4、プロの引きこもりとは
「では、続いてのニュースです。布列見動物園で元気なゴリラの赤ちゃんが生まれました!」
水曜日。
朝から人気の女性アナウンサーの元気な声がスピーカーから流れてくる。
今日も世間は他人の幸せを祝えるだけ心に余裕があって、何よりである。
「お母さんゴリラのゴリ実は大切そうに赤ちゃんを抱えています!」
元気な赤ちゃんが生まれて動物園は成長に期待しているらしい。
俺はお母さんに抱かれて眠る赤ちゃんゴリラに目を向けた。
今、6枚のモニターは横に3枚ずつ、縦に2枚ずつ配置され、それぞれ別の映像が流れている。
左下のモニターには朝のニュースが映し出されており、そこでは母ゴリラに抱かれた子ゴリラがスヤスヤと眠っていた。
「今、動物園では赤ちゃんゴリラの名前を募集しています! 皆さんの御応募お待ちしております!!」
この小さい赤ちゃんには、とても大きな期待がされているらしい。
当の本人? 本ゴリラ? には何もわかっていないだろうが、生まれた時から赤ちゃんって大変だなと思う。
俺も生まれた時はそうだったのだろう。
おそらく親や周囲の人も含め、大きく成長し、立派なゴリラ…… じゃない、立派な人間になることを望まれていただろう。
「時刻は8時30分! 8時30分! ズポポッ!!」
ニュースのマスコットキャラクターが時報を告げる。
この時間、同い年の人たちは大抵学校に向かっているはずだ。
もしくは仕事場に向かって仕事をしている人たちもいるかもしれない。
しかし俺はというと……。
「ふーー、腕立て終〜わり。次腹筋200回〜」
額の汗を気持ちよく拭い、引きこもりライフを快活にスタートさせる。
生まれた時の御期待に添えているかどうか分からないが、俺はプロの引きこもりだ。
誇りを持って引きこもりという職業を全うしている。
プロの引きこもりの原則は“人に迷惑をかけない”ということ。
これを基本に俺は行動を行なっている。
よってプロの引きこもりたるもの、筋トレを怠らない。
引きこもっているからとはいえ、運動を怠ったら病気になりやすい。
仕事中に病気になるのはプロとして失格だ。
だから俺は朝の日課として筋トレをしている。
ムキムキではないものの、最低限の筋肉は維持できていると思う。
他にもプロとしてのプライドとして、学校に行っている。
学校に行ってないだけで生きづらくなる世の中だ。
また、生きる上で最低限の知識は持っていないといけないと思う。
ただし、すでに自学自習を徹底していたため、とうの昔に学校で習う全てのことを終えており、今では自らそれを高めるべく研究まで行っている。
学校に行く必要はないかもしれないが、なぜそれでも行くかというと、何かと卒業後の特典も大きいものがあるし、引きこもりのイメージアップにも繋げたいからだ。
知らないおばさんに、これだから引きこもると……、なんてぐちぐち言われたくない。
他にもプロとしての心構えはたくさんあるのだが、ここで気付いた人もいるかもしれない。
“引きこもりなのに、どうやって学校に行っているんだ??” ということ。
この答えは中央のモニタを見れば明らかだ。