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帰着点呼

車庫に戻ると、懐かしいガイドの制服の

女の子ふたりが待っていた。



友梨絵と、由香。



愛紗のちょっと後、入社して

同い年だけど、二人とも早生まれなので


まだ21才にならないから

大型二種免許が取れない。


取れたらドライバになると云う勇ましい女の子。



まあ、愛紗の影響かもしれない(笑)。


路線のドライバは、それほど逼迫している。



たとえ中番だけだったとしても、居ないよりは

遥かにいい。



「あいしゃーぁ」と、二人が手を振っているんで愛紗も憂鬱な気持ちを忘れて、笑顔に。



森は、それを見て

車庫の入口で、左に少し寄せて



「車庫入れ、やってみれば、カッコイイとこ

見せてあげな」



愛紗も、他の車が居なければ大丈夫だ。





はい。と、愛紗は笑顔になって

運転席に収まる。



少しシートを前に、高く。

ハンドルを

引く。



2速に入れ、発進。後続なし。


ゆっくりと前に出し、小川沿いから三つ目の

車庫に入れようとして、そこからバスを斜めに出して、ほぼ直角に曲げた。


それで、直線バック。



実際に、左右にバスがあると

隙間がぎりぎりなので、後ろが長いバスは

斜めに曲がりながらバックすると、外側の

角が隣のバスに当たるし

角は、見えない。



今は、バックカメラがあるが

それとて、夜は見えないし


どこでぶつかるかまでは見えない。



こうするのが無難。




後は楽で、白線に沿って真っすぐ下がれば

いい。前端が白線からでなければいい。



ブレーキで止め、前ドアを開く。

エンジンを止めた。




友梨絵が、ちょこちょこと

歩いて来る。

小柄で、丸顔、真っすぐな髪は

真ん中で分けてて、伸ばしてる。


前髪は、そのまま分けてるのは

細く見えたいのもあるらしい。



由香が「おーい」 スリムで、少し大柄に

見えるけど

背丈は、愛紗とそんなに変わらない。



スポーツが好きで、高校はテニス部だった。



スカートからのぞく脚は、すらりと長く見えてるけど


膝小僧に擦り傷が多い。



大柄ですたすた。




バスに上ってきて、森に挨拶。



「お疲れ様です」




森も「ご苦労様。準備か」




ふたりは「はい、明日は乗務で、日帰りの」



森は、にやけて「泊まりじゃなくてよかったな」





指令も考えていて、こういう初々しい女の子達は


結構、柄の悪い観光バスドライバたちに

騙されて、遊ばれる事もある。



そうなってしまっては、親御さんに

申し訳ないから


泊まりの仕事は、ある程度自分を守れるような

中堅どころの既婚者に行かせていた。



それは本当にそうで、可愛いバスガイドは

会社の花でもあるし

人気の元でもある。




心遣いの出来ないような、格好だけの

美人が増える昨今で、由香や友梨絵たちの

ようなガイドは珍しかったから



そういう意味もあって、会社は

社内恋愛にも気を使っていた。



まあ、昔風の企業はみんなそうだったのだけど。



変な男と交際して荒む女の子は多いから。





愛紗は、笑顔になって「お疲れ様。明日早いんでしょ」と云うと



由香は「4時だっけ」



友梨絵は「4時半」



とは言え、女の子はその前に支度をするし

点呼時間の前に、着いていないとならないから


一時間半くらい早起きする必要がある。


それも、ガイドが年々減る理由でもあり


疲れた、突っ張った感じのガイドが多いのは

そんな事情もある。



人をあまり雇えないのである。

観光需要も、規制緩和で

届け出でできるようになったバス事業のせいで


安くされてしまう。



東山は、大手電鉄なので


それ程でもないが



仕事は減っていて、由香や友梨絵たちも

時間給のパートにしよう、なんて

経営案も出ていた。




森は「点呼、は、まあいいか。経験者だし、飯にしよう。1時半で良いか。戻ってきて。



愛紗は「はい。ありがとうございます。」




友梨絵は「教官!って敬礼しないの?」



由香は「それはスッチーでしょ」



愛紗も「ドジでのろまなカメですー」



「それは、まんまかも」と、由香。


「ひっどーい。傷ついちゃうなーおとめちゃん」と、愛紗は泣きまねの手まね。

猫のポーズ。



友梨絵は「21でそればなーぁ」


由香は「ま、あいしゃは、おとめちゃんだもの。本当」



「ご飯食べよ、それよっか」と、友梨絵。



「背丈も伸びるかな」と、由香。



友梨絵と由香は、地元の高校を出た。



家から通えるので、楽は楽。




だけれども、時間が不規則で

家に迷惑なのもあって。



女子寮に住むかな、なんて言ってる。




「さ、ご飯ご飯」 と、愛紗は

バッテリスイッチを切り、キーを抜く。



3人で、バスの外に出て


愛紗は「何食べよっかぁ」



ひとり、つなぎ風なのが気になるけど(笑)と

女の子な愛紗。




由香は「アタシを食べてー」と、セクシーポーズ。



でも、あどけないので全然、セクシーに見えない。



友梨絵は

「欲求不満じゃないのぉ」と、笑うと



観光バスのガラスを吹いていた、茶髪の短髪、目つきが嫌らしい30くらいのドライバー、赤木が


「食ってやるよ、けつ出しな」


と、笑うので



由香は「おめーに食わせるかよ、バカヤロー」と、そこに落ちていたゴムホースの破片を

拾って、赤木にぶつけた。

赤木は笑いながら「お前じゃない、乙女ちゃんの方」


赤木は既婚者だが、そういうせいで

妻に逃げられたらしい(まあ、似たような相手だろうが)。



友梨絵も怒り「録音したからね、監督署に通報する」 と。



「それ、深町の影響だろ。困った奴だなあれ」と、意外な名前に



愛紗もどっきり。



由香は「違うよ、指令!そういう馬鹿は大岡山から出てって貰うってさ。法律で」




「ふん、いつか犯してやる」と、赤木はふさけるが



由香は「そんな事できるか?ふにゃちん野郎!叩っ切ってやる!」と、時代劇のヒーロー、

破れ傘の先生の台詞を言った。正義漢である。



愛紗は、ちょっと恥ずかしい。

友梨絵は「行こうね、変なの放っておいて」と


言うと、赤木は、スケベなだけで

そんなに悪い奴でもないのか



「ああ、深町さんね、戻ってくるかもね」と


真面目に戻ると[深町さん]と、尊敬形なのは


所長を手玉に取って、退職させたと言う

噂のせいでもあった。


警察に相談し、法律を使って

退治したのは、ひょっとすると

彼の仕事かもしれなかった。


そう思うと、その頃退職している。




由香は「なんで?」


赤木は「ああ、駅で見かけたんだって。

大学辞めたんじゃなかな、って」と、赤木。




隣の町の新幹線の駅での事らしい。



東京大学に行くなら、そこで乗り換える。

けど、昼間に見掛けたと。



「そっか。」と、由香が言うと

赤木は「お礼に一回な」


由香は「おめーなんかのふにゃちん入れるかよ、バカヤロー」と居って

そこに在ったモップを投げつけた(笑)。



愛紗は、由香くらい元気にならないとな。

と、さっきの森の言葉を思い出して。


おとなしすぎなのかな、私。


そう思ってふさぎ込む。



友梨絵は、「どしたの? 」


愛紗は「なんでもないけどね。ちょっと自信なくなった。」と、今日のいろいろを話す。


友梨絵は「うーん。確かに由香くらい柄が悪くないとなぁ」と言うと


由香は「柄が悪いとはなんだ!親友」と、

友梨絵の頭を小突く。


友梨絵は「めんご。まあ愛紗は

なんでドライバー志望なのかなぁ」と。


聞かれて、愛紗もよく解らない。


なーんとなく、制服に憧れてただけみたいな気持ちだったけど。



大変そうな路線ドライバーを助けたい。

そんな気持ちもあったようでもあるし。


「好きなんでしょ?」と、友梨絵が居って

愛紗もどっきり。


「え?私?誰を?」



友梨絵は笑って「制服」


由香は「誰って、さーぁ、愛紗くん、白状したまえ。誰?」



「誰って」愛紗にも本当に解らない。




「たまちゃんはダメよ、あたしのものだもん」と、友梨絵。



深町は、ここに来る前にコンビニ、ミニストップ西森店でバイトしていたが


その時、高校生だった由香と、友梨絵と

アルバイト仲間だった。


でも、友梨絵はちょっと、愛紗と同じで

仮装恋愛を、深町にしていたらしい。



コンビニだから、もうちょっと

ふれあう機会も多かったみたいだけど。


その後、3人とも就職したが

なんとなく深町が東山に移ったので

ここに、由香と友梨絵も来た。


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