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雨に追われて


「なんで?考えてる事わかるの」と、友里恵はちょっと由香とじゃれる。


「アンタ、声に出てた」と、由香は楽しそうに笑う。

「それにさ、ケータイなんだから勝手に変換されるよ、ふつー」と

由香はにこにこ。



友里恵も「そっか、そーだ。ね。でもさ、雨」



由香は「でもさ雨、って相変わらず飛ぶなぁ」


友里恵は「飛びます飛びます」


由香「オマエ、ほんとーにおばあちゃんだろ」



「ああ、たまちゃんが言ったのか」と、由香。


友里恵「そういう事言わないよ、アタシのたまちゃんは高級なんだもん。」と、笑顔。


勝手に所有物にしている(笑)と、由香は笑い、

高級ってなんだろうかなぁ。と思うけど

確かに、そういうギャグは言わないようである。


「それはそうと、飛行機飛ぶかな、あした。」


由香は真面目な顔で。



急に真面目になるな、と友里恵もいいつつ



「ちょっと怪しいね、これ」と、黒い空を見上げて。



「田村さんが、汽車で行けば、って」



「汽車ぽっぽかぁ、いいなぁ。走ってる?」と、由香。

よく知らないのはふつう。



友里恵も笑いながら「そう、愛紗がさ、夜行で行くって言ってたね、あれの事かな」


由香は「あれ?今乗ってるんじゃない?たしか、東京を16:30だって」

時刻をよく覚えているのは、職業柄。


乗客からよく、聞かれるのだ。

飛行機の時間、列車の乗り継ぎ。


バスは割と時間に融通が利く代わり、時間通りに走るのは難しい。


「メールしてみよっか」と、友里恵は

ちょこちょこっと。


ストラップの沢山ついたケータイで、素早く。


そういうところはJKのころのまま。



愛紗は、さきほどから止まったままのブルー・トレインの個室で

雨の音を聴いていた。

屋根が近く、湾曲している窓を

雨滴が流れていくのを眺めていると、感傷的な人なら

旅情に浸れるかもしれない。


でも、今は旅のはじまり。感傷よりは

運転の継続が心配だ。


サイレントにしてあるケータイの着信ランプが光る。


フォールドタイプではなく、スライド・キーボードの出る

ピンクのケータイ。


メールは、友里恵から。

「汽車は知ってる?」と、誤変換なので


愛紗は笑ってしまった。

友達のおかげで、気持ちが明るくなれた。


電話しようか?と思ったけど。

まだ会社だと困るから、メールでお返事。「今ね、静岡のちょっと先で停まってる。このまま走るかわからない」



と、返事。


由香から返事。「それじゃさ、新幹線で行ったら追いつかないかな、愛紗の列車に」


そういう経験を、バスガイドはしていたりもする。



電話していい?と、友里恵から。


うん、と返事すると、すぐに元気な声「あいしゃーぁ、げんき?」


友里恵である。


元気な声に、愛紗も元気づけられる。「うん、元気元気。どしたの?」


友里恵「あのさ、飛行機が飛ぶかわかんないから。その汽車に乗れないかなって」



愛紗はちょっと考え、「これから、お家に帰って支度しても・・・その間に

この列車が動いたら、乗れないね。追いついても、名古屋辺りかな。」

新幹線が動いていれば、の話である。


「したく、できてるよー。ね、由香」と、友里恵は元気だ。

早く遊びたいらしい。

その気持ちはよくわかる。なにせ、自由時間のほとんどない生活なのだから。


もとより、バスガイドは毎日が旅、である。


そんな生活を知らずに入るから、大抵は数年で辞めていく。


ドライバーも同じだ。




「行ってみよう!」と、友里恵は子犬のようにばたばた。


由香はその様子に微笑みながら「アンタさ、ぜんっぜん成長しないのな」



友里恵は少しふくれて「うるさい!なんだよ、前科男がカレシの」


と、おもしろい戯言


由香は怒って「アレは近所に住んでたたけの奴。カレシじゃない!」



団地の近所の子が、高校を中退して。

仕事が無く、ケータイの不正販売に手を染めて補導されたと言うお話で


偶々、由香の幼馴染だった、と言うだけの。



「でも、それはそうとさ友里恵、行くんなら早くしないと。次の新幹線に乗れるかどうか」


隣の三原駅まで行って、そこから新幹線だけれども

大雨で、そこまで行けるかどうかも怪しい。


在来線で行くにしても、それが運転見合わせになる事もあるのだ。




「~あなた、早くいかないで~」と、友里恵はふざけてるので


いーかげんにしろ、と。


由香は頭をひっぱたいた。




「いったーい、何すんの?」と、友里恵は止まらないので



由香、お手上げ(笑)。


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