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蜘蛛の意吐 ~あなたの為ならドラゴンも食い殺すの~  作者: NOMAR
~あなたの為ならドラゴンだって食い殺すの~
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 結婚とは打算から産まれる罠、そう言っていた友人の言葉を思い出した。

 これから結婚式を挙げる新郎が考えることでは無いか。貴族の結婚など所詮は政略の為。俺は愛や恋というものとは縁遠い暮らしをしてきたが、そこに少しは憧れもあった。などと言えば男のくせに何を乙女のようなことを、と、笑われそうなので口にはしないが。


「気に入りませんか?」

「いや、そんなことは」


 隣に立つ花嫁、純白のドレスに身を包むフェディエアが俺を見上げる。取り繕うように言葉を返す俺の顔を見て微笑みながら、


「解っていますよ、カダール様。この結婚は私の父がウィラーイン伯爵家との縁を作るのが目的のもの。貴族では無い成り上がりの商人の娘との結婚が、次期ウィラーイン伯爵となるカダール様の意に沿わぬことも、他の貴族から白い目で見られることも、承知の上です」

「貴女はそれで良いのですか? 家名の為にこんな男と夫婦となることなど」

「あら? (スワンプ)ドラゴンを討伐したカダール様が気弱なことを。私も父もカダール様の武勇に惚れていますのに」

「あれは俺がやった訳では無いのですが」


 俺が言うことにフェディエアは、ふふっと笑う。


「ご謙遜を。身を挺して王子を守り(スワンプ)ドラゴンの頭に剣を一撃したと聞いてますよ」

「どうして噂とは大げさになってしまうのか」

「ですが、そのカダール様でも灰龍は流石に倒せませんか」

(スワンプ)ドラゴンは翼無しの下位種で、大きなトカゲのようなもの。災害扱いの灰龍とは格が違います」

「その灰龍のお陰でこうしてカダール様と結ばれることになるとは、思いませんでしたわ」


 灰龍、今、父上が治めるウィラーイン伯爵領を悩ませる一匹の灰色のドラゴン。こいつが山に棲み付いて近くの村を襲うようになった。そのうえ灰龍が棲み付いたのは、ウィラーイン伯爵領の財源とも言えるプラシュ銀鉱石の鉱山。灰龍がいるために採掘はできなくなり財収減に。

 討伐しようにも灰龍はあまりにも危険なドラゴン。腕に覚えのあるハンターも灰龍と聞けば尻込みする。

 畑は灰龍の吐息で焼かれ、被害を受けた村と町の住人を避難させて、現在、ウィラーイン伯爵領は危機にある。

 フェディエアの父、バストルン商会が支援を申し出てその資金で復興を進め、その結果がこの結婚。ウィラーイン伯爵家の俺、カダールとバストルン商会の娘、フェディエアとの婚姻。

 娘を次期伯爵の嫁にしたいバストルン商会と、灰龍対策の為の資金、復興の資金の欲しいウィラーイン家との打算の見える結婚だ。

 だがこれでウィラーイン伯爵領の民が救えるのならば、俺は受け入れるしかあるまい。


「カダール様は不満ですか?」

「貴女こそ、父に道具のように使われて不満では?」


 フェディエアは楽しそうにクスリと笑う。


「あら? 私は幸運だと思っていますよ。カダール様という優良物件を捕まえられて」

「俺はそんなにいい出物ですかね。少し剣に覚えがあるだけで、他には取り柄が無いというのに」

「この婚姻はカダール様にとっても良いのではないかと。このフェディエアは父に習い帳簿をつけるも金勘定も覚えがあります。あなたの良き妻となりますよ」


 このフェディエアの鋭く探るような目がどうにも苦手だ。顔立ちは悪く無いのだが、値踏みされるように見られると気持ちが引いてしまう。一月ほど前に顔を会わせてこの結婚式で顔を見るのは、まだ五回目。どんな娘かよく解らない。


「準備はよろしいでしょうか? 皆様、お待ちかねです」


 神官に促されてフェディエアの腕を取る。今はこの結婚式を無事に終わらせることを考えよう。そのあとは灰龍対策を父上と相談しなければ。


 フェディエアと腕を組み扉を抜けて聖堂へと。バストルン商会の面々とウィラーイン伯爵家、俺の同僚の騎士が祝福する中を進む。

 顔に笑顔を浮かべつつ隣の花嫁をチラリと見れば、フェディエアは嬉しそうに俺と腕を組む。

 さて、俺とフェディエアは俺の父上と母上のように上手くやっていけるだろうか? 

 これまで騎士として生きてきて、女遊びもしたことは無く、どうにも女というものがよく解らない。今年で二十一歳になるが、これまで女と付き合ったことも無い。

 だが、これから夫婦となってから解っていけば良いことか。


 神官の前で婚姻の誓いの言葉を口にしようとしたとき、突如、聖堂の天井のステンドグラスが音を立てて割れる。見上げれば大きな影が聖堂の中へと舞い降りてきた。

「キャアアアア!」

 フェディエアが悲鳴を上げる。参列する者が驚き喚き、何事かと気色ばむ人々の中、割れた色とりどりのガラス破片を散りばめて、降りる黒い影には見覚えがあった。

 あれは――



 

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