149.帝国嫁選び騒動・起
5月1日に書籍が発売いたします!
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セイリア・フォン・アルスラインが王国を去り、ロックウッド・マーセルがグラナードの後を追うようにして命を絶った。
その一方で――大陸中央の覇者であるアルスライン帝国でも、一つの騒動が巻き起こらんとしていた。
帝都の中央にある王城――その奥にある一室に、四人の女性が集められている。
普段はサロンとして使われている広い部屋には高級な調度品がいくつも置かれており、壁には宮廷画家によって描かれた絵画が飾られていた。
女性達はいずれも上質な絹で織られた高級感あるドレスを纏っている。身に着けている装飾品も、煌びやかながらも下品にはならない、華美なデザインのものだった。
一目見て、やんごとない身分であることが窺い知れる女性達。ある者は椅子に座って紅茶に口をつけ、ある者は窓辺に立って城下を見下ろしながら、自分達を呼び出した男の到来を待っていた。
しばらくすると――部屋の外からバタバタと何者かが廊下を走る音が聞こえてくる。皇族が生活している王城には不似合いな騒がしい音だった。
やがて勢いよく扉が開け放たれ、大柄な男が部屋に飛び込んでくる。
「待たせてしまってすまぬな、余の可愛い娘達よ!」
現れたのは、豪奢な服を着た大男。この城の主にして、帝国の君主である皇帝ザーカリウス・ヴァン・アルスラインだった。
背中に身の丈ほどの大剣――『炎』を司る聖剣デュランダルを背負った姿は、とてもではないがサロンを訪れる格好ではない。
「うむうむ! 帝国が誇る麗しの華がこうも揃うと、これまた絢爛な光景ではないか! 眩しくて目が焼けるようだな!」
「……相変わらず、お元気そうで何よりです。父上」
「フハハハッ」と笑いながら女性達を褒め称えるザーカリウスに、呆れ返ったような声がかかる。
皇帝を父と呼んだ女性の名前は、マリアステラ・リィン・アルスライン。
帝国皇女の筆頭皇女として、皇后を除くすべての帝国人女性の頂点に君臨するファーストレディである。
御年二十五歳になるマリアステラは穢れのない純白のドレスを身に纏っており、緩やかなウェーブを描く銀色の髪を背中に流していた。
月明かりを反射した雪原のような銀の髪。それはマリアステラが大陸北方にあるゴールドクロス神皇国の血統であることを意味している。
完成された美貌。黄金比によって構成された肢体。一片の欠点すら見つけることができない美貌はまるで美を司る女神のようであり、透き通るような白い肌は窓から差し込む陽光を反射して輝くようである。
「変わらず壮健すぎるご様子でなによりでございます。ごきげんよう、皇帝ザーカリウス・ヴァン・アルスライン陛下」
マリアステラが椅子から立ち上がり、美しい所作でドレスの裾をつまんでカーテシーを決める。
父に頭を下げる姉の姿に、他の女性達も立ち上がって後に続く。
「「「ごきげんよう、皇帝陛下」」」
「うむ、こうして久しぶりに顔を合わせることができて嬉しく思うぞ、我が愛しき皇女達よ!」
この部屋に集められているのは、マリアステラを筆頭にした帝国の皇女達であった。
戦を好み、同時に色を好むことで知られるザーカリウスには、後宮に千人もの妻がいて、百人以上の子供を成している。
ここにいる四人の女性は、その中でも特に母親の身分が高く、皇族として重要な立ち位置にいる女性だった。
「さて……皆に集まってもらったのは他でもない! 今日はお前達の中から一人、他国に嫁いでもらいたいと思っている!」
「……随分と性急な話ですわ。そういう大事なことは事前に話を通していただきたいのですが」
四人を代表して、マリアステラが父を嗜める。
何の前触れもなく突拍子もない提案をするのは、ザーカリウスの悪い癖。迅速果断と言えば聞こえはいいかもしれないが、それに振り回される周囲の人間からしてみれば、迷惑極まりないことだった。
マリアステラは「ほう」と頬に手を添え、物憂げに溜息をつく。
美貌の皇女はそんなさりげない所作すらも一枚の絵画のようであり、この場に若い男がいれば心を奪われかねない優美なものである。
幸いなことに、この場にはザーカリウス以外に男はいない。美貌の皇女に見惚れて仕事が手につかず、食事も喉を通らなくなるという、帝国でたびたび起こる冗談のような被害が生まれることはなかった。
「それで……いったい、婚姻の相手はどなたでしょうか? 他国の有力者か、それとも手柄を挙げた臣下に降嫁するのでしょうか?」
「おう、その通り。相手は王族だな!」
マリアステラの問いを受けて、ザーカリウスは何故か得意げに胸を張った。
「嫁ぎ先は、西の隣国ザイン王国。そして……夫となるのは現・国王の弟であるレイドール・ザインだ!」




