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第1話 少女は諦めない

 突然ですが、皆さんは雲の上に乗りたいと思ったことがありますか?

 地上を、雲の上から見る光景はたぶん物凄い綺麗なだと思いませんか?

 雲の形がソフトクリームに見えたり、クロワッサンに見えておいしそうだな~ってお腹が空いたりしたことがありませんか?

 

 私は勿論あります。


「あれが、扁平雲(へいぺいうん)、学術名がフミリス、あれがレンズ雲、本当にレンズみたいな形でしょ? あの雲は並雲、メディオクリス言うんだよカッコいい名前でしょ?」

「あれはクロワッサン、あれはメロンパンみたいで美味しそう。あっ! あれはシュークリーム!」

「ふふふ、春香ちゃん、食べ物しか考えてないでしょ?」

「うん、でも、どの雲も綺麗……」


 白いベッドを雲と見立てて、身を沈めているのは、私 金森 春香(かなもり はるか)

 そして、ベッドに腰を掛けて、窓からぷかぷかと浮いて見える雲を一つ一つ指でなぞりながら説明している少年は、木田 幸村(きだ ゆきむら)


「春香ちゃんも、いつか外に出て沢山の雲を見れるといいね……」


 そう言った木田は、哀感(あいがん)の表情を浮かべる。

 その視線は、ピクリとも動かない私の足や手に向けられる。

 

「私は諦めないよ、例えお医者さんが無理って言っても、私は絶対に諦めない」


 私は先天性の病気、筋ジストロフィーというものを患っている。時間と経過と共に筋肉が壊れていき、運動障害や機能障害を引き起こすというもの。

 そのため、物心ついた時から、ずっと病院のベッドの上での生活です。

 医者から、重度の障害によりいつ合併症を引き起こしてもおかしく無い、15歳まで生きていられているのは奇跡だと言われています。


「春香ちゃんは強いなぁ……大丈夫だよ! 諦めなければ大丈夫!」

「うん、ありがとう!」

 

 励ましてくれた木田に対して、満面の笑顔で返す。


「あ、もうこんな時間だね」


 気が付くと時計の針は6を指し示していた。すでに窓ガラスからはオレンジ色の光が私達を照らしていた。

 もうこんな時間と言ったが、ずっと病院のベッドの上、山の上に立っている雑音も何もない病院だと、毎日がスローモーションのように感じる。

 木田は、私と遊ぶために持ってきたトランプや本を鞄にしまい、


「じゃあ春香ちゃん、今日は帰るね」

「うん、また明日ね」


 木田が病室から出るまで手を振り続けた、木田も最後まで私のほうを見ながら後ろ歩きで病室から出て行った。

 パタンとドアが閉じる音を確認して、私は呟く。


「あれが、フミリス。レンズ雲、並雲…………」


 夕日に照らされ、神々しさを見せる雲を指さしながら、木田から習った雲の解説を思い出す。そして、フフフッとほほ笑む。


「本当、綺麗……。私もあの雲みたいに自由気ままに空を飛べらたなぁ」





△△△△△△△△





 それから1年の月日が立った。


 私は雲に魅了されていた。手足が動かない私にとって、テレビのワイプに映る作り笑いも、眩い青春ドラマよりも、すこしエッチなCMよりも何よりも、病室の窓からゆっくりと流れる雲は退屈しなかった。

 まるで人みたいに、一つとして同じ雲はない。


 その雲の中でも、一番好きなのは、扁平雲――学術名がフミリスと可愛らしく、最初こそ小さい只の雲なものの、最終的には入道雲にもなる。

 まだ、成長していないけど、いずれは入道雲にも似た大きな存在になるという可能性がとても好きだ。


「あれが、巻雲のすじ雲。あれは巻積雲のウロコ雲、ふふふっ私も1年で色々と覚えたな」


 指さして今日は色んな雲があるから楽しいなと、ほほ笑んでいると病室の扉が開く。


「木田君?………………ってお母さんか、どうしたの?」


 そこには、深刻な顔持ちをしたお母さんがいた。

 お母さんは、私の病室にたまにしか訪れない、仕事が忙しい忙しいといつも言い訳をしている。だから、正直言うと、あまり好きではない。


「春香……。落ち着いて聞いてほしいの……」

「?」


 哀切の表情で言葉が詰まっているお母さん。


「この前の検査でね……。貴方、ガンだって……」


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