表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

中章:赤き隠者は紅き夕暮に舞う

 夕方のルーテブルク駅前、歩道は無数の人でごった返しになっている。サラリーマンや学生が大多数を占めるが、中には旅行者や遊び人も少なからずいる。ごくごく普通の光景だが、稀に人間でないものも混ざっている。

「どう? お目当てはいた?」

「いいえ、ルーカスもジモンもいません」

「交通手段はここ以外にもあるけど、どれもリスクが高いのよね」

 ビルの屋上から駅前の通行人を眺めつつ、軽い会話を交わす二人……正確には二機。夕日が映し出す影は人間のそれとよく似ているが、一方は剥き出しの関節とビス止めされた皮膚を持つ。俗にいう機械人形(オートマト)だ。もう一方は対照的に人間の女性と変わらない美しい容姿を持つ。そんな彼女、SF-35・エルザもまた機械人形だ。


 ルーテブルクの市民は人間と同じ容姿の機械人形を忌避する。例外はいくつかあり、客人をもてなす接客用や、エルザのような娼婦用がそれにあたる。彼女はかつて要人のリピートを得た程の人気者だったが、迫る時代変化に対応しきれず、やがて独立人形(フライベルフラー)としての活動を余儀なくされた。

 型落ちとはいえエルザの美貌は今も色褪せず、パトロールの隙を付えばいくらでも客は入る。「コイメンの黒薔薇」という隠語すら存在するほどだ。彼女の収入は独立人形としては破格で、コイメン通りの独立人形たちが活動するためには不可欠であった。

 コイメン通りの独立人形は自身らを花畑(ブルーメンガルテン)と名乗り、各々を花の名前で呼ぶ。内通を防ぐために新参者を受け入れることは滅多にないが、貴重な援助者たるヴィムの忘れ形見であるリゼルはいとも容易に信用を得て加入できた。彼は今、その赤髪から椿と呼ばれている。


「それで? 椿(リゼル)は友人を見つけてどうするつもり?」

「何もしません。私は彼らの無事を確認します」

「ふーん、まあ心配なのはわかるけどね。最近は無所属じゃ辛いわよ」

 リゼルは駅前を眺めながら話を続ける。主の死後から一ヶ月が経った今、彼は突如姿を消した友人ルーカスとジモンを探していた。花畑の仲間にも手を借りているが、未だに痕跡一つ見つからない。

「オーティロイスに行った子、ヒューイだっけ? 彼が手伝ってくれれば楽なのにね」

「私は彼の業務を邪魔できません」

「まあそうね。彼、向こうじゃ凄く活躍してるらしいわ」

 リゼルはヒューイと別れてからも何度か連絡を取っている。二機を探すように伝えてはいるが、彼の業務内容を考えると過度な期待はできない。今は新型の言語知能や通信機能のテストを担っているらしく、ヴィムが直接手掛けた人工知能が大いに役立つという。

「予定時間になりました。黒薔薇(エルザ)は仕事に戻ってください」

「あらほんと。あんたも無茶しちゃダメよ、パトロールに気を付けてね」

「了承しました」




 リゼルはその後もしばらく見張りを続けていたが、増えてきたパトロールを警戒して集落に戻ることにした。花畑の集落はその名前とは裏腹に下水道の中、人間ならば数時間で逃げ出す劣悪な環境にある。嗅覚を持たない機械人形にとってはほぼ問題ない。

「私と集落の距離は8km、約一時間で到着します」

 空中歩道を使えば早いが、パトロールに見つからないため敢えて裏通りを進む。技術革命が進んだ街でも人目につかない道はいくらでもある。直接指名手配されない限りは人混みに紛れても問題ないだろうが、安全に越したことはない。

『迅速に、確実に、安全に。オーティロイスの空中歩道』

 そんなリゼルの境遇を嗤うかのような電子広告が彼の頭上で輝く。昼のルーテブルクはなんとも殺風景な街だが、今は夕日が写す自然なコントラストのおかげで若干の温かみを帯びている。

 調和を掲げるルーテブルクでも暗所においては安全は保障されない。鈍器を構えたジャンク売りがリゼルを囲むが、彼が旧型と分かるや否やため息交じりに去っていく。古いパーツは危険に対して儲けが少ないからだ。

 もっとも、リゼルは小型の火器を内蔵しているためこの程度ならば返り討ちにできる。ヒューイのような最新型は安全のため火器を内蔵しておらず、そういう点ではリゼルのような旧型の方が優れていると言えるだろう。

 リゼルが裏通りを進む理由は安全以外にもう一つある。今も花畑やパトロールの目から逃れ続けているルーカスらと鉢合わせるかも知れないからだ。調べた限りでは、彼らが他の勢力に所属しているとも考えにくい。

 交通機関を使うなどしてルーテブルクを抜けた可能性も否定はできないが、最近のルーテブルクは不審者への警戒が厳しい。仲介者を通さないと街の出入りは困難だろう。無所属の独立人形ならば尚更だ。


「よう、椿(リゼル)。今日はもうお帰りかい?」

「こんばんは、雛菊。はい、私はこれから帰宅します。」

 突然の挨拶と共に、可憐な呼び名とまるで合わない強面がリゼルに並んで歩く。鎧を着たように膨れた四肢や創傷だらけの巨躯は人型と呼ぶことすら憚られるほどの威圧感を持つ。彼の型名はRR-33・グンターといい、ジモンとは兄弟分に当たる。

「今はオーティロイスが使ってるから1番は通れない。多少遠回りになるが3番か5番を使え」

「私は4番出入口を使えますか」

「無理だな。あそこは常にパトロールが見張ってやがる」

「了承しました。私は3番出入口から帰宅します」

 二機は集落への出入口について話しつつ歩を進める。通常使用する1番出入口はルーテブルク最大の会議場にある。雛菊によると今日は一日中オーティロイスの会談が行われており、警備の目が厳しいという。


雛菊(グンター)は情報を得ましたか」

「あー……今日は調べてねえな。まあ新型のお披露目くらいじゃねえかな」

「貴方だけが闘機と連絡できます。お願いします」

「あい、あい」

 雛菊は純潔(Reines)騎士(Ritter)の型名通り、闘機を想定して設計された機械人形だ。現役時代はその容赦ない戦いぶりから「孤高(Wildes)傭兵(Gänse)」と称されたほどだ。今では現役を退き独立人形となったが、闘機業界とのパイプは維持し続けている。

 表向きは闘機のままである彼は堂々と活動できる上に、闘機の廃棄品(パーツ)を集めて整備面にも貢献できる。何より花畑屈指の戦闘能力は荒事への切り札として重宝されている。下水にまみれた今でも彼は傭兵という異名を体現していた。

「それじゃあ、俺は黒薔薇(エルザ)の護衛に向かうわ。お前も気をつけてな」

「了承しました。貴方の無事を祈ります」


 リゼルは街中に飾られた造花を目印に3番出入口に辿り着く。街の飾りが街の汚点を手助けするとは皮肉な話だ。既に日は落ちている。彼はIRCを起動して友人に連絡する。

『Lisl->Huey:私はログインしました。貴方は今話せますか』

 連絡が帰るまでの数分間もリゼルは周囲を警戒する。彼はIRCから位置を探知されることを危惧して、使用時以外はシステムを落としている。それゆえ、連絡は必然的にリゼルから始めることになっている。

『Huey->Lisl:こんばんは、Lisl(リゼル)

『Lisl->Huey:私は今日も無事でした。貴方は無事ですか?』

『Huey->Lisl:ええ、無事ですよ。今は国際会議場で今後についての会談をしています』

『Lisl->Huey:ヴィム様の跡継ぎですか。役職はエルマー様が継ぐと聞いています』

『Huey->Lisl:それも含まれますね。私の扱いについても議論しました』

 数秒の間に二機は現状を伝え合う。もっとも、毎日連絡を取っているので話す内容はさほどない。姿を消したルーカスらについても触れるが、やはり手ごたえはない。

『Lisl->Huey:私はHuey(ヒューイ)の無事を願います』

『Huey->Lisl:私もあなたを案じてますよ、Lisl(リゼル)。最近は警備が厳しいのでお気を付けください』

『Lisl->Huey:ありがとうございます。私は連絡を終了します』

 IRCシステムを落としたリゼルはもう一度周囲を念入りに確認した後、何度見ても不自然な造花のすぐ傍、マンホールを通り花畑に帰っていった。




「それでは、本日の会談は以上となります。皆さまお疲れさまでした。」

 半日近く続いた会談が終わり、ヒューイらは席を立つ。機械人形製造を生業とするオーティロイスは名目上、人機を平等に扱うことになっている。これはあくまでヴィムの主張による強引な慣習であり、彼が亡くなったことで、やがて廃れるだろう。

 大半の役員が疲労を露わにしながら部屋を出ていく中、ヒューイは部屋内を見渡してエルマーを探していた。彼はヴィムの数少ない友人で、時たま自宅に遊びに来てはルーカスやジモンと奇妙な会話を交わして遊んだり、ヴィムに変わって人工知能を整備したりしていた。

「やあ、ヒューイ君。君はこれだけの長丁場になっても平気そうだな」

「こんばんは、エルマー様。私は座っていただけなので大丈夫です」

「そりゃそうだ。人間はじっとしているとかえって疲れるからな。機械人形は楽でいいよ」

「ご主人様もそう仰ってました」

 ヒューイはエルマーとの会話を続ける。彼は人間と同じように話せるばかりか、人間の感情を理解して話を合わせることもできる。ヴィムの英知が凝縮された知能は一介の機械人形を人間とほぼ同レベルまで押し上げたのだ。

「それでは、俺はこの辺で失礼するよ。そうだ、君に見せたいものがあるんだ」

「何でしょうか?」

「つい先日、コイメン通りで見つけたんだ。おい、こっちに来い」

 エルマーに呼ばれて来たのは他でもない。これまでヒューイらが苦心して探し続けていた友人ジモンであった。屈強な体格と強面は健在だが、皮膚装甲は一新されている。

「ジモンですか?ずっと心配していたのですよ」

「主よ、この機械人形は誰だ」

「お前の元同僚だ、名前はヒューイ」

 ヒューイはジモンの様子を怪しむ。なぜ自分を認識しない? その答えは即座に返ってきた。

「俺がこいつを見つけた時はひどく損傷していてな。皮膚や駆動部は最新のものに交換したが、コアは修理できなかった」

「つまり、今のジモンは別人という事ですか?」

「別人……まあ、そういう事だな。一応、呼び名はそのままにしている」

「そうですか。では、彼を襲ったのは誰でしょうか?」

「俺は知らんよ。こいつをやれるとしたら闘機としか思えんが」

「分かりました。ではルーカスも心配ですね、無事だといいのですが」

 ヒューイは友人の事実上の死を受け入れると共に、ある疑問を抱いた。主の殺害者とジモンの襲撃者は同一人物ではないだろうか。そうであれば、自分やリゼル、どこにいるか分からないルーカスにも危険が及ぶだろう。

「エルマー様、ありがとうございます。もしルーカスも見かけたら、是非ともご一報ください」

「ああ、そいつも見つけたら連絡する」


 ようやく情報を得たヒューイはリゼルにIRCを飛ばす、が、繋がらない。明日の夕方に彼から連絡するまで待つ必要がある。機械人形でも煩わしいとは思うのか、ヒューイはめまぐるしく計算を続ける。結論は変わらない。無理に接触を試みるとあちらに迷惑がかかるだろう。

 リゼルとの連絡に備えて状況を整理する。主の死後いつの間にか姿を消したジモンは何者かに襲われて破壊された。闘機用であるRR型を破壊できる機械人形は少ない。同じRR型か、最近活躍中のSA型の可能性が高い。襲われたら自分はもちろん、汎用機の範疇にあるリゼルやルーカスでも勝ち目はないだろう。

「エルマー様、最後に一つお聞かせください。ジモンの傷はどのようなものでしたか?」

「たしか、銃痕と打撃痕がいくつかあったはずだ」

「銃痕の口径は解りますか?」

「32口径だ。ヴィムさんを撃った銃と同じものだろう」

「そうですか、やはりご主人様を殺したものと同一人物の可能性が高いですね」

「あー、そうだろうな。盗人が彼の銃を使ったんだろう」

「ありがとうございます」

「ああ、俺はもう行くよ」

 ヒューイは犯人像について分析した。謎の機械人形が自宅に侵入し、寝室に保管してあったヴィムの銃を用いて彼を銃殺した。だが、どうやって侵入した? なぜ警備中のルーカスとジモンが気付けなかった? さらなる疑問が残る。

 有益な情報こそ得たが、それでも不足している。ヒューイはひとまず本社に帰り、明日改めてリゼルと相談することにした。合わせて彼が襲撃されないことを祈る。出来れば今の仲間と共にいてほしい。




 翌日の昼、リゼルはコイメン通りの各店でルーカスらについて聞き込みをしていた。この界隈では独立人形も立派な客であり、日中でも堂々と買い物ができる。彼は老舗のジャンクショップに足を運んだ。

 店内は老舗感を出そうとしたのか時代遅れと思う程に古びており、随所に錆びた金具や捻じれたジョイントが並んでいた。リゼルは店内を見渡した末、カウンター傍に立てかけられた白いプラ板に目をつける。

「店主さん、このパーツは何ですか」

「見ての通り装甲だよ。たぶんRR型の古い物だね」

 リゼルはジモンのものと思しき装甲を調べる。かなり激しく闘ったのだろう、随所が大きく歪んでいる。銃撃を弾いたらしい傷痕も散見された。

「店主さんはこの持ち主を覚えていますか」

「前のか? そりゃ教えらんねえ」

「お願いします」

「ダメだダメだ。機械人形ならまだしも、人間様の情報は渡せねえ」

「わかりました、ありがとうございます」

 リゼルは店を出る。何らかの手掛かりになるかとは考えたが、これ以上の情報はなさそうだ。


 それからも、リゼルは日が暮れるまでいくつかの店を回ったが、先のジャンクショップ以上の進展はなかった。諦めて5番出入口に向かう途中、見慣れた相手と鉢合わせる。

「あら、椿(リゼル)。進展はあった?」

「こんばんは、黒薔薇(エルザ)雛菊(グンター)。新情報はありません」

「そうか、そこのジャンクショップにRR型の装甲があったが、あれは友人のじゃないのか?」

「私は店主に尋ねました。彼は売り手が人間とだけ教えてくれました」

「まあ機密情報だわな。人間ってことは独立人形じゃなさそうだ」

「あの装甲は酷く損傷していました。本体は大丈夫でしょうか」

「んー、たしか胸部しか置いてなかったよな。俺ら(RR型)は相当頑丈に作ってあるし、コアは背面側だから無事だと思うぜ」

「了承しました」

「じゃあ俺らは仕事に行く。お前も気をつけろよ」

「了承しました。貴方達の無事を祈ります」




 二人と別れたリゼルが集落に向かう中、突然脇道からダイレクト通信を受ける。そこには見慣れた顔の機械人形が立っていた。ルーカスだ。だが、彼の姿はかつてのそれとは別人のように変貌していた。2m近い体格とほぼ同サイズの両腕、腰に備えた剥き出しの機銃、背中にぶら下がる二対の副腕……夕日が映すルーカスの影は、もはや人型と呼べなかった。

「貴方はルーカスですか」

「俺はTM-18P(ルーカス)だ。お前はGH-41A(リゼル)だ」

「私とヒューイは貴方たちを心配していました。貴方はどこにいたのですか」

「俺は闘機場にいた」

「なぜ貴方これまで連絡を取らなかったのですか」

「俺はGH-41A(リゼル)たちに迷惑をかけない」

 極めて単調かつ奇妙な言葉遣い、間違いなくルーカスだ。よく見れば、見慣れたはずの彼の顔は傷だらけだ。いや顔だけではない。未改造の部位はいずれも酷く損傷している。

「貴方はどうしてその姿になったのですか」

「俺は主が望むことを行動した。だが、俺は主が望むことを行動できなかった。だから、俺は主が望むことを行動できるようにした」

「理解できません。主が望むこととは何ですか」

「俺は情報を秘匿する。俺はGH-41A(リゼル)たちに迷惑をかけない」

 リゼルは恐怖に近い何かを自身の内に認める。ルーカスの言動は明らかに常軌を逸している。そして、頑なに秘密を隠す理由がわからない。

「俺はGH-41A(リゼル)に離縁を伝える。俺はKJ-63L(ヒューイ)に離縁を伝えた」

「理解できません。なぜ貴方は我々と離縁するのですか」

「俺はGH-41A(リゼル)たちに迷惑をかけない」

 会話がかみ合わない。たとえ人工知能でも理解できない事を良いとはみなさない。話の切り口を変えてもみたが、返答はまるで変わらない。おそらく今の自分が何を言ったところでルーカスは何も教えてくれないだろう。

「俺は明後日に主が望むことをする。GH-41A(リゼル)は何もするな」

「何を……了承しました。では、私は貴方を手伝えますか」

GH-41A(リゼル)は俺を手伝わない」

「了承しました。また我々はどこかで逢いましょう」

 ルーカスは黙って闇の中に消えていった。その背中は駆動部がむき出しで、痛々しいほどの改造痕が残っていた。一体、彼は何をするつもりだろうか? 自分が知らぬ間に何があったのだろうか?


 情報を整理しきれず立ち尽くすリゼルの肩に、太く重い手が置かれる。いつ来たのだろうか、彼の背後に雛菊が立っていた。

「化け物がうろついてると聞いて駆け付けたが、ありゃあお前の友人か」

雛菊(グンター)、貴方は彼の事を隠していましたね」

「今朝、初めて見たんだよ。黒い方だろ? 全然情報と違うじゃねえか」

「了承しました。先ほど私も彼の変貌を知りました」

「で、あいつは戦争にでも行く気か? あんなグチャグチャじゃ裏闘機にも出れねえぞ」

「理解できません」

「だろうな。俺にもわからん」

「友人が貴方に心配をかけました」

「気にするな。それじゃあ帰るぞ」

「貴方は先に帰ってください。私は友人に連絡します」

「あい、あい」




 雛菊と別れてしばらくしてからリゼルはIRCを起動、ヒューイに連絡する。

『Lisl->Huey:私はログインしました。貴方は今話せますか』

『Huey->Lisl:大丈夫です。先ほどルーカスから連絡が届きました』

 即座に返答が返る。どうやら彼は連絡を待っていたようだ。

『Lisl->Huey:私も先ほど話をしました。私は彼の目的が理解できません』

『Huey->Lisl:ええ、“主の望むこと”とは一体? 私にもわかりません。それと昨日エルマー様と話したのですが、我々を狙う機械人形がいるようです。ジモンが破壊されました』

『Lisl->Huey:了承しました。では、ジャンクショップで販売されていたパーツは彼の物でしょう』

『Huey->Lisl:どのような状態でしたか? コアを破壊するほどの損傷ならば売り物にならないはずですが』

『Lisl->Huey:いえ、へこんだ胸部だけです。RR型ならばコアは無事だと推測します』

『Huey->Lisl:コアは無事? おかしいですね。32口径の銃痕はありましたか?』

『Lisl->Huey:確認されませんでした。銃撃はすべて弾かれています』

 通信の間が空く。どうやらヒューイは何かを考えているようだ。情報が合わない。売り物はジモンと別機の装甲だろうか?

『Huey->Lisl:他にRR型のパーツを見かけましたか?』

『Lisl->Huey:確認されませんでした』

『Huey->Lisl:わかりました。ルーカスの件もありますし、貴方も気を付けてください。彼は明後日に何か行動を起こすようです』

『Lisl->Huey:了承しました』

 それからも二機は判明した状況について連絡を交わした。主の殺害、ジモンの破壊、ルーカスの変貌、情報が合わないパーツ……間違いなく関連するはず。だが、光明が見えてこない。最後に互いに注意を喚起してから連絡を終える。


 日は既に落ちきっていた。リゼルは周囲を確認した後5番出入口から集落に戻る。今頃はヒューイも本社に戻って業務を再開しただろう。

KJ-63L(ヒューイ)は主の仕事を継いだ。GH-41A(リゼル)は主の自由を継いだ。俺は主の望みを継ぐ」

 裏通りの中、闇に溶けてなお異形とわかるルーカスが呟きながら立っていた。背中から伸びる副腕には既に全弾撃ち尽くした主の愛銃が握られている。彼はひとしきり武装を確認した後、ふたたび闇の中に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ