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【コミカライズ】レイドール聖剣戦記  作者: レオナールD


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144/249

144.墓前の簒奪者


 国王グラナードがレイドールの手によって討たれ、一週間が経った。


 王弟が兄王に謀反を起こして殺害するという国家を揺るがすような事態が起こったにもかかわらず、戦いの舞台となった王都は意外なほど平穏に包まれていた。


 それというのも、表沙汰にできない事態を隠蔽するために、宰相であるロックウッドが中心となって情報操作を行ったのである。


 ただでさえ、帝国との戦争が終わったばかりなのだ。

 国王が魔女に唆されて使徒となり、弟に討ち果たされたなどということが明るみに出れば、ザイン王国はさらなる混乱に陥ることになるだろう。

 故に――真実は表沙汰にされることなく隠されて、表向きには王宮で起こった壮大な『兄弟喧嘩』はなかったものとされている。

 王都の城門で起こった戦いも大規模な軍事演習であるとされ、レイドールとグラナードの戦いは闇に葬られることになったのだった。

 おそらく、ロックウッドは事前にこうなるように頭の中で絵図を描いたうえでレイドールを王都に招き入れたのだろう。

 ロックウッドの手回しによって王都に暮らす人々が外に出ないように規制されていたため、人々の間に混乱が生じることはなかった。


 グラナードが姿を消したことについては、急な病によって倒れて、療養しているものであると広められている。

 実際はレイドールの剣に貫かれ殺害されているのだが……遺体はネイミリアによって腐敗を防止する魔法と、死を隠すための幻術をかけられた上で、宮殿の奥深くに安置されている。

 表向きは生存を装っており、いずれ公式に王の死を発表するときまで、覚めることのない眠りに臥しているのだった。


 そして――兄を討ち果たしたレイドールはというと、玉座に座ることはなく『摂政』としてグラナードの政務を代行する立場に就いた。


 王が変われば、大小の混乱が生じることは避けられない。

 さらに、レイドールは兄の狂乱の背後に、『破滅の魔女』という敵の存在を感じ取っていた。

 もしもレイドールがこのまま王位についてしまえば、王という立場に縛られて身動きが制限されてしまうだろう。

 ザイン王国に仇をなす敵を一掃するまでは、ある程度自由に行動できる身軽な立場でいたかったのである。


 ザイン王国王弟にして摂政――それがレイドールが新たに名乗ることになった肩書きであった。



     〇          〇          〇



「……と、そういうことに落ち着きました。このような結果になってしまい、申し訳なく思っております」


 レイドールは丁寧な口調で言い、頭を下げた。

 冒険者として五年間を過ごしたレイドールは、日頃粗暴な態度が目立っている。それでも追放されるまでは王族として高度な教育を受けていただけあり、腰を折ってお辞儀をする姿はなかなか優雅なものだった。


 ザイン王国の摂政として国政の頂点に立つことになったレイドールであったが、本日は政務の間を縫ってとある場所に訪れていた。


 その場所は――王宮から少し離れた場所にある小さな墓地である。

 王家の人間しか葬られることが許されないその墓地は、入口には墓荒らし対策の警備兵がついており、許可のない者は立ち入りを禁止されている。

 墓地にはレイドール以外の姿はない。護衛やお供の一人も連れることはなく、レイドールはその場所を訪れていた。


 レイドールの前には銀色の墓石が置かれており、そこには二人の人間の名前が刻まれている。


 バーナード・ザイン


 レイティア・ザイン


 レイドールとグラナードの両親であり、先代の国王と王妃の名前である。

 二人はすでに病に没しており、この墓の下で眠っていた。

 レイドールが辺境に追放されてから五年。王都に帰還を許されてから半年。両親の墓に参るのは、これが初めてのことである。


(まさか……両親との再会が、兄貴を殺して王位を奪った報告とは。我ながら、親不孝の極みだな)


 正確に言うのであれば、まだ王位は継いでいない。

 しかし――それが時間の問題であることを、王宮で働いている者の大多数が知っていた。

 グラナードの死は表向き隠されていたが、王宮には玉座の間をはじめとして、激しい戦いの痕跡が色濃く残されている。

 破壊された王宮。同時に病と称して姿を消した国王。明らかな状況証拠を疑問に思わないような頭の悪い人間であれば、そもそも王宮で働くことなどできなかっただろう。


 王の崩御を察して騒ぎ立てるものがいないのは、魔剣に憑りつかれたグラナードが暴虐を強いており、王宮で働いていたものの多くがその存在を恐れ疎んでいたからだった。

 一部の騎士はあくまでも王への忠義を抱いていたが……彼らはすでに退職をして、王宮から去っている。

 退職した騎士をそれとなく密偵に見張らせていたが、新しい職と十分な退職金を用意したためか、グラナードの仇討ちなどを目論んでいる者も今のところはいない。


(俺は兄貴から玉座を奪い取った。大元の原因は兄貴にあるが……それでも許されないことには違いない)


 どれほど大義名分を掲げたところで、レイドールは謀反を起こした反逆者であり、兄殺しの簒奪者である。


 果たして、土の下で眠っている両親はレイドールのことをどう思っているだろうか?

 幼い頃に亡くなった母は、レイドールが追放されてから崩御した父は。もしも彼らが生きていたら、兄を殺害して玉座を奪ったレイドールにどんな言葉をかけるだろう。


(……誉めてはもらえないだろうな。当然だ)


「だけど……後悔はしていませんよ。父上、母上」


 どれほど親不孝であったとしても、どれほど罪に手を汚すことになったとしても。

 これがレイドールの選んだ道。掴み取った運命なのだ。

 親に叱られたくらいで心変わりをする程度の意志ならば、最初から反逆など実行するわけがない。


「もう貴方達に合わせる顔はない。きっと……墓参りに来るのも、これが最後になることでしょう。今日は終生のお別れに参りました」


 親の望むように生きられなかったというのに、どんな面を下げて故人を思いやるための場所に訪れろというのだろう。

 もはや、自分に墓参りなどする資格などない――レイドールは、亡き両親とはっきりと決別する意思を固めていた。


「……いずれ俺も死ぬ時が来るでしょう。けれど、王家の墓に葬られるつもりはない。俺の亡骸は戦場に打ち捨てられ、罪科にまみれた魂は奈落の底に囚われることになるはずです」


 それでも――後悔はない。

 自分の成したことを、決して悔いることはしない。


「だから、これでお別れです。父上、母上、どうぞ安らかにお眠りください。良き息子として、弟として生きられなかった俺ですが、決してこの国を他国や魔女の好き勝手にはさせない。ザイン王国は俺が守ります」


 兄を殺して王位を奪い取ったのだ。

 それで国を滅ぼしてしまえば、それこそ稀代の暗君となってしまう。

 グラナードができなかったであろうことを成し遂げる――そうでなければ、レイドールがやってきたことは何の価値もない無意味な蛮行となるだろう。


(手段は選ばない。どれほど両手を血に汚すことになろうとも、屍山血河を築くことになろうとも……王国を守るためにだったら、どんな罪でも犯してやる!)


 それが、レイドールの決意。

 兄殺しの英雄が選んだ信念であった。


 現代に語られる伝説では、ダーインスレイヴの先代の保持者である初代国王もまた、己の兄を殺めて国を簒奪したという。

 あるいは、初代国王もまたレイドールと同じような心境だったのかもしれない。


「ああ、ご主人様。こちらにいらっしゃったのですねー」


 決然と心に誓いを立てるレイドールであったが、不意にその背中に柔らかな感触が押し当てられた。


 いつの間にか背後に忍び寄っていたメイド服の少女――ネイミリアが背中に抱き着いてきたのである。


お知らせ

「レイドール聖剣戦記」が5月1日に一迅社ノベルスより発売予定となりました。

すでにAmazonでは予約も始まっていますので、どうぞよろしくお願いいたします。


また、活動報告にていただいたイラストなどを公開しています。

よろしければ、そちらの方もご覧になってください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 兄との決着の果てに主人公はどのような道を歩むのでしょうか? まあ、茨の道である事は確かだと思いますが。
[一言] 誉めてはもらえないだろうけれど、グラナードがやった仕打ちを思えば責められる事も無いわな。 グラナードはあの世で叱られたら良いよ!
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