16.魔女と希望の光
三百年前、『破滅の六魔女』の長であったグラスリードは人類の殲滅を宣言した。そして――五人の娘魔女はそれに応じた。
六人の魔女によって大陸は火の中に放り込まれたような混乱に陥れられて、人類はあわや滅亡するところまで追い詰められてしまった。
そんな人類を救ったのは現れた十二人の聖剣保持者。そして、一人の魔女の裏切りである。
六魔女の末娘であった『闇』の魔女ネイミリアは一人の聖剣保持者と恋仲になり、愛する男のために親姉妹を裏切った。
ネイミリアの反目によって六魔女を切り崩すことに成功した当時の聖剣保持者は、次々と魔女を撃退していき、とうとうその脅威を退けることに成功した。
不死身の肉体を持つ魔女を完全に打ち滅ぼすことまでは叶わなかったものの、当時の聖剣保持者によって世界は救済されたのである。
そして、恋焦がれる聖剣保持者を支えて、その男のために家族までも敵にしたネイミリア。
彼女に与えられた報酬は愛する男からの永遠の愛………などではなく、終わることのない囚われの日々であった。
『どうして! なぜ私がこんな目に遭うのですか!?』
遺跡に鎖でつながれて、ネイミリアは叫んだ。
自分は愛する男のために家族を裏切った。すべてを捨てて、己の全存在をかけて尽くしてきたはずである。
それなのに、どうしてこんな目に遭わなければいけないというのだ。
『……わからないのか、ネイミリア』
冷たい目で吊るされた女を見上げているのは彼女が愛した男性。世界を救った聖剣保持者の一人である。
『たしかに君は他の魔女を裏切って俺達に力を貸してくれた。だけど、それで君が犯した罪が消えるわけじゃない。君が殺した人間が生き返るわけじゃない』
『え、でも……それは……』
愛する男からの糾弾に、ネイミリアは言葉を失う。言い訳の言葉を必死に探すものの、突き刺すような男の視線がそれを許さない。
言いよどんでいるネイミリアに鼻を鳴らして、男は皮肉そうに唇を歪めた。
『他の魔女のように殺さずにいてやるんだ。感謝して欲しいくらいだ』
『そんな……!』
かつて愛をささやかれた唇が鋭い拒絶の言葉を吐き出した。それを信じられない面持ちで耳にして、ネイミリアは瞳から涙をこぼす。
『君はこの場所で永遠を過ごすんだ。永遠に、終わらない懺悔をし続ける。それでようやく君の罪は濯がれる。ようやく僕の心は満たされる』
『っ…………!』
『それからもう一つ、君に教えておこう』
愛する男は遺跡から一歩外へと踏み出して、身動きのとれないネイミリアを振り返った。
『僕の生まれ故郷を滅ぼして、婚約者を殺したのは君だ。ネイミリア』
『え……』
『お前のような悍ましい魔女を愛する者などいない。お前を愛したことなど一度もない』
そう言い捨てて、男は遺跡の扉を閉じた。
遺跡が固く閉ざされて、ネイミリアは深淵の闇の中に取り残される。
『い、いやあああああアアアアア!! 置いてかないでっ、一人にしないでえええええええええええええっ!!』
ネイミリアの絶叫が闇の中にほとばしる。金色の瞳から血の涙がこぼれ落ちて、石造りの床を赤く濡らす。
かくしてネイミリアは虜囚の身と成り果て、百年の齢を重ねることになったのである。魔女であるが故において死ぬことも許されず、気の遠くなる年月を奈落の闇の中で過ごすこととなった。
「だれか、だれか……たすけて……」
そんなネイミリアの懇願は誰の耳にも届かない。
けれど――届かずとも、救いの手は差し伸べられた。
「お、開いた」
「…………え?」
唐突に、突然に。なんの前触れもなく遺跡の扉が開かれた。
数百年ぶりに石造りの建物の中に光が差し込んで、陽光の中から幼さを残した少年の顔が現れた。
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