表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蜘蛛の意吐 ~あなたの為ならドラゴンも食い殺すの~  作者: NOMAR
~あなたの為ならドラゴンだって食い殺すの~
2/200

 


 二年前、俺が十九の頃、(スワンプ)ドラゴン討伐に出たことがある。

 魔獣が現れるこの大陸では、王国の騎士団、魔術師団は民を魔獣から守るために在る。他にも魔獣狩りを生業とするハンターが集うハンターギルドがある。

 当時、騎士団に所属する俺は第二王子が率いる(スワンプ)ドラゴン討伐隊にいた。


「なんでわざわざ(スワンプ)ドラゴンを討りに行くんだか」


 同僚の騎士で友人のエクアドの呟きに同意しながらも注意しておく。


「そういうことはもっと小声にしろ」

「皆、そう思ってるっての。目撃したって話はあっても人の住んでるとこからは離れてるってのに。それに(スワンプ)ドラゴンは手を出さなきゃ大人しいって聞いてるぞ」

「それでもドラゴンだ。倒せばドラゴンスレイヤーを名乗れるってことだろ」

「角無し翼無しの下位地龍を討伐して、ドラゴンスレイヤーも無いと思うがね」

「三年前のゴブリン大進行撃退に参加できなかった王子様が、手柄を立てたいのだろうよ」

「なんだ、カダールもこれがバカバカしいって解ってんじゃないか」

「それでも騎士の役目だ。なるべく被害が出ないように終わらせることとしよう」


 薄暗い森の中、沼地の近くへと。騎士団に魔術師団、雇ったハンター達で目的地に向かう。二本足で立つトカゲ、リザードマンの襲撃を撃退しつつ、(スワンプ)ドラゴンの住み処へと。


「射て射てっ! 魔術師は火系で集中攻撃!」


 第二王子が後ろから叫んでいる中、(スワンプ)ドラゴンとの戦いは苦戦した。何より足場が泥でぬかるみ動きづらい。平地であればブレスを吐かない下位地龍など、この部隊ならば簡単だったものを。

 一軒家ほどの大きさの巨大な茶色のトカゲ、動きは鈍いが外皮は硬く、泥で滑る。

 剣を振り(スワンプ)ドラゴンの前足に切り込むもたいしたキズをつけられない。

 身体ごと旋回して振り回す丸太のような尾を伏せてかわす。騎士が二人その尾に撥ね飛ばされて、沼の側の繁みに落ちる。もう鎧は泥まみれだ。

 首を振り叫ぶ。


「一度後退を! 足場の良いところまで引き寄せてから!」

「ならん! 逃げられてしまうだろうが!」


 あの第二王子は解ってない。このまま騎士とハンターで押さえて魔術師団が火弾を射ち続ければ討伐も可能だろうが、これでは前衛の被害が増え続ける。

 騎士エクアドが槍を構えて(スワンプ)ドラゴンの後ろ足に突撃する。


「足だけでも止めるぞ! カダール!」

「エクアド! 無茶をするな!」


 (スワンプ)ドラゴンが前足でハンターを撥ね飛ばす。角の無い大トカゲ頭に魔術師の火弾が命中し、滅茶苦茶に暴れだす。俺もエクアドも慌てて飛び退いたところで、(スワンプ)ドラゴンは第二王子のいる後衛の方に突撃する。大盾を構えたハンターが体当たりを受けて、呪文詠唱中の魔術師を巻き込んで倒れる。

 これは不味い、そのときに(スワンプ)ドラゴンの身体の上に影が落ちた。

 (スワンプ)ドラゴンを押し潰すように上から落ちてきたのは、巨大な黒い蜘蛛だった。


「ジャイアントウィドウ!?」


 (スワンプ)ドラゴンよりは少し小さいながらも、小屋ほどはある大きさの黒い大蜘蛛。ジャイアントウィドウは肉食の獰猛な危険な魔獣。そのジャイアントウィドウが(スワンプ)ドラゴンの背に降り、牙を突き立てている。


「ギョアアアアッ!」


 (スワンプ)ドラゴンが悲鳴のように鳴く。背中を噛み千切られて血がしぶく。

 だが、何故、ジャイアントウィドウが人を狙わず、自分より大きな(スワンプ)ドラゴンを襲うのか? 疑問が頭をかすめるが、この混戦に付き合ってはいられない。既にハンター達は退き始めている。

 顔の泥を拭って後衛に走り叫ぶ。


「撤退! 撤退だ! 戻って隊の立て直しを!」

「何を言う! ここまで追い詰めたのだ! 二匹ともまとめて討伐するぞ!」


 こんのボンクラ王子が! 状況解れ!

 ジャイアントウィドウは(スワンプ)ドラゴンの背中に張り付いたまま、牙と爪でその背中を抉り辺りに赤黒い血飛沫が跳ねる。(スワンプ)ドラゴンは背中の大蜘蛛を振り落とそうと滅茶苦茶に暴れ出す。

 こんな二大巨大魔獣決戦に付き合ってられるか。潰しあってくれるなら今のうちに離れるべきだ。

 騎士団長を見れば、


「撤退するぞ! 騎士団は殿(しんがり)! 魔術師団と王子が退くまで援護だ!」


 流石に解っている。俺は喚く王子を退かせる為に近づく。不敬でもいっそ殴って黙らせるか。

 そのとき暴れる(スワンプ)ドラゴンの頭が王子を襲う。迫り来る(スワンプ)ドラゴンの(あぎと)を前に棒立ちになるへなちょこ王子。


「御免!」


 王子を守る為に肩から王子に体当たりをかまして転がす。とっさに右手の剣を迫る(スワンプ)ドラゴンの頭に突き出す。


 あぁ、俺、死んだな。こんなところで(スワンプ)ドラゴンに食い殺されるのか。父上、母上、俺は騎士の務めを果たしましたが、先立つ不孝をお許し下さい。

 だが、待っていても来るべき衝撃も牙も来ない。目を開けて見てみれば、(スワンプ)ドラゴンは俺の目の前で大口を開いて動きを止めていた。

 キラリと光るものがある。よく見れば糸のようだ。(スワンプ)ドラゴンの顎に足に細い糸が巻き付いて動きを止めている。

 これはジャイアントウィドウの糸か?

 (スワンプ)ドラゴンは自分で振り回した頭の勢いを、糸で強引に止められ、めくり上げるようにトカゲのような上顎を大きく開いている。

 俺が反射的に突き出した剣は、(スワンプ)ドラゴンの口の中から上顎を貫いていた。

 状況をやっと把握して止めていた呼吸を再開すれば、腐ったような(スワンプ)ドラゴンの口臭に吐きそうになる。


 口の中に刺さったままの剣から手を離し、倒れて白眼を向く王子を抱えてジャイアントウィドウから逃げる。


「団長! 王子は俺が運びます!」

「任せたカダール! 全員退け! 一旦森を出る!」


 怪我をしたハンターに肩を貸して進むエクアドと並んで、ジャイアントウィドウから逃げる。

 一度、首だけ振り返って見れば、動きを止めた(スワンプ)ドラゴンをジャイアントウィドウが貪り食っていた。

 そのジャイアントウィドウは右の一番前の足が一本欠けていた。

 このときはそのまま全員で撤退した。俺は剣を無くしたが、代わりに(スワンプ)ドラゴンにとどめを刺し、第二王子を救った騎士などと言われるようになった。

 実は(スワンプ)ドラゴンを倒したのはジャイアントウィドウなのだが。


 あの大蜘蛛は俺が窮地のときに現れて、助けてくれたのだろうか?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
がんばる少女刀術師

魔刀師匠 ~私の見つけた宝物~


生け贄の少女と工作好きなドラゴン

ドラゴンの聖女と1本角のドラゴンの帰る家


リサイクル希望作品

県乱武闘!! 石川県VS新潟県


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ