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102.東より迫る牙


「そうですな……現状、我々が優先させるべきはレイドール殿下にかけられた呪いの解除。そして、殿下を封じ込めるための『囲い』です」


 呪いの解除については宮廷魔術師が総動員となって進めている。筆頭宮廷魔術師であるババロア老によると、すでに呪印の解析は大部分が終わっており、一、二ヵ月もあれば呪いを解くことができるとのことである。

 呪印に関してグラナードやロックウッドにできることはない。ならば、レイドールを封じ込める手段を講じるべきだろう。


「殿下を武力で封じることはできそうもありません。ならば、人質を使うしかありませんな」


「人質……たしか奴の屋敷にはメイドが一人いるんだったな」


「いえ、使用人など人質にはなり得ないでしょう。殿下の屋敷には帝国の皇女もいますし、迂闊に手を出すべきではないでしょう」


「ふむ、となれば……」


 グラナードが目を細めながら、わずかに口元に笑みを浮かべる。どうやらロックウッドと同じ考えに至ったようである。


「領地を人質にとるのか。レイドールが東方から戻る前に開拓都市を制圧して、枷として奴を封じ込めるのだな?」


「はい、すでに開拓都市には手の者を送り込んで戦力を把握しています。彼らは魔物相手の戦闘には強いですが、兵士としてはさほどではありません。王宮の兵士を送り込めば一ヵ月とかからずに落とすことができるでしょう」


「ほう……それは良いな。実に良い」


 グラナードは鬱屈した笑みに顔面を歪める。

 いずれレイドールは勝利に鼻を高くして東方から戻ってくるのだろう。

 そして、その時にはレイドールの第二の故郷である開拓都市ザインは兄王の手に落ちており、己を縛る鎖となっているのだ。

 得意げな弟の顔が絶望に染まるのを想像して、グラナードは後ろ暗い歓喜に肩を震わせる。


「ざまあみろ! 私から玉座を横取りするつもりのようだが、奪うのは私のほうだ……! かつて王子としての地位を取り上げてやったように、またお前の居場所を奪ってやるぞ……!」


「…………」


 レイドールへの憎しみから悪魔のような顔になっているグラナードには、かつての聡明な王であった頃の面影はない。

 ロックウッドは手塩にかけて育てた王の成れの果てに、何とも言い難い微妙な表情になった。

 落ちるところまで落ちていく王に自分だけは最期まで付き合おうと心に誓い、ロックウッドは開拓都市を攻め落とすべく行動をとろうとする。


「国王陛下! 失礼いたします!」


 しかし、宰相が動くよりも先に玉座の間の扉が開かれた。外から扉を開いて入ってきたのは、先ほどとは異なる兵士であった。

 せっかくの楽しい悪だくみに水を差されて、グラナードが鼻白んだ顔つきになる。


「無礼である! ここをどこだと心得るか!」


「ご無礼を! しかし、火急の用であります!」


「む……?」


 王の叱咤を受けながらも毅然と言い返してくる兵士に、グラナードも尋常ではない事態が生じていることを悟る。兵士を促して、用件を話す許可を出した。


「ブレイン要塞にいるガルスト将軍より早馬が参りました! 要塞に帝国の皇帝が現れたとのことです!」


「は……? 何と言った?」


 兵士の発した言葉が意外過ぎて内容が理解できなかったらしい。グラナードもロックウッドも、目を丸くして兵士にもう一度発言を求めた。

 兵士は無礼を承知でギリッと奥歯を噛みしめて、先ほどよりもさらに大きな声で怒鳴るように報告する。


「ですから! ブレイン要塞にアルスライン帝国の皇帝が……ザーカリウス・ヴァン・アルスラインが現れました!」


「なっ……なにいいいいいいっ!?」


 グラナードが驚愕の悲鳴を上げながら玉座からずり落ちる。

 ロックウッドは悲鳴を上げることは堪えたものの、これでもかと顔を引きつらせ、言葉も失って呆然と立ちすくんでいる。


 ブレイン要塞での戦い。帝国皇女セイリア・フォン・アルスラインの敗北から数ヵ月。

 大陸最強を誇る大国の牙が、再びザイン王国へと向けられたのであった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 開拓都市と言うけど、強力な魔物が蔓延る辺境。 強い魔物を常日頃から相手にしている冒険者達は強い。 相応の数の兵士を送る必要があるだろう、それでどんな大義名分を騙って大量の兵士を開拓都市…
[一言] あっ…(いたなぁ) 戦闘狂の王様がー 兄が行っても「弟を出せ」「お前じゃ話にならん」とか言われて、ますます逆恨みが増すフェイズだな、これ。 そして、確か開拓領を攻めると、必然的に遊びに行…
[一言] 国のトップ1、2が国難放置で私怨(国王の)優先とか、なんかもう色々終わってる。 この人たちがまともに国を統治できてたとはとても思えない。
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