私とモンスターと吸血鬼⑥
(なっ、なっ……!?)
余りのことに完全に言葉を失い、呆然と立ち尽くす私。
一方、隣の青年は先程と全く変わらぬしれっとした様子で目の前の女の変化を見つめていた。
すると、私達が見ている前で、店員の顔面から伸びる指の数が増え始める。それらは徐に彼女自身の顔の皮――線が引かれた部分の両端をぐっと強く掴むと、ベリッと勢いよく両側に引き裂いた。
花火の様に舞い散る鮮血。
「ひぃぃぃぃっ?!?」
私は飛びあがりながら悲鳴を上げると、隣の彼の背中に慌てて身を隠す。
(なになに!? 何なのよあれ!?)
猛烈な恐怖に寒さも忘れ、パニックに陥る私の頭に――暖かくて優しいものが触れる。
それは、大きな彼の手だった。
彼は、まるで私を落ち着かせる様に数度頭を撫でると、柔らかく私に微笑んでみせる。
その時、彼の穏やかに細められた紫の視線と、私の視線が一瞬重なった。怖いのも忘れ、彼の陽だまりの様な優しい微笑みに、思わず魅入ってしまう。
しかし、次の瞬間――。
「アアアァァァァァ!! アアアァァァァァ!!!」
突如、耳をつんざく様な叫び声が辺りに響き渡る。
私と青年が叫び声のした方を振り向くと、其処には、縦に真っ二つに裂け始めた店員の女性が立っていた。