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131.王都からの使者


 一方、レイドールは馬を駆ってまっすぐに王都に向かっていた。

 途中で巡礼者とすれ違ったことすら気に留めることなく、ひたすらに馬を走らせて西に向かって行く。

 レイドール軍がグラナードを倒して玉座を奪うことを決めてから、まだ3日ほどしかかかっていない。

 ろくに準備も整えることなく、すぐに動ける兵士と馬を全て動員して、翔ぶが如く勢いのままに進軍する。

 一心不乱に前だけ向いて走る主君に、隣で馬に乗っていたダレンが声を張り上げた。


「殿下! じきに例の村が見えてきます!」


「そうか、わかった!」


 レイドールはダレンを一瞥して短く返して、すぐに前方に視線を戻す。

 そのまま走って行くと小さな集落が見えてきた。集落の入口には大きな篝火が焚かれており、轟々と燃え盛って火の粉を天に巻き上げている。

 目印として置かれた篝火の隣には木製の簡素なテーブルが並べられていて、パンや水、干し肉やチーズなどの食糧が大量に置かれていた。


「よし、補給のために一時休憩をとる! 補給が終わり次第すぐに出るぞ!」


「替え馬を連れてまいります。少々お待ちください!」


 レイドールは馬から降りるや、用意されていたパンと水を貪るように口に詰めていく。続いていた兵士達も同じように食料をがっついていく。

 今回の進軍にあたって、事前に王都までの道中にあるいくつかの村へと早馬を出していた。金を渡して水と食糧を準備するように指示をしており、こうして休憩ポイントを作っていたのである。

 ちなみに、これらの配備を指示したのはレイドール軍の軍師であるスヴェン・アーベイルだった。レイドールの期待に応えて、最低限の時間で行軍の準備を整えたスヴェンの手腕はまさに卓越している。

 今ではすっかりアンジェリカの愛玩動物と化している少年軍師であったが、やはりやる時はやってくれるようだった。


「レイドール殿下、少々よろしいでしょうか」


「ん、どうかしたか?」


 手早く食事を摂っていたレイドールへと、兵士の一人が駆け寄ってきた。


「殿下に面会を申し出ている方がいるのですが……」


「村長か? 食料を用意してくれた謝礼は十分に渡しているはずだが、足りなかったか?」


「いえ、王都からやって来た方のようで、宰相閣下の使いと名乗っています」


「宰相……ロックウッド・マーセルか?」


 レイドールは怪訝に目を細めて、兵士に連れてくるように指示をした。

 やがてやって来たのは、初老に足を踏み入れている年齢の男性である。ロマンスグレーの口髭を蓄えており、身なりのいい格好から貴族に仕える上級使用人であることが見て取れた。


「お前は確か……」


「お久しぶりです。レイドール殿下」


 レイドールの前に現れたのは、王家の執事をしていたサラウィンという男だった。

 以前、王都にあるレイドールの屋敷に使用人として派遣されたが、受け入れられることなく追い出された男である。


「お前が今さら、何の用だ? ロックウッドの使いと聞いているが?」


「はっ、宰相閣下の命により、レイドール殿下にお伝えすることがあって参りました」


 執事は沈痛な顔つきで顔を伏せて、王都の現状について説明してくる。

 その話の内容は、おおよそレイドールが予想した通りだった。

 兄王であるグラナードが突如として聖剣と似て非なる剣……魔女の魔剣を授かったこと。同時に、乱心して城の兵士を殺害したこと。幸いにも、王の乱心について民衆にまだ話は広がっていないが、いずれは露見してしまうであろうこと。

 そして、レイドールと親しい関係にあるネイミリアとセイリアがグラナードに敗れて、捕虜として捕まっていること。


「っ……!」


 レイドールは拳を握り締めて、憎々しげに表情を歪める。

 可能性の一つとして、二人の女性が捕らえられていることは予想していた。しかし、やはり実際にそれを聞かされると激しい怒りが沸き立ってくる。


(いや、落ち着け。人質として捕らえられているということは、まだ殺されていないということだ。最悪の事態には陥っていない……!)


「……それで、ロックウッドは何て言っている?」


「さ、宰相閣下は……」


 サラウィンは憤怒の表情になったレイドールに怯えながらも、ロックウッドからの伝言を口にする。


「さ、宰相閣下はレイドール殿下が近日中に王都に訪れないようだと、2人が殺されてしまうと。今は説得してグラナード陛下を抑えているが、いずれ限界が来ると……」


「そうか……」


「陛下はどうやらレイドール殿下の前で人質を殺して、殿下を苦しめようとしているそうです。殿下が王都を訪れて、すぐに公開処刑が行われると」


「…………」


 ロックウッドの伝言を信じるのであれば、このまま軍を率いて正面からグラナードを討ちに行くのは、かえって人質を危険にさらすことになるだろう。

 どうにかして、人質の2人を先に救出しなければいけない。


「それなんですが……」


「ん?」


 考え込んだレイドールに、サラウィンが気遣うように言ってくる。


「宰相閣下からの伝言にはまだ続きがあります。それは……」


 サラウィンの話を聞いて、レイドールはわずかに目を見張る。そして、手近にいる兵士を呼んで端的に命じた。


「大至急、ダレンとスヴェンをここに呼べ! これより軍議を開く!」


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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