私とモンスターと吸血鬼②
「え、何……?」
それは先程、一緒に百貨店から避難してきたカップルや店員達だった。
「クケッ、クケッ、クケッ」
「ニガザナイヨォ~」
ぐるりと私と棺を取り囲みながら、一様に、口を半開きにして涎を垂らし、白目を向いて笑う人々。
とてつもなく異様な光景だった。
人々の壊れた様な笑顔に、薄ら寒いものを感じ、私は直ぐに彼らから離れようとする。
しかし、小柄な女性の店員が、その身に合わない剛力で私の右の手首を掴むと、ぐっと上方に捻り上げてきた。
「ちょっ? いったぁ! あなた、店員でしょ! 店員が客にこんなことしていいと思ってるの? キンピラライス……いや、コンプリートライセンス……? とにかく、コンなんとかライセンス違反になっちゃうんだからね!」
私は自由になる左腕の肘を全力で後方に振り抜くと、店員の腹にエルボーを食らわせ、拘束から逃れようとする。
けれど、どれだけ暴れ、肘を食らわせようと、拘束が全く緩む気配がないのだ。
「嘘でしょ……? 一体、どうなってるの……?」
それでも抵抗を止めず、私は自由になる手足全てを使って攻撃を試みる。私が店員にエルボーと足の踏みつけ攻撃を同時に行おうととした、次の瞬間。
「レディ、下だ。 下に避けたまえ」
今まで聞いたことのない様な、優しくて甘いテノールが響き渡る。
声の言った通り、一瞬で身を小さく屈める私。こう見えて、反射神経には自信があるのだ。
直後――よく見た茶色い物体が店員の顔面にぶつかり、そのまま背後の百貨店の壁まで店員を吹き飛ばす。
「何……? 今の……?」
思わず振り返った私が目にしたのは、店員の顔面にべっこりとめり込んだまま半壊している私のチョイスした木彫りの熊さんの姿だった。