ロックの真髄
「でもね、笑い事じゃないんだよー。
言わないと解らない人もいるの。本当」と、斎藤。
だからこんな研修するの。と。
愛紗は「まさか」と、思う。
エンジンにオイルが入っていて、潤滑油するから動く。入ってなければ滑らない。
見なくても解る。
斎藤は「そういう人もいるんだよ、ま、向いてないから、この仕事はしない方がいいんだけど」と、笑った。
そこのバスもね、と3551号を指さして
「睡眠不足でね、点検忘れてからっぽになってて。新人の頃のたまちゃんが発見して。オイルの点検棒を指令に見せに来た」
愛紗は「何故でしょうか」
斎藤は「うん、自分の目ではオイルがないように見えるけども、それで正しいか確かめに来た。初めて見るバスだから。自己判断はいけないって」
愛紗は「慎重ですね」
斎藤は「意地悪い人は、それを担当への当てつけだと思ったらしいけど。でもオイルって入りすぎも良くないんだよ。あいつはエンジニアだから、それが解ってたんだね」
愛紗は「はい。」
斎藤は「それでね、出発を遅らせてオイルを入れた。オイル入れるのってね、時間が掛かる。
どのくらい入れるか解らないし、落ち着いてからオイルの量を見るからね。バスのオイルは粘るから、なかなか落ちない時もあるの。
」と、斎藤。
それで、下にもオイル入れがあるのね、と
場所を示した。
それで、一回エンジンを回して
少しアイドリングして、止めて1分くらいかな。
バスで違うけど。それでオイルの量を見る。
と、斎藤はオイルの倉庫に行って、天井から降りているオイルのパイプの、コックを捻る。
勢い良く出るので、少しづつ。
床はコンクリートだけど、オイルが溜まってドロドロ。勿体ないけど仕方ない。
「こぼすんだよね、誰か。使い道がないし
」と、斎藤は苦笑い。
交換の時は、オイルの量は分かるからいいけど。
と、バスのどこかに書いてあるのでそれを見るか、整備士に聞いて入れるの、と。斎藤。
おっと、女の子はいいんだね、と笑いながら。
エンジンオイルをジョッキで入れて、エンジンに。
10Lくらいだろうか。
それで、オイル漏れがないか下から見る。
エンジンを掛けて。
結構怖い。けどまあ、斎藤と二人だから。
ひとりだとできないかもしれないと愛紗は思った。
「その、3551もね、たまがオイル入れてくれて今も走れてるね。あいつもバスに優しいな」と、斎藤は笑った。
オイルからっぽで走ってたら、壊れてたかもしれない。
斎藤は「ひょっとして、それも岩市の仕業かもしれないね。夜、オイル抜いておいて」
愛紗は、気づかなかったけれど
そういうこともありそうだ。とも思う。
クランクボルトを緩めるよりは楽だ。
斎藤は「なので、点検は大事なの。それがあれば陰謀なんて怖くないんだよ。まあ、エンジンよりブレーキだね、ブレーキフルード」と、斎藤は言う。
と、バスの。これは車内にあるプラスチックの半透明のタンクを見て。
「そんなに減らないけどね、乗る前にタイヤのあたりを見ておいて。漏れてる事もある。走る前に踏んで見て。でも、効かなくても
そんなに使わないから、バスって」と、斎藤。
愛紗は「そうなんですか?」
斎藤は、にこにこして「排気ブレーキでなんとかなるね。最後、エンジン切れば」
愛紗は「はい。」
「これで、大体大丈夫だね。少し乗ってみる?」 斎藤。
愛紗は「はい。」
バスは、まだピットに乗っているので
走り出しは結構難しそうだけど。
と、愛紗は、落ち着いて、落ち着いて、と
思う。
椅子が、少し低くて大きく感じるのも
大型ならでは。
バスの幅が、20cm違うと結構広く感じる。長さも、後ろの角は殆ど
感じられない。
昨日の7m車は、それでもなんとか解った。




