことを成さねばならない。


「これより王都の住民を救出する! ガレキの山を掘り起こして、埋もれている住民を助けろ! 怪我人の収容先として王宮を開放する。直ちに騎士全員を動員して取りかかれ!」


「はっ! 承知しました。すぐさま住民の救出に移ります!」


「ネイミリアは使い魔を飛ばして外敵を警戒しろ! 魔女だろうが、魔物だろうが、絶対にこの町には入れさせるな!」


「わかりましたっ! 全てはご主人様の御為にっ!」


 主君の命を受けて、ダレンが廊下を駆けて行く。

 レイドールもその背中に続き、ネイミリアもついてくる。


(伝説の魔女だろうが、この世の終末だろうが……好き勝手にさせてたまるかよ!)


 レイドールは奥歯を軋むほどに噛みしめ、まだ見ぬ敵に闘志を燃やす。


(兄貴から奪ったこの国を……父上や母上が愛したザイン王国に手を出す奴は、人間だろうが魔物だろうが、神だろうが許さない! もう二度と、俺の手の中にあるもの何一つ奪わせるものか……!)


 決然と心に誓い、レイドールは夜闇と砂塵に包まれた王都へと足を踏み出す。

 あちこちで悲鳴と怒号、怪我人のうめき声が上がる町へと……統治者としての務めを果たすべく、赴くのだった。



     〇          〇          〇



 その夜。大地を割り、地表をひっくり返すような大地震が大陸西方地域を襲った。

 いくつもの町や都市が破壊された。建物は倒壊して、城壁は崩れ落ち、一夜にして人間が暮らす町並みが一変することになる。


 災害に襲われたのは人間の生活圏だけではない。

 平原のあちこちで地割れが生じて、眠っていた火山は灼熱の溶岩を吐き出し、臨海部では津波が勃発する。


 それは三百年の時を経て起こった魔女の災厄――『魔女の復活祀』。

『大厄災』と呼ばれる世界の終末の始まりであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] いよいよ、レイドールや皇帝にとっての本敵が始動してきたか。
[一言] ここからが本番ということでしょうか。楽しみです!!
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