用宗駅
個室B寝台の廊下を歩く靴音に愛紗は気づくと、少し個室の扉を開いて見ます。巡回の車掌の後姿でした。列車が停まっているからでしょうか。まだ20時くらい、深夜でもないのですが。乗客の案内です。
なんとなく、その制服姿に憧れるのは、誰でもある気持なのかもしれません。
憧れって空想。それを現実に、しようとすると違和感がある。
愛紗もそうなのかもしれません。
鉄道員の姿を見て、似たような服を着て、仕事をして見たかった。
それだけの気持だったのかもしれない。
けれども、ハンドルを握ると。危険な事が沢山あって
それは、愛紗にはすこしきつかったのかも。
そんな感じだったのかもしれません。
愛紗は、なんとなく廊下に出て。雨が降り続いている車窓を眺めました。
冷房が入って、窓は曇っていません。
硝子の向こうは強い雨が降っています。
急ぐ旅でもない愛紗には、その、雨は
心を休める存在にも思えました。
車掌、さっきの日野さんは
11号車へ行ってしまったようです。
「日野さんって、叔母さんの親類なのかなー。」愛紗は
そういえば、似てるのかな、なんて思って。
くすっ、と。
笑いました。
自然な、柔らかな気持に少し戻れたみたいです。
お昼までは、研修で
気持を休める暇もなかったのですから。
旅は、いいものです。




