12.破滅の六魔女
『破滅の六魔女』とは、大陸の3分の2以上の地域で信仰される聖光教において神敵とされる怪物である。
100年前に帝国を襲った大地震。150年前に大陸東部に蔓延した『白死病』。200年前に大陸全域で起こった大乱の戦役。その他にも様々な歴史的災厄の影に彼女達の影があるとされており、銀の髪と金の瞳をもつ6人の魔女は子供の寝物語にも語られる恐怖の対象だった。
「ご主人様、大丈夫ですか? 調教されてはいませんか?」
騎士を無力化したネイミリアがレイドールを拘束する鎖に触れる。すると、まるで水に濡らした紙のように黒鎖は千々に砕け散り、粒子のように空気に溶けて消えてしまった。
「……ああ、問題ない。助かった」
「ムフフ、従者として当然のことをしたまでです。ご主人様のお世話は上から下までバッチリとお任せください!」
「……お前が言うと下ネタに聞こえるんだが、いや、まあいい」
解放されたレイドールはネイミリアの色々と飛んでいる言動に釈然としない表情をしながらも、助けてもらったことに素直に礼を言う。
手足の関節を軽く動かして問題がないことを確認して、改めてメルティナに向き直る。
「さて……仮にも王族である俺を呪いで拘束しようとして、おまけにそれを失敗して。自分がこれからどんな目に遭うかわかるよな、メルティナ」
「……まさか王弟殿下が破滅の魔女を味方につけているとは思いませんでしたわ。これは私の負けですね」
メルティナが諦めたように肩を落とす。
言い訳の一つもしない神妙な態度をとる幼馴染みに、レイドールは詰問の言葉をかける。
「一応、聞いておこう。俺を呪いで拘束して無理に王都へ連れていくように命じたのは、国王グラナードか?」
「いいえ」
メルティナが目を閉じて首を振る。
「これは私の独断です。陛下も、父も、なにも関与してはおりません。すべては功を焦った私の罪にございます」
「下手な嘘だな。だが……そういうことにしてやろう」
レイドールは腰に差した剣を抜き、横薙ぎに振り払った。銀色の刃がメルティナの首へと放たれる。
「フッ……」
目の前に迫る不可避の死。メルティナは抵抗することなく目を伏せてそれを受け入れる。
「ふん……つまらないことだ」
斬撃がメルティナの首を斬り飛ばす……その寸前で、ピタリと剣が停止する。メルティナの首の皮一枚が斬り裂かれて一筋だけ血が流れ落ちる。
まさか止めるとは思わなかったのだろう、メルティナが驚いて両目を瞬かせる。
「……殿下、どうして止められたのでしょう」
「勘違いをするなよ。幼馴染の情などではない」
レイドールは憮然として言い放ち、剣を鞘へ納めた。
ここでメルティナを殺すことは容易い。そして、かつて自分を裏切り、再び狼藉を働いた彼女を殺してやるのはきっと痛快なことだろう。
(だが……気に入らん)
今まさに斬り殺されそうになっていたメルティナの顔には、恐怖など微塵もなかった。
まるで最初からそうなることを予期していたような彼女の表情を見て、すっかり殺す気が失せてしまったのだ。
レイドールは床に伸びている騎士のそばまで歩いていき、その腹を思い切り踏みつけた。
「うげっ!」
「いい加減に起きろ」
「お、お前は……いや、王弟殿下ッ!」
ようやく目覚めて上半身を起こした騎士を見下ろし、レイドールは冷然と宣告する。
「聞け。ここにいるメルティナ・マーセルは王族である俺に向けて呪いを放ち、力づくで捕縛をしようとした。その不敬の罪により、この場で拘束させてもらう!」
「そ、それは……」
騎士が戸惑ったように、レイドールの背後にいるメルティナに目を向ける。
「…………」
メルティナが無言のまま頷き、自分たちの策略が失敗したことをアイコンタクトで伝える。
「しょ、承知いたしました。それで、私はなにを……」
「メルティナの身柄はこちらで預かる。お前は自分の上司の元まで戻り、このことを報告するように」
「……かしこまりました」
渋い顔をしながらも、恭しく頷く騎士の男。
レイドールは鼻を鳴らして、さらなる言葉を投げかけた。
「それともう一つ。アルスライン帝国との戦への参加、確かに了承した。準備が整い次第、王都に向かうのでその旨も伝えておくように!」
「は……?」
「え……?」
「ふえ?」
騎士とメルティナが一緒になって目を丸くさせる。レイドール側の人間であるはずのネイミリアでさえ、埴輪のようにポカンと口を開けている。
「くくッ……!」
三人の驚きの視線を受けて、レイドールは悪戯を思いついた悪ガキのようにニヤリと笑った。
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