13.決意と野望
あれから拘束したメルティナを物置にしている部屋に閉じ込めて、二人の騎士を開拓都市から追い出した。
幸いなことかどうかはわからないが、騎士達は命にかかわるようなケガは負っておらず、回復薬のポーションを一本ずつ飲ませればそれ以上の治療は必要なかった。
騎士にはネイミリアが簡単な記憶操作を施しており、レイドールが『破滅の六魔女』の一人を従者にしているという記憶は改竄してある。
ネイミリアの力はザイン王国も把握していないことで、切り札となりうるものである。現時点で兄王側の人間に知られることにメリットはなかった。
「なるほどな、俺が来るまでにそんなことがあったのか」
「そうだとも、ノロマなアンタがもっと早く来ていたらあんなことは起こってなかったと思うけどな」
メルティナとの話し合いが終わり、騎士を追い出したタイミングでようやくやって来たザフィス・バルトロメオに、レイドールは皮肉の毒を吐きつけた。
弟子の言葉にザフィスは唇を歪めて言い返す。
「仕方がねえだろうが! こっちはお飾りの領主様と違って忙しいんだよ!」
ザフィスは乱暴な手つきで目の前に置かれた木製のコップを手に取り、ゴクゴクと中の液体を飲み干した。そして、「ブフッ!」とその半分を床に吐き出す。
「にがっ! なんじゃこりゃ!?」
「失礼しました。どうやら茶葉の量を間違えたみたいですね」
ネイミリアが笑顔で言って、ザフィスが撒き散らしたかなり濃いめのお茶をモップで拭き取った。
淡々とした顔つきで床の掃除をするメイドに、ザフィスは恐る恐る声をかける。
「あー……ひょっとして、怒ってるか?」
「まさか、ご主人様の危機を見過ごしたこと、ご主人様をお飾り呼ばわりしたこと、どちらも怒ってはいませんよー?」
「うぐ……」
ネイミリアの表情は穏やかな笑顔であったが、その陰から般若のような怒りの顔が見え隠れしていた。
ザフィスは慄きに顔面を引きつらせて、ゴホンと咳払いをする。
「ま、まあ、無事でよかったよ。それはそうとして、王都に帰還するのをよく同意したな?」
「それは私も気になってました。わざわざ自分を追い出した者達の要求に従うなんて、ご主人様はドMなんですか?」
「誰がマゾだ! ちゃんと俺なりに考えがあるんだよ!」
レイドールは言い返して、ふっと息を吐く。
「考えても見やがれ、王宮の連中の思惑はどうあれ、アルスライン帝国を放っておくわけにはいかないだろう? 帝国がザイン王国を滅ぼせば、当然ながら王族の人間を根絶やしにするからな。俺だって無関係じゃあいられない」
兄王に冷遇されたことを説明して恩赦を求めることもできるかもしれないが、それを帝国が受け入れる保証などどこにもない。
帝国からしてみれば、滅ぼした敵国の王族を生かしておくメリットなどないのだ。後顧の憂いを断つために始末する可能性のほうがずっと高い。
斬首か火炙りか、どちらにしてもロクな扱いはされないはずである。
「それにこれは絶好のチャンスでもある。戦時中の今であればグラナードもこちらの要求に譲歩せざるを得ないだろうし、この町への援助をむしり取ることだってできるはずだ」
開拓都市はザイン王国南方にある密林から魔物の流入を防ぐ役目を果たしている。にもかかわらず、町の運営は魔物の素材を売った金と冒険者ギルドの融資によって行われている。
王宮から援助金などは一切出ていなかった。
「……本当にそれだけか? まさか、お前の兄貴に復讐するつもりじゃねえだろうな?」
ザフィスが眉をひそめて問い詰める。
辺境に送られた頃のレイドールを知るザフィスは、若い王子が信じていた人間からの裏切りにどれだけ打ちのめされ、傷ついていたかをよく知っていた。
戦争を機に王都に戻り、兄王への復讐を果たすつもりではないかと疑っていた。
「復讐、か……」
剣の師である男の詰問に、レイドールは遠い眼差しを窓の外へと向けた。
自分を裏切った兄グラナードを憎んだことはある。
その側近であるロックウッド・マーセルやバゼル・ガルストを恨んだこともある。
自分を辺境に追いやって、冷遇することで平穏を保っているザイン王国を嫌悪したことすらある。
「だけど……そういうことじゃねえんだよな」
それでも、レイドールは誓って復讐などするつもりはなかった。
もしもグラナードが自分を放っておいてくれるのなら、このまま辺境の地で魔物と戦い続ける生涯で構わないと思っていた。
辺境の開拓都市は危険と騒動に満ち溢れていたが、それゆえに強い者が生き残るという純粋な真理があり、それがレイドールの肌には合っていた。
「兄が、グラナードが俺に関わらないでいてくれるのなら別にそれでよかったんだよ。だけど、この期に及んでまだ俺から奪うというのであれば、戦わざるを得ない。俺は二度と奴らに奪わせはしない」
「……そうか」
「私はどこまでも一緒にイキます! ご主人様!」
レイドールの決意を聞いて、ザフィスは重々しく頷いた。ネイミリアもまたスカートの端をつまんでにこやかに頭を下げる。
「これは俺の誇りを守るための戦いだ。奪われたものは取り返す。奪ったやつには容赦しない。帝国もグラナードも、どちらも叩き潰してやるよ」
燃え盛る炎のような決意を固めて、レイドールは窓から見える北の空を睨みつけた。
その空の彼方――ザイン王国の王宮で、死蔵されている聖剣が主を呼ぶように高い音で啼いた。
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