吸血鬼さん、今度はイン我が家
その日の夕方――。
「たっだいまー」
激しい練習に疲れた体を引き摺りながら、私は玄関のドアを開ける。
と、同時に抱き締められる私の体。
「お帰り。一日千秋の思いで待っていたぞ、真由」
うちの居候吸血鬼、リルゼイだ。どうやって知ったのかは知らないが、彼は、私が近くまで戻ってきているのを察知し、ずっと此処――玄関で待機していたらしい。
まるで、飼い主を出迎えるペットの様だ。
(あ……リルゼイって、背が高くて人懐っこいし、大型犬っぽいかも)
私が抱き着いたままのリルゼイの頭を撫でていると、続いてリントが飛び付いてくる。
「真由お姉さん、お帰りなさい! 僕、吸血鬼さんとちゃんといい子にお留守番してたよ!」
ずいっと頭を差し出してくるリントの小さな頭を、私は撫でてやった。
「ありがとうね」
「うんっ」
途端にリントは満面の笑みになって大きく頷いた。
(やっぱり、リントって可愛い。精霊って、皆こんなに可愛いのかな。だったら、もっと沢山の精霊に逢ってみたいかも。お花の精霊とか絶対可愛いに決まってるよ)
私がそんな妄想に浸っていると、不意に体が揺れ、視界が高くなる。
「わっ?」
リルゼイが私を抱き上げたのだ。
突然のことに、私は彼に抗議をする様な目を向ける。
すると、彼は少しだけ不機嫌そうな表情で、ふいっと視線を反らした。
(あれ? もしかして、拗ねてる?)
もしや私がリントを可愛がり、おかしな妄想をしていたから?
私はそう思い当たると、もう一度、彼に視線を向けてみた。
と、また視線を反らされる。
「……確かに精霊は小さいし可愛らしいよな」
しかも今度は、このお言葉付きだ。確実だろう。
(逢ってからまだ一日しか経ってないけど……でも、何時もあんなに余裕があるリルゼイが、こんな事で拗ねちゃうなんて。リルゼイには悪いけど、ちょっと可愛いかも)
私は彼の腕の中で小さく笑ってしまった。