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155/249

155.逆臣の行く末

連続投稿7日目になります。

1週間経ちましたが、もう少しだけ連続投稿を続けます!


「…………は?」


 その気の抜けた声は、誰の口から漏れたものだろうか?

 あまりにも若すぎる。いや、幼いと言ってもいい年齢の宰相に、その場にいる貴族の大部分が唖然として目を見張った。

 表情を変えていないのは、事前に話を聞いていた者達。摂政となる以前からレイドールに仕えていた側近だけである。


 固まっている貴族をよそに、レイドールはスヴェンを玉座の前へ導いて温かな言葉をかける。


「スヴェン、先代のマーセル卿は優秀な男だったからな。その後任は重責もあって楽ではないと思う。だが……お前であれば必ず俺の期待に応えてくれると信じている。頼んだぞ!」


「僕なんかにはもったいないお言葉でございます。レイドール殿下。このスヴェン・アーベイル、身命を賭してレイドール殿下にお仕えいたします!」


「お、お待ちください!」


 朗らかな様子で会話をしている主従に、焦りで動転した声がかかる。

 慌てて立ち上がったのは、自分こそが次期宰相であると疑っていなかった男――クロウリー・ローディスだった。


「どうして、そのような少年が次期宰相なのですか!? 他にもふさわしいものがいるではないですか!」


「ほう? 異なことを言うじゃないか」


 レイドールはあからさまに鼻白んだ表情になり、ローディスを冷たく見据える。


「スヴェンは由緒あるアーベイル伯爵家の嫡男。家柄は問題ない。それに――アーベイル家は帝国との戦いで最後まで降伏することなく戦い抜いた忠臣だ。その忠義に報いるのは当然だろう?」


「だ、だからといって……いくら何でも、そんな少年を宰相にするなど前代未聞ですぞ!?」


「どんなことにだって初めてはあるだろう。スヴェンの忠義と優秀さを、俺は少しも疑ってはいない。十分な能力があり、信頼もある。他に何が必要だ?」


「そ、それは……」


「それと……ローディス侯爵。俺はお前に立っていいなんて言ってないぜ? 発言だって許してはいない。お前は誰の許可を得て、俺に口を利いてんだよ?」


「っ……!」


 無礼を咎められて、ローディスが大きく顔を歪めた。慌てて床に膝をつき、首を垂れる。


「ご、ご無礼をいたしました……!」


「フッ……まあ、いいだろう。許してやる」


「……寛大なお言葉、感謝いたします」


 ローディスは絞り出すように礼を言うが、その肩は小刻みに震えている。

 無礼を咎められ、大勢の貴族の前で恥をかかされたことを怒っているのか。それとも、レイドールの不興を買ったことを恐怖しているのか。

 カツラを乗せたローディスの頭頂部をレイドールはしばし見つめていたが、すぐに他の貴族らに視線を移す。


「他にもスヴェンの宰相就任に反対している奴はいるか? 発言と起立を許してやる。異論があるなら、この場で言ってみろ。後から文句を言うのは受けつけないぜ?」


 レイドールが声を張り上げると、貴族らは戸惑いながら顔を見合わせる。

 やがて……跪いていた貴族らの何人かが、ポツポツと立ち上がった。


「わ、私は反対します」


「そうですな、いくら何でも若すぎる」


「やはり宰相となるのは、もっと熟達した者でないと」


「ですな。やはりローディス侯こそが次期宰相にふさわしい!」


「うむ、マーセル卿の後任ですからな。ローディス卿以外には務まらぬでしょう」


 レイドールに反意を示した貴族は十人ほど。もちろん、ローディスの姿もある。

 立ち上がった半数が宰相職を秘かに狙っていた者。もう半数は、事前にローディスから根回しを受けていた者だった。

 ローディスは貿易によって得た豊かな経済力により、王国北部の貴族らを掌握している。ローディス侯爵家に借金をしていたり、あるいは、賄賂を受け取ったりしている者は少なくなかった。


「なるほど……意外と少ないな。もっと大勢、反対する者がいると思ったんだがな?」


 レイドールは立ち上がって反論する貴族を見据え、口元に冷笑を浮かべた。


「そこまで言うのであれば……さっそく、スヴェンに宰相として最初の仕事をしてもらおうか。その仕事ぶりを見れば、考えも変わるだろうよ」


「…………はあ?」


 まるで獲物を見定めるようなレイドールの目に、貴族らが困惑に表情を曇らせる。

 レイドールがスヴェンを一瞥して、視線で合図を送った。小さすぎる宰相が前に進み出てきて、紙の束を取り出した。


「さて……僕が宰相となることに反対されているようですけど……まずはミラトス男爵」


「へ……?」


 突然、名指しで呼ばれ、立ち上がっていた貴族の一人が目を瞬かせる。

 四十代ほどの貴族の男は、動揺してキョロキョロと視線を巡らせてその場に立ち竦む。


「ミラトス男爵。貴方は先の戦いで、帝国と内通していましたね?」


「なっ……!」


『内通』――少年宰相の口から飛び出した不穏な言葉に、その場にいる誰もが息を呑む。

 槍玉にあげられたミラトスはもちろん、愕然として表情を凍らせる。


「ば、馬鹿な! いったい何を証拠にそんな……!」


「証拠ならありますとも。貴方が地位と領地を保障することと引き換えに、帝国に宮廷内の情報を流していたことは調べがついています。帝国とやり取りをした書状も押さえていますよ?」


「そ、そんな……なぜそれを……!」


 スヴェンの表情は子供らしく無邪気と言ってもいいものだったが、それがかえってミラトスの恐怖を引き立てる。

 スヴェンは無垢な子供がアリの行列を踏み潰すように、淡々とミラトスを追い詰めていく。


「知っての通り、我が国はすでに帝国と和睦しています。内通の情報は、ほかならぬ帝国からもたらされたものなのです。言い逃れはできませんよ?」


「っ……!」


 喉元に剣を突きつけるように、スヴェンが言い放った。それはまさに決定打。ミラトスにとって致命的とも言える一撃である。


 先のアルスライン帝国との戦いにおいて――帝国西方侵攻軍の指揮官であるグラコス・バーゼンは、ザイン王国の貴族に対して調略を仕掛けた。

 貴族を寝返らせることによって王国を内側から瓦解させ、可能な限り軍の損耗を抑えた状態で勝利することを目指していたのである。

 ミラトスをはじめとして、帝国の甘言に引っかかってしまった貴族は少なくない。


 もしも帝国が勝っていたのであれば、うまく勝ち馬に乗って生き残りを図れたのだろうが……王国が勝利してしまったため、彼らはタダの裏切り者になってしまったのである。

 さらに、レイドールの活躍によって帝国と和睦が結ばれたため、内通者についての情報までもが筒抜けになっていた。


「フンッ……裏切り者が、よくものうのうと王宮に足を踏み入れることができたものだな」


「れ、レイドール殿下……」


 レイドールが侮蔑を込めて吐き捨てると、ミラトスはいよいよ顔を蒼褪めさせた。


「お、お許しを……私はただこの国のためを思って……」


「話は後でたっぷり聞かせてもらう。連れていけ!」


「はっ!」


 何事か言い訳を口にしようとするミラトスであったが、レイドールは取り合うことなく騎士に捕縛を命じる。

 命令を受けた騎士はまるで事前に打ち合わせでもしていたかのように淀みなく、スムーズにミラトスの両腕を押さえて玉座の間から連れ出していく。

 残された貴族らは、呆然とした眼差しで連行されていく裏切り者の背中を見送る。


「さて、お次は……ムランダ男爵、メルカリア伯爵、モイラスト子爵」


「ヒッ……!?」


 スヴェンが笑顔のまま、立ち上がっている貴族らの名前を呼んでいく。


「貴方達は情報を流したりはしていなかったようですけど……王国軍が破られた暁には、大人しく帝国に服属することを書状で誓っていますよね? そちらの書状も、帝国から送られてきましたよ?」


「そんなっ……」


「馬鹿な! 私は決して裏切りなど……!」


「言い訳は尋問室でどうぞ。騎士殿、そちらの方々もお願いします……いいですよね、レイドール殿下?」


「構わん。任せた」


 スヴェンが笑顔で主君に伺いを立て、レイドールもまた間髪入れずに頷いた。

 新たに罪を暴かれた裏切り者が拘束され、連行されていく。中には手足を振って逃れようとした者もいたようだが、拙い抵抗は屈強な騎士の前にあっさりと封じ込められる。


「それでは……時間が惜しいので、どんどんいきましょうか」


 スヴェンが無邪気な顔で宣言して……そこから先は、阿鼻叫喚のようであった。


 帝国に内通していた者。情報を流していた者。資金や兵糧を提供していた者。

 裏切りこそしていなかったが、横領や奴隷売買など……貴族としてあるまじき不正に手を染めていた者達が、次々に騎士に捕縛されていく。

 泣き叫び、涙ながらに言い訳を吐きながら連れて行かれる貴族らに、残された貴族らが次は自分の番ではないかと戦々恐々と肩を震わせる。


 しかし――不正や裏切りが暴かれて連れて行かれるのは、スヴェンの宰相就任に反対を示した者だけだった。


 事がここまで至り、居並ぶ貴族達はようやく気がつく。

 自分が新たな主君によって集められたのは、決して挨拶や歓待が目的ではない。

 レイドールの目的は、これから始まる自分の治世の邪魔になるであろう異分子を見つけ出し、処分するため――『選別』と『粛清』のために貴族を集めたのだ。


 スヴェンの宰相就任に反対していた者の大部分が連れて行かれてしまった。

 玉座の間に残されたのは、反対することなく膝をついている者。そして、クロウリー・ローディスただ一人となった。


「さて……最後は、貴方ですよ。クロウリー・ローディス侯爵」


「っ……!」


 スヴェンが表情を変えることなく宣告する。

 幼さの残るあどけない顔つき――ローディスには、それが子供の姿をした悪魔のように見えたのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 帝国とは既に停戦しており、今更内通だで上げるのも、一概にどうかも有りますね。 戦いに勝利後、敵方との内通文書焼却した歴史上の君主もいますし、この国、対帝国戦やら、王族の兄弟間での争いで…
[気になる点] 和睦したからって内通者を全部バラすなら、帝国は今後一切内通での切り崩し工作はできなくなるだろうに 本当にそんなことするのだろうか。
[良い点] 多少の汚濁は飲み干せなければ、自領や国は守れない そりゃそうだけど、情勢が変わったなら さっさと乗り換えるか、ロックウッドのように 自分の代で蹴りを付けて次代に繋がないと、 切り捨てられ…
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