お持ち帰りは吸血鬼で宜しいですか?③
そう、先程の百貨店前での戦闘時――クリスマス間近ということもあり、周辺には沢山の人がいたのだ。
加えて、あれだけグロテスクな場面を目の前で見せられたのである。
誰かが通報していても不思議ではない。
(でも……待って。もしかしたら、何かのショーかと思ってくれてるかもしれないし。イベントと勘違いしてくれてるって可能性もあるよね)
だから、あのパトカーだって、きっと私達を捕まえに来た訳じゃないかもしれない。
私は自分自身に必死にそう言い聞かせながら、駅の改札に直結していたエレベーターに乗り込もうとする。
すると私の背後から、不意に声がかけられた。
「すいません。警察の者ですが、ちょっと宜しいでしょうか」
「っ!?」
(そうだよね、あれだけ派手に血や内臓をぶちまけてたら通報されない筈がないよね! 甘く考えてた自分のバカーっ!)
私は自分の見通しの甘さに半泣きになると、彼の腕を掴んで引き摺るように、全力で走り出す。
人間というのは不思議なものだ。先程まであんなに重いと感じていた青年の体が、今はまるで羽の様に軽く感じる。
これこそ正に火事場の馬鹿力か。まぁ、そんなこと知りたくもなかったが。
そうして私は車道に飛び出すと、流していたタクシーを捕まえ――今に至るという訳である。
車道に出る為ガードレールを飛び越えた時に、彼の頭が全力でぶつかった様な音がしたが、きっと気のせいだろう。