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第一

第一章 リトライ

 気がついたら、死んでいた。……そうだ、僕は自殺したんだ。

 僕は、究極の選択を誤ったのかもしれない。

 その選択は僕の人生を大きく変えてしまった。今思えば後悔している。いや、後悔しない選択など無かった。

 ……良かったのかもしれない。どっちにしろ、終わったのだから。

 今日では、亡くなった人の割合で、自殺が病気を抜いて一位になっていた。学校でのいじめや、テストで良い点がとれないという欲求不満などによって現実逃避してしまい、「自殺する」という人が増えてしまったのだ。もはや、どこで誰がいつ自殺をしてもおかしくない世の中になってしまった。数年前までは、考えられなかったことだ。

 命はかるくなった。つまり、自殺したいという人が多くなってしまったのだ。自殺する人の殆どが親の事を少しも考えていない。親不孝もいいとこだ。

 自殺したら自分の魂が他の人にのりうつって、また人生をおくることができるという噂までたっていた。当然ながら、信じる人はほとんどいなかった。

 

 ……だが、残念というべきか、ここにその噂を信じる人がいた。

 僕、阿倍広樹あべこうきだ。

 唐突に言うが、僕は今の人生が詰まらなくなっていた。

 生きている意味が分からない。これは、今僕が思っていることだ。具体的には、生きていて何をしたらいいのかが分からない、そう言い置き換えれるだろう。

 そんなことを友達や家族には、相談できないだろう。もし、相談できるというなら家族が限度だろう。友達に相談している時はいいとして、終わったらどうする? 多分、いや、必ずと言っていいほど、軽蔑されるだろう。外見では分からなくても……そうされる。

 結局、一人でその問題を抱え込んで、悩みつづけ、挙句の果てには絶望する。それが、今の現状。

 ……今は、「誰もが自殺してもおかしくない世の中」と思った。この考えは聊か間違ってはいないと思う。また、偏見でしかないとも言える。

 この世の中にどうしてなったのだろう? ふと、そんなことを考える。だが、無駄だった。

 こうなることは、決まっていたのだから。

 

 ……そして、僕は、ある切っ掛けを境に究極の決断をしたのであった。

 その切っ掛けは……。

 この決断をしたのは、高校の初めぐらいだった。

 僕が進学した高校には、中学校からの友達が少なかったせいか、一週間、一ヶ月たっても他の人と馴染めずにギクシャクしていた。友達ができる機会は、何回もあったのに。勉強もついていけずに。登校するときも、授業を受けているときも、下校するときも、部活をしているときも全てつまらなく感じた。むしろ、努力するだけ無駄だと思うようになっていた。皆と噛み合わない日々が、僕を少しずつ追い詰めていたのかもしれない。

 だんだん孤立している気がしていた。普通の毎日が欲しかった。

 中学の時まで吹いていた風は気持ち良かったのに、今吹いている風は、どことなく、冷たかった。

 あの頃の風はもう……過ぎてしまった。


 最近日がたつごとに学校に行く足どりが重たくなっていった。いっそのこと引きこもりになりたいと思った。でも、僕の唯一の希望があった。それは親友の野田けんたろう(のだけんたろう)がいることだった。

 野田は、坊主頭で、その髪型からわかるように野球が好きな親友だ。――別に、僕より馬鹿と言っているわけではない――根は優しくて、とても他人思いだ。

 僕と野田は、幼馴染で小学校・中学校に一緒に登校していた。クラスが違っても、部活が違っても、僕達は親友だった。でも、高校は運が悪く、二人とも違うところに行くことになってしまった。

 ある日、野田と遊んでいるときに言われた、一言。彼からしてみると冗談の一言。だが、僕はそれをどうしても冗談と受け取れなかった。

 唐突に言われた一言。普段その様なことを言わない人だからこそ、その言葉の効果は大きかった。重かった。

 だからこそ、その言葉は僕の心の奥深くに、つきささる。

 それは、すぐには抜けないものであった。長い間、抜けない、抜きたくても、抜けないもの。

 その時に僕は、自殺という言葉が脳裏に浮かんでしまい、心が大きく揺らいでしまった。

 ……その他にも、たくさんの破滅への切っ掛けがあった。

 その日の一ヵ月後の夜に僕は破滅、つまり、僕は自殺したと思う。この気分から一ヶ月ぐらいもったのは、今思うと凄い事だと思う。日にちはあまり正確には覚えていない。

 僕は、自殺したら魂が他の人に乗り移って、また人生が送れるという、都市伝説みたいなことを、にわかに信じていた。しかし、それが本当になるなんて……

 

 目を覚ますと、僕はうつ伏せの状態になっていた。顔が地面? についていてひんやりしていた。

 ふと気づいて前を見ると、目の前には、何かがいた。確実に人間ではない何かという存在があった。

 例えるなら――そう、神みたいだった。神なんても当然見たことはないのだが、なぜかそう思った。

 手が異常に黒くて、反対に足は異常に白い。凄く不気味だった。

 様子を伺っていると、こちらを振り向き、目を合わせてきた。目があった瞬間、おぞましい殺気を感じた。それは、全身が硬直している感じに少し似ていた気がする。

 僕は、無理やり自分の体を動かし、その殺気をさけるように、僕は周りを見渡した。しかし、何もなかった。白くもなく、黒くもない、透明な空間。見渡す限り、どこまでも続いている、そういう空間がそこにはあった。これぞ正しく「無」というものなのかもしれない。地面なんて無かった。……でも、僕は諦めずに、ほかに誰かがいないか必死に走って探した。足が棒になるまで、ずっと


 その行為は、殺気を少しでもさけるためでもあった。

 ……すると、僕が少し走っている時に

「汝は何をしているんだ?」

とつめたい目で、神みたいなのがいきなり聞いてきた。僕は、足を止めて振り返り

「……え!?」

 戸惑うのも無理はない、人間ではないということもあるが殺気を感じつつもあったからだ。

「我はゾディアック」

 神みたいなのは、僕に目を合わして唐突に言った。その時は、さっきまでの殺気は感じられない。

 ゾディアックの目を改めて見てみると、どんよりと黒く濁っていて、希望がまったく感じられなかった。まるで何かを訴えかけているようだった。

「汝は本当に自殺してよかったのか? 後悔はしていないのか?」

 と目の色変えずに聞いてきた。僕にとってはもう少し目の色が澄んでいてほしいが。

 なぜ、そんなことを知っているんだろうと思ったが、僕にとって、その質問は何とも思わなかった。前までは、そのようなことを聞かれたら、少しは戸惑うか、動揺するだろう。でも、今は違った。感情がない同然だった。――ただの機械のように。

 僕は、ゾディアックを見て言った

「ところで、あんたは一体何なんだ?」

 ゾディアックは、真上を見て言う。僕の歯車が少しずつ、少しずつ……

「我の名であるゾディアックは、この空間内だけの名だ。他の空間では、名が違うのだ。」

 その意味が、今一僕には分からなかった。空間? なんだそりゃ。

「いや、ちょっと待てよ! この空間だけの名って……じゃあ、あんたの本当の名前は何なんだ?」

 詳しい意味が知りたく、戸惑いながらも聞いた。だがその直後、ゾディアックの身の回りに、光の渦ができて、ゾディアックは逃げるかのように姿を消してしまった。

 驚いた。誰だって驚く、あんな人間離れしたことをするから。驚かないほうがすごい。

 それからしばらくの間、誰も何もない、ただ一つの空間で自分の過去を振り返っていた。

 ……すると、ゾディアックの一言が何度も何度も脳裏を過ぎった。

「後悔はしていないのか?」と。

 

 今思うと、僕のまわりの人たちは楽しそうに毎日を過ごしている気がする。しかし、僕は悲しい毎日を送っていた気がした。それは、どのくらいが悲しいのか、どのくらいが楽しいとか分からなかった。この世の中の普通が分からなくなっていった。

 努力すれば成功するだの、練習をすると結果がでるだの、全て無駄だと思う。

 自殺した今。僕は、何をしたらいいのかが分からなかった。するとその時、僕の目の前にさっき見た光の渦ができてその中からゾディアックが現れた。その直後に、

 「お前は人生をやり直してみたくないか?、記憶はそのままで、時間だけが小学生の時に戻れるということを」

とゾディアックは、目をつぶりながら僕に言った。僕は、この時は躊躇無く言った。

「はい、戻りたいです」

するとゾディアックはしばらく硬直した後、頷いて、光の渦が再び現れて消えた。その瞬間、空間がゆがみ、視界が真っ黒になって、僕は意識を失った。


第二章 再臨

 意識が戻った。その時、突然

「おい阿倍!机で寝るんじゃない!起きろ!」

と聞き覚えのある声が、僕の耳にはいった。目を開けて、あたりをみわたすとそこは、間違いなく小学校と分かった。多分・・・入学してまもないくらいだと思う。顔と言葉でだいたい分かった。幼く、みんなかわいかった。

「……あ! 僕は、また同じ人生を送れるんだ」

 嬉しかったけど、悲しくもあった。

「おいおい、なに寝ぼけてんだよ、しっかり授業を受けるんだぞ」

 先生は笑いながら僕に注意する。

 右手には教科書を持ち、左手にはチョーク。先生のよくあるスタイルだ。

「はい、がんばります」

 僕は、前の人生のような道は進みたくないと思い、自分が変われる結果を求めて、自信たっぷりに返事をした。

 僕の中で何かが変わろうとしていた。そう、何かが……

 

 家に帰ると、玄関前に母さんがいた。

 今日使うだろうと思われる具材が、袋に入っていた。玉ねぎ、人参、じゃがいも、たまご……カレーのル―! あれがあるということは、十中八九、カレーだ。

「今仕事先から帰ったところなの」

「ふーん、そうなんだ」

「今日学校どうだった?」

「普通だった。いつもと変わんなかったよ」

といつもの会話が始まった。

 顔をじっくり見てみると、さっきまで見ていた母さんより若かった。当然だ。4~5年違うんだ。だが、僕には全然変わっていないように見えていた。……正直ショックだった。

「広樹どうかした?」

「いや、なんにもだよ」

 その場には兄もいた。

 兄は、髪が長くてファッションに気をつかう、でも僕は、髪は短くファッションに気をつかわないので正反対だった。あの時は気軽に接することができたけど……今はそうそう口も聞いてくれない。そうだった……高校にはいるまでは、まともに口を聞いてくれないんだった。兄は小学2年生だ。また、7年もの歳月を待たなければいけなかった。しかし、これから僕の望んでいた普通の毎日がこれから待っている。わくわくしてたまらなかった。

 だが、実際は毎日何も熱心に取り組むことができなくてつまらなかった。ただ、時間だけがはやくすぎている気がしていた。自殺したせいだろうか。あれだけ欲しかった普通の毎日が、こうもつまらないなんて、思いもよらなかった。

 朝7時に起きて、7時30分に家を出て、学校に着いて、授業を受けて、昼食を食べて、帰宅して、夕食を食べて、風呂に入り寝る毎日。これが普通の毎日のスケジュールみたいなものだった。ふと、僕は普通じゃない毎日を経験したいと思った。……普通の毎日に飽きてしまったからだ。

 よし! 明日から、小学校の時にすれば良かったと思うことをやろう! 僕は、心にそう誓った。

 今は、ポジティブに毎日を送りたいと思った。

 それは……普通の毎日が、希望の毎日に変わった瞬間だった。だが、失望の毎日に変わった瞬間でもあった。

 その日から、積極的にクラスメイトに声を掛けるようにして、クラスに馴染もうと頑張った。

 数日後ぐらいから、段々クラスメイトの仲が良くなっていたのが分かった。一番大きかったのは、名前を覚えられたこと。興味を持ってもらうには、その人の名前を知らないといけないから。

 ……初めの時は、小学校生活がとても充実した毎日になっていった気がする。うれしい気持ちで心がいっぱいだった。

 

 僕には好きな人がいて、一応付き合っていたんだ。好きな人は、たしか6年生の時に始めて会うんだっけ……。もちろん名前は、知っているから会うことができるんだろうけど、勇気がでなかった。もし、これが原因で”付き合うことができなかったら”と思うと。多少の運命は変えたいけど、これで大きく人生が変わるのなら運命にまかせようと思った。

 勉強は余裕だった。高校生の頭脳をもっているから、授業は聞いていなくても全然平気だった。中学から一生懸命頑張ろうと思った。

 それと正反対に家では、相変わらずつまらないことでいっぱいだった。唯一楽しい時間といえば母さんと話をするときぐらいだった。朝食の時や学校帰りの時、夕食の時間などが楽しかった。兄とは、あまり接しないようにしていた。僕が前の人生の時に家で話しかけても面倒くさそうにこっちを見るだけで、返事をかえしてこないことが多かった。いわば、トラウマだ。……あ!これって人生が変わっているんだ。やばい・・・これから兄はどういう風になっていくんだ?前の人生では、兄が嫌がっていても積極的に話しかけていたから高校の時から優しくなっていったんだけど・・・まぁいいか、僕は自分の人生がいやだったら自殺してもう一回トライすればいいことだし。もはや、僕の頭の中には何回も人生をやり直せるからいいという甘い考えが定着していた。

 いつのまにか僕の心に大きな溝ができていたと思う。この軽率な判断がこの先の人生の歯車をおかしくしていった。

 次の日は、時間割通りの授業でいたって普通だった。友達は、少しづつできている気がする。どのくらいから友達なのかが、分からない。だから、僕が友達と思っている人は、僕のことを友達と思っていないかもしれない。反対の場合も勿論ありえる。

 小学生一年生と話すときは、結構苦労する。言っていることは分かるのに、言いたいことが分からない。表現が稚拙すぎて、解釈するのに意外に困る。

 う~ん、これは所謂、言葉の壁ってやつだな。これは相当厄介だぞ。

 そんなことを考えていたら、学校が終わった。

 ここまでの感想、一年生は予想外につまらなかった。全然話題がついていかなく、僕が遊び飽きたおもちゃを使って遊ぶことがほとんどだったからだ。アニメも人気だった。でも、僕は小学校のときは全てといっていいほど見ていたので、先が分かってつまらなかった。変な気持ちだった。僕は、こういう気持ちになった時は自転車に乗ってどこか遠いところにまでサイクリングにいくんだけれど、まだ小学1年生だから、母さんがすごく心配するからできないし……

 それよりもまず自転車に乗ること自体が相当難しかった。もし、乗ることができたとしても補助輪が付いていて恥ずかしいのだ。あと、車輪も小さく高校生が普通乗る自転車の車輪に比べればかわいいものだった。一回ペダルを踏んで一回回すと思っているよりも全然進まなかった。この調子じゃどこにもいけない。

 そうなのだ、小学校1年生の時の行動範囲は極端に小さいが、高校生は自転車である程度遠くまで行くことができる。もっと遠くに行きたいのなら電車も使える。お金が使えることで行動範囲はすごく大きくなるものだ。

「あぁ~以外に時間がありすぎてつまらないな、高校生の時は宿題が多すぎて時間が全然足りなかったのに……」

 この時間が後々貴重になってくるとは、この年齢では誰も思わないだろう。まさに、”時は金なり”かな。

 

 初めての夏休みがきた。宿題は一年生だから少なく、余裕で出来ると思った。夏休みは1ヶ月と少しなので、また暇すぎる毎日が僕を待っている気がした。この夏の気温は、聞いただけでも汗がでるような温度だった。友達は小学生だから外でわいわい遊ぶだろうが、遊ぶことに僕は精神的に拒否していた。遊んで、汗かいて、その汗で服がべたつき肌につく。僕は、外で遊ぶことは遠慮するけど、家で遊ぶのなら全然かまわなかった。僕は断然インドア派だった。

 僕の印象に残っている場所は、小学校の屋上だった。屋上は、立ち入り禁止なので普通は誰もいない。そこから見る景色は、きれいだった。たまに近くで祭りがあり、花火が打ち上げられる。それを見るのにもすごく適している所だ。この場所は親友の野田にだけ教えてあるので、来るとしたらほとんど野田だろう。ここに来るときは、授業をさぼりたいときや寝たいときにおすすめだった。授業の時に野田がいなかったらまずここに来ているだろう。二人で一緒に来たときもあった。秘密の隠れ家みたいなところだった。それにしても懐かしいところだ。

 風が吹いて僕の体にあたった時、一瞬だけ思い出の記憶を再生しているような感覚にあった。とても…

…とても不思議だった。

 

第三章 特殊な人達

 日が経ち、僕は小学6年生になった。

 今年の学校の行事はたくさんある。今はその行事についてのHRで、僕は興味がないので、今日も休み時間のときに屋上に行こうかと思っている。

 先生が話をしているが僕は何ひとつ聞いていない。すると、授業の終了を意味する鐘が鳴った。それと同時に僕は椅子から立ち上がり、勢いよくドアを開けて屋上に向かった。

 屋上の階段を上ってドアを開けた。

 そこには、僕は見たことが無いけど、服装を見る限り同学年らしき男の子が空を見ながら立っていた。とても悲しそうな表情をしながら。

 近づいてみると、いきなり僕の方を向いて

「あ! いたいた、君って一回死んでるよね?」

 冷たい目で僕に唐突に変な質問をしてきた。何を言ってるんだ? と思ったが、事実に変わりはなかった。

「し、死んでなんかいねぇよ、そんなのありえないじゃん、現実的に」

 少し動揺しながら僕は嘘をつくが、簡単に見破られる。

「嘘はついちゃだめだよ……僕も死んだことがあるから、雰囲気で分かるんだよ」

「嘘じゃない、本当だ。僕は……僕は死んでなんかいない!」

 自らの死を、今だけは否定する。

「はいはい、分かったよ。あんたは死んでない。これでいいのか?」

 確認ということは、疑っているのか。どこに根拠がある? 雰囲気なんかでは普通は分かるはずがない。

「疑っているのか?」

「そりゃ、勿論。分かるんだよ。」

 分かる? それこそ嘘だろ。

……そして、彼は言った。証拠とも言うべき言葉を

「ゾディアック」

「あ?」

「ゾディアック、知ってるよね?」

「……嘘だろ、お前も死んだことがあるのか……!?」

「…………」

数秒の沈黙の後、口を開いたのは彼だった。

「もしかして、人生をやり直せることができる人は、自分一人だけだと思っていたのかよ。甘いな、世の中そんなに甘くはないんだよ」

 数秒前とは大違いだった。性格が変わっている。口調が、優しくない。

「そ、そんな……え? ちょっと待て、ということはお前も特殊な透明の空間に行ったのかよ?」

「まぁ、運が良かったからな。しょうがない、時間があるから説明してやろう。死んだ人たちの中から選ばれたお前みたいな人のみが、特殊な空間に行くことができるんだ。そこで、神みたいな者に出会うはずだ。お前もあっただろ?」

「あぁ…会ったよ…」

「そこで、その神みたいな者に人生のやり直しを了承されたものが人生をやり直せるっていうわけだ。」

「え?じゃあ、俺がもう一度死んだらどうなるんだ?」

「はぁ・・・まったく知らないんだな、一度特殊な空間に行った人は、死んだら何回でもいけるんだ。まぁ、その度に神みたいな者からの了承が必要だがな。」

「そうか・・・つまり、死んで特殊な空間に行って神みたいな者に出会って、了承がもらえれば何回も人生をやり直せるってことか?」

「う~ん・・・いや、そうでもないんだな。一回自殺してもう一回人生をやり直すと、やり直せる年数が減ってくんだ。一回のやり直しをした人達は、小学校1年生に戻ることになっているんだ。それから自殺して人生をやり直すごとに、ランダムで小学生の時から約1~5年経過してから生き返るんだ。あとはそれの繰り返しみたいなもんだ。わかったか?」

「あぁ、分かったよ・・・まじかよ、俺たちみたいな人がたくさんいるわけだろう?」

「あぁ、そういうことだ。まぁこれも何かの運命だろう、俺は、石動寛田いするぎ かんただ。お前の名前は?」

「阿倍広樹だ。」

「一様覚えておく、会える機会がまたあるからな……あ!そういえば、お前って超能力的なものが使えるか?」

「はぁ?そんなもん使えるわけないだろ」

「そうか、まだつかえないか……」

 石動が校内へと戻るのを、止める。

「石動も、あれを 神みたいなもの って呼んでいるのか?」

「え? あ! ……いや、お前が呼んだから――じゃなくて、そうそう何となくだよ。何となく

。じゃ、じゃあ!」

「あ、逃げた。」

「石動! 待てよ!」

 石動は、何の反応もせずにどこかに行ってしまった。

 ありえない、あの動揺がそう言ってるようなものだ。「お前が呼んだから」これはおかしい。僕は、 神みたいな者 とは一言も言っていない。なぜ? どういうことだ? 

 ――それからは、楽しいと思っていた学校の行事がたくさんあったが、今はそんなことを考えている暇は全然なかった。あの石動のことが気になっていてしょうがなかったのだ。もっと詳しい事を聞こうと何回か会おうと思っていたが彼の姿はなく、どこか転校してしまったものだと考えていた。僕は、石動が最後に言った

「超能力的なものが使えるか」という質問が、妙に気になってしょうがなかったのだ。


 中学~~~~

 

 

 僕は、やっとのことで中学に進学した。小学校までの道のりが近かったぶんに、中学校までの道のりは大変なものだった。片道だけで、うんざりするほどの距離でめまいがするのどだった。入学式の日に野田と一緒に歩いきながら小学校の思い出を話していた。長い道のりだけど野田と話しているからとても短く感じた。この日の空は、一面鉛色の空で僕をこばんでいるように感じられた。今雨が降ってもおかしくない天気だった。

 中学校生活が始まってから一ヶ月くらいは、野田と登校していたのだが部活が始まってからは、時間が合わなくなり一人で行動していた。

「これじゃあ前の人生と一緒じゃねぇか……つまんねぇ」

 独り言を言いながら歩いていると、後ろから走ってくる人の足音がした。僕は、立ち止まって後ろを振り返ってみる。すると、そこにいたのは転校したと思っていた石動だった。

「なんで!? なんで石動がいるんだよ、しかも同じ中学校の制服を着て……転校したんじゃないのか?」

「はぁ? 誰が転校したって言ったんだよ、まぁそのつもりだったんだけどな……」

「え? なんかここにいる理由があるのか?」

「あるけど、今の君には教えることができない」

 石動はそう言い、逃げるように走っていった。僕は、石動の後姿を歩きながら見ていた。すると、一瞬だけ石動の周りがおかしくなった気がした。例えるなら……そう、空間が曲がるみたいな。

 僕は、その時超能力なのかなと思ったがその場では、はっきりとは分からなかった。

 親友の野田とは、クラスが一緒になれた。だが、石動とは違った。もっと詳しい事が聞きたいのに残念だ。僕は、中学校でも屋上に上がって授業をさぼっていた。小学校の屋上より少し綺麗で暖かく、風も程よくあたり、寝転んだらぐっすり眠れそうな所だった。第二の秘密基地にぴったりだと思い、早速この場所を野田にも伝える。これで野田もいつかは来るだろう。

 いつもの昼放課の時間に屋上でごろごろしていたら、僕の後ろに誰かが来た。僕は、野田だと思った。しかし、そこにいたのは石動だった。

「なんで石動がここに?」

「別にいいだろ、お前だけの場所じゃないからさ。それよりお前に伝えたいことがあるんだ。」

「な、なんだよ?」

「これからは超能力を持っている人とは絶対にかかわるなよ、襲われるかもしれんからな」

「はぁ? なぜ僕を襲うんだよ?」

「詳しい事は……知らないんだ」

石動は何か隠しているようなそぶりで言った。いかにもあやしかった。でも、僕はあえて何も言わなかった。

「そうか、でもどうやって超能力を使えるんだ?」

「超能力はある一定の条件を満たさなければ使うことができないんだ」

「そうなのか・・・でお前はどういう条件だったんだ?」

「そんなことお前に教えても無駄だよ、人によって条件が違うからな。超能力が使えなかったら、この先少し厳しいかもなぁ・・・ってなわけで頑張れ」

「はぁ? 超能力なんてどうやってつかえるんだよ?条件が分からないのに」

「自ずと分かるだろう、それまで辛抱しとけよ、俺は使えるけど……」

と言って、ゆっくりと屋上を出て行った。

「また超能力の話かよ、いい加減しつこいぜ、条件って言われてもな……」

 愚痴を言いながらも僕は、超能力のことを考えていた。ただただ条件が知りたかった。

 超能力っていわば魔法みたいなのかな? と思っていた。

 ……実際に超能力を使うところに居合わせるまでは、確かに。

 

第四章 超能力  

 僕は、その日もいつもどおりだった。でも……なぜ、なぜ僕にだけこんな運命が待っているのだろう。 過去の運命を変えてきたから、その影響で未来が変わって起こった。僕はそう考えたが、これがもし決まっていたら? そうだったら、なんとも残酷なんだろう。

 その出来事は、下校時に起きた。この時は一人だった。野田は部活、石動は不明。

 僕が通学路である工事現場の近くを歩いているときに、たまたま作業員が誤って鉄骨を落としたのだ。

「あ! 危ない、君!」

 上から大きい声がしたので、頭上を見る

「え?」

 巨大で重たそうな鉄骨が、気づいた時にはもう遅かった。

 第二の人生がこんなかたちで終わるとはな、ついていないな…

 でも、僕の寸前のところにまできたら、急に鉄骨の落ちるスピードが遅くなった気がする。いや、遅くなった。

 僕は、その一瞬の隙に咄嗟に横に精一杯跳んだ。その後、すぐに鉄骨は大きな音をたてて地面に落ちた。危なかったと思い、地面を見てみると、コンクリートなのにひびが入っていた。

 痛てててて、なぜか今ならゴールキーパーのしんどさが分かる気がする。

 奇跡みたいなことが起こったので生き残れた。……まだ第二の人生は続いている。

「おぉ、大丈夫か君?」

「はい、大丈夫です」

「そりゃ良かった。すまなかったね」

 そう言い、作業員は数人で落ちた巨大で重そうな鉄骨を拾い集めだした。

 僕は、どうもあの時どこかがおかしかった気がしてたまらなかった。普通なら潰されていた気がする。でも、僕に当たる寸前で鉄骨が止まったように遅く感じたのだ。

「馬鹿な、そんな馬鹿なことがおきるはずがない。もしかしたら、超能力なのか」

 僕は、少し超能力を信じつつあった。

 ……大変なことに気づいた。僕は……生き残ったことよりも、超能力のことを考えている。これは、最悪だった。

 


 僕は、そのことを思って石動に聞こうとしたが、肝心な時にいないのがなぜか普通だった。そう、僕から避けるように僕の前に姿を現さないのだ。

「いない! 全然いないじゃんかよ、超能力で姿でも消してんのかよ」

 毎日のように愚痴をこぼしながら石動を探していた。

 最近口を言う回数が増えた気が……これも石動のせいだ。

 もう、諦めかけようとしていた。それもそのはず、石動を探し始めてからもう一ヶ月が過ぎようとしていたのだ。しかし、石動のクラスの友達に聞いてみると毎日休まずに来ているらしい。さっきも見かけたらしい。僕は、それを聞いて愕然とした。

「まさか、超能力で消しているのかよ……いや、まてよ、もしかしたら僕にだけ見えていないか?」

 僕は、ふと疑問に思った。その疑問を解決するために、先生に怒られてもいいので、僕は石動が帰ってくるのをクラスの外から見ていた。だが、授業が始まるチャイムが鳴っても石動は帰ってこなかった。僕は、授業の終わりのチャイムが鳴ってから友達に聞いた。

「さっきの授業の時に石動っていたか?」

 自分でも分かりきっていることを聞いた。だが……

「うん、いたよ。ちゃんと授業を聞いていたよ。」

 案の定のことみたいに言ってきた。僕が思っていた答えとは違ったので、動揺した。

「え? そ、そんな馬鹿なことがあるわけないだろ! さっきまで俺は、教室の外で石動が戻ってくるのを見ていたんだ。チャイムが鳴っても帰ってこなかったんだ。それで、石動の席を見たんだが、誰もいなかった。だから、そんなことがありえるはずがない!!」

「いいや、さっきの授業の時はいたよ。」

相手は冷静に答えた。あやつられていると思えるほど冷静に。

「そ、そうか。分かった」

 僕は、内心では今おきている状況が全然把握できていなかった。頭の中は、パニック状態みたいな感じだ。このストレスから解放されたいと思い、僕は屋上へと向かった。

 相変わらずに屋上には、僕以外に誰もいなかった。なんだか寂しい。

 今日の空は、僕の気持ちを表しているかのような鉛色の空だった。先はあまり見渡せない。いい景色を見てストレスを解消しようと思っていたが、かえって溜まるばかりだった。風は思ったよりも冷たく、体のしんまで冷えるほどだった。でも、僕はそんななか屋上でぼーっと座りながら石動のことを考えていた。俺の目の前に現れてくれと思いながら。だが、結局来なかった。僕は、体が冷えてきたので教室に戻ろうと思って、立って扉にむかって歩いた。扉を開けようとドアノブを触ろうとしたら、ガチャという音がした。扉が開いたのだ。僕は開けていないのに、なぜ? 答えはすぐに分かった。

「あれ?」

 そこにいたのは、まぎれもなく一ヶ月ちょっと探していた石動だった。

「あ! やっと見つけたぞ石動!! いろいろ探したんだぞ。この前に超能力がどうとか言っていたよな? 超能力を俺に見せてくれよ!」

「うわ! びっくりした。驚かせるなよ。なんでここに阿倍がいるんだよ……そっか、まぁ見つかっちゃったらしょうがないか、分かったよ、見せればいいんだろ?」

 石動はそう言って、近くに転がっていた石を持って、僕のほうに軽く大きな放物線を描くように投げた。その石のスピードはあまり速くなかったが、僕のほうに近づいてくるほど段々速くなってきた。やがて、石が消えたのだ。避けようと思っていたが、投げ始めたときの速さがあまりにも遅かったので油断していた。僕は咄嗟に目をつむって、手で顔を守る。だが、少しの間守っていたが、石が当たってないことに気づいて、手を下ろした。そして、目を開けると、なんと、石が僕の鼻の先数センチのところで静止していたのだ。

「な! 馬鹿な、これが超能力というやつなのか」

「そうだ、俺の超能力は物の速さを自在にかえることができる。いわゆる間接的な超能力だ。名前は、『時空』今の石は、はじめに遅く投げてからあとからだんだん速くしていったのだ。この前、お前の上から鉄骨が降ってきてあたる寸前に遅く感じなかったか?それは、俺が超能力を使用してお前を助けたからだ。感謝しとけよ」

「あぁ、そうなのか、やっぱりあの時にあんたが助けてくれたのか……ありがとう」

「あと、全然学校で俺のことが見つけられないとか言っていたな、それはいわゆる空間を部分的にまげて俺の姿をお前にだけ見せないでいたんだ、見つかったら少々面倒だったんでな、でも見つかったからな……これで超能力を信じたか?」

「あぁ、大体分かった。とりあえずだけどな、俺が使えなきゃ完全には信じれないんだ、だから、教えてくれよ!」

「う~ん、それはやっぱり無理だな。皆、それぞれ条件が違うんだ……じゃあ!」

 石動はまた僕から逃げるように戻っていった。そんなに僕に超能力のことを教えるのが嫌なのか?

 石動は、僕が本当に超能力が使えるのかを分かっているのか、それとも分かっていないのか、今後の人生でそれが重要ぬなると思った。

 空が鉛色の空から青い空に変わりつつあった。僕の心の中も、そのように変わっていることを祈った。

 

第五章 副島       

 最後に石動と屋上で会った日からもう一週間が経っていた。でも、相変わらず超能力に関係する出来事は起こっていない。また、条件も分からない。超能力が使えるようになりたいのに、何をしていいのかが分からない。これほど悔しいことは今までなかったような気がする。学校に行っても真面目に授業を受けずにサボってばっかりだ。頭の中は、超能力と石動のことでいっぱいだった。

 毎日の日々が非日常になっている気がしていた。ある意味嬉しかった。超能力という言葉の一言でこんなにも人生は変わってしまうんだと。

「どうしたら超能力の条件をクリアできるんだろうな」

 僕は、ここ最近屋上で独り言を言って過ごすことが多くなった。独り言というよりは愚痴にちかかった。相談相手は……空。

 それにくらべ野田は、相変わらず部活で忙しいみたいでここに来ることは全然ないようだ。

 ここの風が少しずつ心地よくなってきた。特にくもりの日は、暑くもなく寒くもない温度の風が体に当たる。生きていることを再度実感しているように感じる。

 空は、再び鉛色になりかけていて僕の心の様子を表しているみたいだった。ガチャと扉が開く音がした。ビクッとそれに反応して僕は、扉のほうに振り向いた。すると、そこにいたのは女の子だった。

 髪の毛は黒色のロングヘアーで身長は僕と同じくらい。顔は綺麗だったが、全然知らなかった。多分小学校が別々だからだと思った。

 別々というのは、僕が通っている中学校は主に二校の小学校から生徒が入ってくる。生徒の数は片方が多くて、もう片方は少ないというなんともバランスが悪かった。

 僕は生徒の割合の多い小学校からきたので、友達もそこそこいた。前の人生の知っている人達と合わせると、ほぼ網羅していた。だけど、この女子は知らない。だから、違う小学校から来たと僕は推測したのだが。

 目があったが、その女の子は僕に目もくれずにフェンスに向かって歩き、フェンス越しに空をじっと見ていた。……悲しい顔をしていた。僕は、その女の子をただただ後ろから見ていた。すると、いきなりフェンスを掴んでよじ登ってフェンスの向こう側に行った。

 反射的に口にする。

「何してんだ? 危ないだろ」

 その女の子は僕の言葉を無視していた……気がした。

「こっちに戻ってきなよ、危ないぞ!」

「うるさい!! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れぇぇ!! あんたに私の何がわかるんだよ。余計な口出ししないでくれる!!」

 その時、女の子の顔には輝く何かがあった。

 怒った理由がいまいち分からなかったが、僕に何かを訴えかけていたということだけは目を見て分かった。僕は、その女の子には口では通用しないと悟ってフェンス越しにまで助けようと走り、手を伸ばして女の子に触れようとした。

「何やってんだ! さぁ、俺の手に掴まるんだ!」

 しかし、運が悪いことに腕がフェンスに挟まって女の子に触れることができない。頑張って触れようと近づける。だが、それと反対に女の子は少し遠ざかり、僕の方を向いて後ろ向きになった。あの悲しい表情を浮かべながら。

「……やめろ!!」

 だが、僕の言葉は無残にも女の子の心に届かなかった。女の子は僕の方を向きつつ後ろ向きに倒れていった。一瞬の出来事であったが、僕にはそれがスローに見えた。

「……死ぬ直前を見ていて助けられないなんて…僕は、なんて奴なんだろう。」

 屋上からは、その人の体が見えない。騒ぎにまる前に、一階に降りたほうがよさそうだった。

 僕は、全速力で一階に降りて、女の子が落ちたところに行った。しかし、女の子の姿が無かった。

「嘘だろ? 女の子は確かにここの上の屋上から飛び降りたはずなのに……どういうことだ?……まさか、あの女の子も超能力というやつを使っているのか? だとしたら相当やばいな……」

 僕は、何もない地面をただ見ていた。あの女の子が超能力らしき能力があることをほぼ確信していた。しかし、それにしてもいったいどんな超能力なんだ。屋上から落ちて、落ちたところにはもう姿がない、たった数秒のことなのに。数秒で何ができるのだろう? あたりを見渡してもあの女の子の姿はなく、学生の人たちが数人いるだけだった。

 僕は、再び屋上へと戻り、扉を開けて女の子がさっきフェンスを掴んでいたところをじっくり見ることにした。フェンスを見ながら考える。あの女の子は何を思い何を僕に訴えかけていただろう? でも、僕は女の子とは初対面なんだ。もしかしたら僕の誤解が生んだ訴えなのかもしれない。だが、誤解だと信じているが、そうはいかないかもしれない、あの女の子の生死を確認するまでは……まだ。

 「あなたは誰を探しているの?」

 いきなり背後から耳に聞き覚えのない声が聞こえてきた。僕は、振り向いたがそこには誰もいなかった。あれ? ……変だな、さっき声がしたはずなんだが、気のせいか……と思いつつフェンスを再度見ると、そこにはさっきの女の子がフェンスにもたれかかるようにして立っていた。

 さっきの女の子だ。しかも、無傷。なぜだ?

「あなたは誰を探しているの?」

「あんたを探してた。」

「あんた? 私の名前は……ない。」

 自分の名前が「ない」だって!? そんなことはありえない。絶対に隠している。

「お、お前は誰なんだ? 俺に何か用があるのか?」

「うん、まぁいろいろとね、私に聞きたいこととかがあるんじゃないの? それから用は言うわ」

 女の子は、偉そうに僕に言った。何か隠している。怪しすぎるのだ、女の子の表情が、

「そ、そうか、ところでお前はなぜここにいるんだ……さっきここから飛び降りたはずなのに」

「う~ん……飛び降りてからは、自分で体をフワフワさせて助かったんだよ! すごくない?」

 自分で体をフワフワさせて助かった? そんな馬鹿な。曖昧にしているような気がする。だが、ここは何も言わないでおこう。

「す、すごいけど……それって超能力なんだよな? もしかしたら」

「まぁ、きっぱり言うとそうなんだけどね」

「そうか、あんたも既に死んでいるのか、僕と同じく」

「そうだよ、私は今までに二回、三回ぐらい死んじゃっているかな? まぁ、そんなことなんてもうあなたには関係ないけど、で……私はあなたに大切な用があってきたの……憎まないでねぇ?」

 女の子は微笑みながら……そう言った。

「え?」

 僕が疑問に思ったときには、もう僕のところにまで一瞬で近づいてきていた。そして、力いっぱい僕の腹を殴ってきた。

「ぐっ! ……うわ!! な、何をするんだ!」

 女の子の力はすさまじく、とても女とは思えぬ破壊力をもっていた。かろうじて腕で防御したのだが、簡単にふっとばされてフェンスに当たる。それに加えて移動するのがはやく、目でおえるかおえないかの程度なので、逃げれるはずがなかった。

「ぐっ、なんていう力だよ、あんなの常人じゃねぇ……とするとやっぱり超能力ってやつなのか」

「ふん、死にな!」

 女の子は勢いよく真上に飛んで僕めがけて近づいてきた。あんな攻撃くらったらガードしても死ぬと思った。だから、僕はガードをしなかった。ぐんぐんと女の子は近づいてきたが、しかし、またもや僕の目の前で動きが止まったのだ。……あの時みたいに

「ちっ! 石動か……出直すしかないか」

 女の子は屋上から再び飛び降りて僕の前から姿を消した。その直後にドアから石動が勢いおく出てきた。

「その格好、どうしたんだ!?」

 石動は僕の姿を見てからそう言った。少し僕のことを心配しているみたいだった。

「さっき変な黒い長い髪で僕と同じぐらしの身長の女の子が現れてちょっぴりやられたんだ……あの女の子石動のことを知っていたぜ、知ってるのか?」

「あぁ……あいつか、あいつは副島咲そえじま さきと言って理由が分からないんだが、僕達みたいな人を殺したがっている不気味なやつなんだよ、主に俺とは正反対な直接的な超能力を使うから今度会ったら注意しとけよ」

「そうなのか、でもなぜそんなにも石動は副島のことについて詳しいんだ? もしかして副島と過去に何かあったのか?」

「過去、か……別にそんなことお前には関係のないことだ、気にするんじゃない、とりあえず気をつけるんだな」

 石動は僕に何かを隠すように口を濁した。そして、また勢いよく屋上の扉を開けて戻っていった。石動はここの屋上には、長くはいたくないようだ。だから、勢いよくでていくのが定番だった。

 また、僕は誰もいない閑散としている屋上にいた。屋上から吹いている風が気持ちよく少しは冷静になれた気がした。僕は、一旦落ち着いたところで一度自分の頭の中を整理したが、何がどうなったかさっぱりだった。今度はあの女の子の副島っていうやつまで僕の前に姿を現した。これで石動と副島の二人が超能力を使っている。まだまだ超能力を使う人はいそうだ。石動は過去に副島とどういう関係だったのか、知りたいけど知ったらとても嫌な予感がしてたまらなかった。

 石動は自分と副島との関係を僕に隠しているは明白だ。だから、僕は石動にもう一度聞こうと思ったがあの時の表情を思い出すとなかなか実行することが出来なかった。


第六章 屋上

「僕の超能力はどっちなんだろ……直接的か間接的か、それともそれ以外のものか、それを知るまでに何年かかるんだろう」

 今日も僕は、超能力のことを考えながら屋上で仰向けになり、手を頭の後ろに組んで、目をつぶっていた。この姿勢が好きだ。空を見るのに適していて、なによりここの床の温かさが体に気持ちよかったのだ。

 今空には、たくさんのハトが鳴きながら飛んでいる。僕を見下しているように感じられたのは気のせいだろうか。だけど、この見下されている感じは嫌いではなかった。もちろん好きでもない。

 人生はいやだ。なぜなら、先が見えないからだ。僕は見えている方が楽しい感じに人生を送ることができる。それはつまり、自分の人生を変えることができるという意味を指す。先が見えないほうが良いと思う時なんて、一瞬たりともなかったと思う。

 死ぬときが分かっていたほうが、それまでに悔いなく過ごすことができるだろうに。

 「その気持ちを何とかすればいいんでしょ?」

 いきなり後ろから声がした。

 振り返ってみるとそこには、空中で足を交えながら僕を見ている。この前僕を突然襲った。--副島がいた。

 「副島! 何でここに?」 

 しばらく見ていても襲ってくる様子はないし、殺気もない。だとしたら、どうしてここに?

 副島は、僕たちのことを殺したがっているのに、こんな感じで接するなんて、どこか気味が悪く感じる。

 まぁいいか、攻撃してくる様子もないし……油断は一瞬たりともしないけど。

「そんな警戒しないでよ、力が入っているのが丸見えだよ」

「この前あんたに襲われたからな、警戒して当たり前だろ」

「まったく……分かった。……それより今の悩み、私が解消してやろうか?」

 数秒の間をおき、副島が言う。

「ふ~ん、私が何か企んでいる? とか思うわけ?」

「え!!」

 副島に図星されてうろたえる。……まぁ、観念するか。しょうがない。

「分かったよ……この気持ちをなんとかすることは簡単じゃないと思うがな、超能力が使えるようになるまではね」

「あれ? まだ超能力使えないの?」

 いや、こっちがあれ? っていう反応だよ。前とは全然違うじゃないか。……でも、このほうが僕にはいいかも。

「……そうだけど、超能力が使える条件が分からないんだ……副島はどういう条件だった?」

「え? 私は……う~ん、条件というか、二回死んで三回目の人生が始まって、少し時間が経ったら自然と使えていたよ、ふふ」

 一瞬不覚にも副島の笑顔が、以外にも僕の心を癒してくれた気がした。……本当に不覚。僕を殺そうとまでしたのに。

「はぁ? つまり、お前の条件は何だったんだよ?」

「多分、二回死ぬ……じゃないかな?」

「そんな感じなのか? 条件って?」

「知らないよ、石動にでも聞いてみたら?」

「聞いたよ、だけど教えてくれないんだ。なぜか知らないけれど」

「うむむむむ、何か隠してるなぁ、石動のやつ」

 副島はその直後、不気味な笑みを浮かべたと思ったら、段々降下していき僕の目の前から消えていった。なぜいつも階段から降りないのだろう? と前にも思ったのだが、それは別にいいか。

 案外、副島は優しいんじゃないかなと思った。今は確かにそう思っていた。

 しばらくして雨が降ってきた。屋上は、雨や雪などを遮るものがないので当然僕は濡れる。

 床は水が流れていき、雨は次第に強さをましていき体中がずぶ濡れになってしまった。でも、僕は雨に濡れても別にいい、全然気にしてはいない。空が泣いている感じが、僕の心の中にある感情を刺激する。

 そういえば……あの時副島って泣いていたのか? あの時。

 それからしばらく雨にあたっていた。空を見ると、降っている雨が僕の目に入って気持ちよくもあった。痛さはまだ分からなかったが、何が気持ち良いのかは分かった気がした。

 

 この世界、いやこの生活に段々慣れてきた気がした。再度超能力の一言で人生が非日常になるのだなと思う。超能力を使える人がこれから増えなければいいのだが、それは絶対に無理といってもいいくらいだ。僕がいるこの地域の小学校に一人、中学校にもう一人いた。今は、たった二人なのだがこれからたくさん出てくるかもしれない。石動みたいなタイプに会うならまだしも、副島みたいな危険な人はあんまり好まない。……これから覚悟していたほうがよさそうだな。

 雨が止んだ。時計を確認すると、雨が降ってからちょうど二時間くらいだった。自分でも二時間ここに立っていたのは、少々驚きだ。

 もう日が沈んであたりが暗くなった。はやく帰らなければ、母さんが僕のことを心配する。僕は急いで屋上をあとにしようとしたが、なぜかドアが開かなかった。ガチャガチャとドアノブをひねってもドアはびくともしなかった。

「な、何で開かないんだ? このドアは鍵なんかなく、ロックすることができないのに……まさか、また誰かが僕のことを襲いにきたのか? ……だ、誰だ!? どこにいる!?」

 最悪なことに、今気づいた。

 そう……何かがあると、すぐに超能力、者などと判断してしまう。この判断は、間違ってはいないと思うが、僕は……嫌いだ。

 急にまた雨が降りだした。雨はさっきよりも強く、更に雷が鳴り響く。とても嫌な予感がしてたまらなかった。雷を見ていると、どんどん僕の方に近づいてきている気がした。僕が頭上に目を向けた瞬間、耳の鼓膜が破れそうなくらいの大きさ、轟音が鳴った。僕は、反射的に目をつむっていたので目を開けることにした。

「危なかった。もう少しずれていたら僕に当たっていたな」

 僕は、自分でも思ったより冷静だった。普通なら冷静でいられるはずがないだろう。なぜなら、距離は感覚だが、僕の二十メートル先ぐらいに雷が落ちたのだ。そのあたりは大きいくぼみになっていた。まるで月のクレーターのように。底が深く、近くにいかないと見れない深さだった。僕は、興味本位で近づいていった。すると、くぼみの底に……気配を感じる。

「なんだあれ!? あれは……何なんだ!?」

 見た感じは、普通の人ではない、僕たちと同じ人だった。でも、一瞬見たときは人ではないと思った。なぜなら、全身に光を帯びているからだ。見るからに危険で殺気が漂い、目が合ったら殺されるような感覚だった。

 ……ちょっと待てよ、この感覚、前に特殊な空間にいたゾディアックの殺気に似ている。……まさか、ゾディアックなのか? いや、ゾディアックは両手両足に特徴があったからな、でもこの人は普通の肌色だ。やっぱり違うのか? 

 ……僕の身の回りはどうしてこうも非現実的なことが起きるのだろう? でも、仕方がない。僕の自業自得なのだから。

 現実と非現実、僕はだんだん区別がつかなくなっていた。


第七章







 今思えば屋上からこの出来事が始まったのである。

 ここの屋上から、嫌な雰囲気が漂い始めていたことに僕は気づかずに毎日を過ごしていたのかもしれない。もう手遅れだったのかもしれないけど、僕にできることはあるはずだ。それに向かって今立ち上がろうとするとき、僕の本当の毎日がこれから始まる瞬間だったのかもしれない。

 昨日が過ぎて、今日を過ごして明日がくる。人生をまとめるとこういう感じなんだよな全然いいと思うことがない。それを変えたい人は、たくさんいる。そう--僕もその内の一人だ。


「う? なんだここ?」

 僕は一旦、自分がどうしたのかを頭の中でも整理する。――そして、すぐに答えがでた。あ! そうか、ここは夢の中なんだな。さっきまでベッドに横たわっていたし、多分だけど。

 夢の中の光景は、あの時見た白くもなく黒くもない『無』とまったく同じだった。だけど、唯一違うのはゾディアックがいないことだった。だから、この空間には僕だけという独り坊師だ。何もすることがないので早く夢から覚めたかった。しかし、それから随分たってもこの空間には何も起こらず、ゾディアックも来ない。誰が僕を呼び出したんだ?心の中で僕は誰かに問う、誰かが答えてくれるということを信じながら。でも、誰も答えてはくれない。当然だ。ここに今いるのは僕だけなのだから。


 光の渦が突然僕の目の前に現れた。

「ぞ、ゾディアック!」

 僕はゾディアックにそう言いながら駆け寄った。だが、光の渦からはゾディアックでないものがでてきた。

「だ、誰だ…お前?」

光の渦から現れたものはゾディアックと体型が似ていた。いや、体型だけではない雰囲気も似ていたのだが、ゾディアックではないと一目見て気づいた。なぜなら、全身が黒にほんの少し白を足したぐらいのねずみ色だからだ。ゾディアックのように手が黒くて足が白くはなかった。でも、一つだけ同じなところがあった。それは、どちらも人間ではないということだった。

「我はアストロロギア」

 アストロロギアと名乗るゾディアックと似ている神みたいなものは、あの時のゾディアックと一語一句変えずに言った。

 「お前も、この空間だけの特別な名前なんだな?」

 「そうだ、我の名であるアストロロギアはこの空間内だけの名だ。他の空間では、名が違うのだ。」

 あの時のゾディアックと話をしているかのように、アストロロギアは僕の問いに答えた。

 「ふぅ、じゃあ お前が俺を呼び出したんだな?」

 「そうだ。お前はもうすぐ運命の選択を迫られることになる。だから、前もって宣告をしてきたのだ」

アストロロギアは、銅像の様にぴくりとも動かずに言った。もちろん、これも前のゾディアックの時と変わらぬ様に 。

 僕は正直耳を疑った。なぜなら、今までにも運命の選択をしてきたはずだ。それも一回ではない、二回だ。今のを含めると三回になる。二回も運命の選択と言われていることをこなしていると、さすがにもう、運命の選択という重圧の掛かっている言葉は何の意味もなさない。感覚が麻痺しかけていると言ってもいいくらいだ。

 でも、アストロロギアの言っていることが正しいのなら、僕が今までにしてきた選択はただの選択、大したことない。選択の代償の重さが、比べものにならないほどなのかもしれない。

 ……あれ? 自分の部屋の天井が見える、ということは眼が覚めたのか。

 バサッ ……寝て身体の疲れを癒したと思ったが、どうも身体は素直だ。何となくだるいという、僕の中では一番最悪な状態だった。正直動きたくなかったが、あの選択が迫られていることもあり、僕はゆっくりと身体を起こして考えることにした。でも、考えたって出てくるものは何もない。むしろ、さっき宣告された運命の選択を考えている最中に忘れてしまった。何度か頭をひねって思い出そうとしたのだが、そこの部分だけ記憶を消されたかのように思い出せなかった。

 

 翌日、屋上で石動を見つけた。まぁ、ここでしか石動がいるところは知らないのだが。

「何してるんだ?」

僕が後ろから話しかける。その問に石動は平然と答える。

「いや、別に……ただ空を見ているだけだ。」

「ふ~ん、空ねぇ……」

僕も石動の見ている方角に目を向けてみる。周りの変わらない空とは別に感じた。石動が見ているからかな。でも、変な感じだ。ただ、空を見ているだけなのに……

空を見ているだけなのに……あ!

突然閃いた。閃くと同時に入ってくる記憶。そうだ、気持ちが変わっている! 前は、明日に希望を全くもたなかった。だが、今は違う。今は明日に希望を持って生きている。明日、というより未来に希望を感じて生きている。

 

 

 




 「副島、あの呪いはどうなった?」

 「え? あの呪いって?」

 そうだった。記憶が無くなるのだった。だから、覚えてないのか……あの頃のことを。

 

 「阿倍! 呪いはどうなった?」

 「はぁ? 呪い? 何それ?」

 こっちもそうだった。というより、呪いのことを超能力と認識させてるんだっけ? まぁいい、後に教えることにしよう。

  

 二人の身体に刻まれた呪いは、今は超能力として認識させている。呪いだよ、なんて本当のことを言えるわけがない。そう言えない理由がある。

 その理由をもし、もし知ってしまったなら、どうするだろう? 

 それの記憶について、自分の記憶を思い出そうとするのか?

 それを知ることは、容易いことなのかもしれないが、知ってからは残酷な運命が待っているだろう。だが、運命の結果は変わらないかもしれないが、その過程ならかえることはできる。 

 そう、運命はたえずかわるのだ。






 超能力は呪いを具現化したにすぎない。

 超能力が弱まっていくのは、呪いが軽くなったじゃない。自分の残りの人生が減った。そういう意味だ。

 さらに超能力を使い過ぎると悪化するスピードが早くなる。

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