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2、暗い夜道には獣が現れる

2018/04/09 数字を漢数字に変更しました

  都会の空気が澄んでいる。

  周囲は家々が立ち並び、そこに灯る明かりは一つ、また一つと消えて行った。朝には慌ただしかったこの住宅街の住人も、皆明日に備えようとしているのか、今やすっかりと落ち着いている。


 その不気味な静けさの中で、気分だけでも明るくいようと自分に言い聞かせている少女がいた。


 黒くツヤツヤした髪はそのまま下ろされ、ツインテールは肩にかかるくらいの高さで揺れている。水色のTシャツにハーフパンツという普通の服装だが、普通の女子高生が着るものとは違って小洒落て見えた。おそらく着こなし方がいいからだ。


 春の夜道では風が少し肌寒く感じるかもしれない装いではあるが、彼女を見るとそんなことを心配する必要はなかったと思うほど元気である。


 彼女は家への帰路を歩みながら、今日もいい日だったと振り返った。


 新曲のダンスレッスンはいつもより早く振り入れできたおかげで、上達も早くスムーズに終わった。

 来週末は初披露のフリーライブがある。

 そこに向けてメンバーの士気も高まっているし、今回もいいパフォーマンスができるといいなぁ、と思う。


 見に来たくれた人達の盛り上がる姿を想像すると、つい嬉しくなってしまう。


 自然とダンスのステップを踏んでいた。


「ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイト!」


 ダンスシューズではないが、スニーカーでも軽快にそして思い通りに足を運ばせられた。


「完璧。よし!」


 今少女は一人であるため周りに共感してくれる人はいないものの、独り言を言ってはできる喜びを噛み締めていた。

 

 しかしその時、


「アオーーン、アオーーーン」


と、どこかから犬の遠吠えが聞こえてきた。

 思わずギクッと身震いし、その足取りは止まる。


 犬の遠吠えは止まらず一匹、また一匹と輪唱するように増えていった。

 ただでさえ静まった住宅街は不気味だというのに、普段と違う雰囲気に背中がこわばった。


「偶然……だよね?」


 大丈夫と自分に言い聞かせながら、また暗い住宅街を前へ前へと進む。


 しかしまた不意に鋭い視線を背中に感じ、また足が止まった。


 自分は多くの人に見られる仕事をしている。

 その分人の視線を沢山浴びてきたはずだ。

 そうして分かった事が視線にも種類があるという事。

 好意の視線、羨望の視線、興味の視線、尊敬の視線、誰かが見守ってくれているような温かい視線……。


 色々あるものの、今背中に受けている視線は今まで感じたことのない、ひどく冷たい鋭利なものだった。


 足を止めてしまったが、このまま振り返って良いのだろうか? と少女は思った。


 明らかに何者かが“そこ”にはいる。

 だけど、振り返ったところで私はどうしようもない。


  そう考えると、少女は早足で前に進み始めた。


 しかし視線の主の気配はより一層強まるばかりで、逃がしてはくれなそうである。


(家までたどり着けば……。一人暮らしだけど、きっと家の中までは追ってこない……よね?)


 少女は走り始めた。

 走りながら思案に耽る。

 春の夜で決して暑いとは言えないが、背筋に汗が滲み始める。


(今追って来ているのは誰? 私に縁がある人?)


 少女の中に疑問が生まれて行く。


 後ろからはかすかではあるが、タッタッタッタッという、静かで無駄のない足音が聞こえてきた。


 背後からの圧迫感が背中を押す。

 一人では重いその圧力に耐えきれず、大声で助けを求めた。


「は……ッ、ぁ。誰かっ! 誰か助けて!」


 しかし、街は誰もいないかのように反応する者はいない。


 走りながらスマホを取り出す。


(家まで持たないかもしれない。警察に助けを求めなくちゃ。正体は見ていないけど、間違いない。——あれは私を追いかけている!)


 緊急通報のボタンを親指で押し、視線をスマホに向けながらスクリーンに表示されたテンキーに、1、1、0と走りながら左手で確かに番号を押す。


 トゥルルルルル!トゥルルルルル!——ッツ


 コール音が2回で繋がった。電話から男性の声が聞こえる。


布列見(プレミ)警察署です。事件ですか? 事故ですか?」


(やった! 繋がった!!)


 しかしその途端、少しホッとしたせいか、自分は道の端に近づいている事に気がつかなかった。

 そして無情にも、少し持ち上がっていたクレーチングのせいで側溝に足が引っかかり、そのまま姿勢を崩してしまった。


(きゃっ!?)


 閑静な住宅街に似合わない鈍い音が響いた。

 少女は派手に転び、道の中央で尻餅をつく。

 膝小僧は擦り切れ、血が出ていた。


(痛い! ……でもそれより今はスマホ!)


 せっかく繋がった希望だ。

 スマホで助けを求めなくてはいけない。


 しかし、先ほどスマホを握っていた右手には土しかついていない。

 転んだ衝撃で反射的に落としてしまっていたのだ。


(——こんな時に嘘!? どこにあるの?)


 四つん這いで周囲をすぐに見回す。

 走って向かっていた方向に四角い光が見えた。

 おそらくあれだろう。


 すぐに立ち上がって、そちらへ向かおうとしたがその時、


「グルラァァァァァッァァァァッ!!」


と獣の雄叫びが聞こえた。

 背後から何かが自分の上空を飛びこえ、スマホの近くに四肢をもって着地する。


 周囲は薄暗い電灯の光も若干しか当たらないこの夜道ではあるが、スマホの明かりによりそのモノの詳細が闇夜に浮かび上がった。

 少女は自身を追っていたモノの正体をここで初めて確認した。


「何よ……、コレ……」


 それは交差する道の中央に佇むのは鋭い牙を持った虎であった。


 いや、虎と形容するにはひどく動物離れした荒々しさを持ち、この世の生物とは到底思えない紫色の巨体であった。

 何かに酷く歪められたと言っていい……、もはやそれは怪物である。


 少女は足がすくんでしまい動けなかった。

 そして怪物の方はそのことに気づいているのか、悠然と、強者の威圧を持って近づいてきた。


(——私、どうなっちゃうんだろう? 今までに何か悪いことしたのかな?)


 思い出すと色々ある。

 人から借りたものをなくしてしまったこと。

 ダイエット中なのにお菓子を少し食べてしまったこと。

 何時かのレッスンに寝坊したこと……。

 大したことがないものでも、今では非常に罪悪感を感じる。


(ごめんなさい……。許して……)


 目が熱い。

 ぼやけて目の前が見えない。

 背筋も震えている。

 しかしあの化け物は構わず足を早める。


(だから誰か! 助けて。お願い……)


 少女は必死に願う。

 手を胸の前で合わせて握り、願う。

 その願いはどのような者へも向けられる。


(自分はここで死んでしまうの? まだ、やりたいこともたくさんあるのに……、神様……誰か……助けて下さい……)


いきなりある少女がピンチです。

そして二話目で主人公が出てこないという……

((すみません))


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