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154/249

154.新たな宰相

連続投稿6日目になります

読み飛ばしにご注意ください。


「さて……今日はよくぞ集まってくれた」


 レイドールは玉座に座り、跪く貴族らを見下ろした。

 玉座は国王のためだけの椅子。摂政であるレイドールが腰かけることは不敬を問われてもおかしくないことだが、それを指摘する者はこの場にはいない。

 もはや誰もが理解しているのだ。レイドール・ザインこそがこの国の支配者であり、実質的な国王なのだと。


「王都から遠く離れた領地から、はるばるやって来てくれた者もいることだろう。まずは、集まってくれた諸君らの忠心を労わせて欲しい。別室に宴の用意をしてあるから、今夜は存分に楽しんでくれ!」


 レイドールが寛大な笑みを口に浮かべて言うと、集まった貴族らの多くが安堵に胸を撫で下ろした。

 ここにいる貴族の半数は、兄王であるグラナードに忠誠を誓っていた者。あるいは、先の帝国との戦争で非協力的な態度を貫いていた者もいる。

 自分達はレイドールに疎まれているに違いない――そんな不安に苛まれていただけに、温かな言葉をかけられて露骨にホッとしていた。


「とはいえ……まずは国家の運営に携わる者として、これからのザイン王国について話し合うとしようか。お楽しみは後に取っておくとしよう」


 レイドールは傍らに立つ騎士を一瞥する。主君から目で合図を送られて、一人の騎士が前に進み出てきた。

 貴族らの前に立ったのは、レイドールの側近であり、将軍バゼル・ガルストの息子であるダレン・ガルストである。


「それでは……ここからはレイドール殿下に代わって、私が話を進めさせていただきます」


 ダレンは丁寧な言葉遣いで切り出した。

 ダレンはいつもの鎧ではなく、式典用の儀礼服を身に着けている。

 貴公子のように整った相貌が、典麗な衣装を身に着けたことでさらに強調されていた。耳目を浴びて立つ姿は騎士というよりも、舞台上に立つ花形役者のようである。

 跪いてダレンを見上げる貴族の中には、ダレンが男であることを知りながら、顔を赤くして見惚れている者までいるほどだ。


「まずは……後任人事について話をさせていただきます」


「っ……!」


 ダレンが切り出した話題に、貴族らの何人かが顔色を変えた。

 特に自分が次期宰相となることを疑っていないクロウリー・ローディスは、歓喜を隠しきれずニンマリと唇をつり上げている。

 そんな貴族らの心中をよそに、ダレンは紙の束を取り出して目線を滑らせる。


「ご存知の方も多いかと思いますが……先日、宰相であられるロックウッド・マーセル卿に不幸(・・)があり、宰相職から引退することになりました」


「…………」


「さらに、我が父――バゼル・ガルストもまた退職を申し出ており、将軍職から退くことになります。バゼルは現在、アルスライン帝国との和睦によって返還された王国東部の平定と防備に就いていますが、職務の引継ぎが終わり次第、後任の者に席を譲ることになります」


「なんと……!」


「ガルスト将軍が……!?」


 淡々と語られた報告に、貴族らの間からざわつきが生じる。

 将軍バゼル・ガルストはこれまでアルスライン帝国の侵略からザイン王国を守り続けてきた軍神であり、国家防衛の象徴だった。

 その実力、必要性はローディスのように欲に濁った強欲な貴族ですら認めざるを得ないものであり、この場にいるほとんどの人間に小さくない衝撃を与えていた。


「まさかガルスト将軍が……後任は決まっているのだろうか?」


 前列にいた若い貴族が思わずつぶやく。それは決して質問をしたわけではなく、独り言のような発言であったが……その疑問に、ダレンではなく別の人間が答える。


「ああ、もちろん決まっているぞ。せっかくだから俺の口から紹介させてもらおうか」


「あっ……ご無礼をいたしました!」


 疑問に答えたのはレイドールである。

 許可なく発言してしまった無礼に気がつき、口を滑らせた若い貴族が顔を蒼褪めさせる。だが、レイドールは「気にするな」とばかりに手を振って、言葉を続ける。


「バゼル・ガルストの後釜だが……ここにいるダレンに務めてもらう」


 レイドールは断言した。

 それはバゼルや他の配下とも相談した上で決断した決定事項である。


「現在、在任している千騎長の中で、最も優秀かつ忠義が高いのはダレンであると判断した。他の千騎長の同意も得られている。お前達も反論はないよな?」


「…………」


 居並ぶ貴族らを見回すと……レイドールの決定に納得した表情をした者もいれば、困惑した表情を浮かべる者もいる。内心は様々なようであったが、反対意見を述べる者はいなかった。

 元々、この場にいる貴族らには軍事に口出しする権限はない。他に有力な候補者もいないため、ダレンが将軍となることを反対する理由もないのである。


「なお、バゼルは騎士団を辞めるのではなく、今後は相談役として後進の育成に就いてもらうことにした。本人は完全に騎士団から去るつもりのようだったが……奴ほどの武人を隠居させるのは惜しいからな。こちらが無理を言って押しとどめた。それと――ダレンの将軍職就任に伴って、騎士団の人事についていくつか変更がある」


「騎士団の再編に伴って、千騎長を何人か変更することになりました」


 レイドールから引き継いで、ダレンが再び口を開いた。


「まずは……帝国との戦いで殉職したルーカス・ロッド。およびケガや加齢により職務の遂行不可能と判断された二人の千騎長の後任として――ここにいるサーラ・ライフェット、ジャスティ・オイギスト、アンジェリカ・イルカスを千騎長として任命します」


 その場にいた騎士の中から、三人が進み出てくる。

 サーラはダレンの副官をしていた女騎士であり、ジャスティとアンジェリカはそれぞれ王国東部に領地を預かっていた貴族だった。

『レイドール軍』の主力であった三人が、そのまま王国騎士団の千騎長に就任することになったのである。


「さらに、新たに増設された歩兵部隊の隊長として、オルバ・ケイトス、ウスター・ゴルド、ラニード・ゼンスの三人を千人隊長に任命します」


 ケイトスは東方貴族であるアーベイル家に仕えていた騎士隊長。ゴルドはエラディン男爵家の兵士長であり、いずれもレイドール軍に所属していた指揮官だった。

 ラニード・ゼンスは元々、王都の城壁警備の職務についていた男である。レイドールとグラナードの戦いの裏で起こった王都城壁の戦いで、敵ながら見事な指揮を執ったことが評価されて千人隊長に任命されることになったのだ。

 貴族らの前に出たラニードは予想外の出世を受けて、緊張に顔を引きつらせている。


「こちらの者達には、後ほど、レイドール殿下より正式な叙任式が行われます。さて、軍と騎士団の人事発表はこれまでになりますが……レイドール殿下」


「次は……新たな『宰相』を任命する。空席になったロックウッドの椅子を埋めるとしようか」


 ダレンの言葉を引き継いで、レイドールが玉座から立ち上がって言い放つ。

 宰相は文官の頂点に君臨する役職である。王が国家の『心臓』であるとすれば、宰相は『脳髄』。時に国王以上に重要となる立場だった。

『宰相』という待ちに待った単語を耳にして、何人かの貴族があからさまに顔色を変える。


「不幸にも退職することになった前任者の後釜。候補者は何人かいるんだが……」


 レイドールはすぐに発表することなく、カツカツと踵を鳴らして、もったいぶったように玉座の前を右へ左へ歩いていく。

 横目で見ると、クロウリー・ローディスをはじめとした何人かの貴族が緊張に表情を硬くして、ソワソワと居住まいを正している。

 どうやら、ローディス以外にも「我こそが」と思っている自信過剰な人間がいるようだ。


「…………フン」


 レイドールは期待に胸を膨らませている貴族らを嗤笑ししょうして、彼らの肝をつぶすような衝撃的な発表を口にする。


「新たな宰相は、ここにいるスヴェン・アーベイルに務めてもらう。よろしく頼んだぞ!」


「はい、お任せください!」


 レイドールは壁際に並んでいた家臣の中にいた一人の少年に歩み寄り、力強く肩を叩いた。

 新たな宰相に任じられた少年は笑顔と共に胸を張り、唖然とした顔になっている貴族らに顔を向ける。


「アーベイル伯爵家が当主。スヴェン・アーベイルです。御覧の通りの若輩者ですが、精いっぱい宰相職をまっとうさせていただきます。どうぞよろしくお願いします!」


 スヴェン・アーベイル。

 帝国との戦いによって滅亡したアーベイル伯爵家の生き残りであり、レイドール軍の軍師をしていた腹心。

 年齢は十三歳という、歴代最年少の宰相が誕生した瞬間である。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 国軍関係の人事はそれでよいと思いますが(元々、この国、貴族が名誉職でねじ込んでくる国でない見たいですし)、宰相は流石に軽すぎな気が。 誰か有力貴族を宰相職につけてその下の何等かの役職な…
[一言] 要職の人選について、譜代陣営で固めていて悪くないとひとり思います。 主人公達の今後の治世がワクワクもんです。
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