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第8話 時代

いまでも月に1、2度はパチンコに行くけど、


それにしてもパチンコがおもしろくなくなったのはどの位前からだろうか。


今日、ちょっと熱くなって3万5千円も負けたから言うんじゃないが、


ホントにパチンコがつまらない。


どれもこれも大きな液晶をドーンと盤面中央に組み込んで、


違いと言えばそこに映し出される画像だけ。


ただクルクル絵柄が回転し、


時々、キャラクターが飛び出して来てスーパーリーチに発展し、


そこから絵柄が揃うか、揃わないかだけの遊び。


メーカーが変わっても、機種が変わっても、内容はどれも一緒だ。


私に言わせれば、こんなモノはパチンコじゃない。


パチンコ玉は飛ばしているけど、内容はスロットマシーンで、


そこにテレビゲーム的な演出を施しているに過ぎない! 


あれ、そう言えば、パチンコが大好きだった祖父も同じようなこと言ってたなあ……。




その昔、パチンコに電動ハンドルが現れた当初、


私の祖父も「こんなモノはパチンコじゃない」とよく言ったものだった。


確かに、驚くほどのスピードで寸分たがわず同じ場所にピタリと玉を打ち続けられる腕を持ったプロまたはセミプロたちにとって、


素人との力の差を一番見せつけることができる玉を打つという技術介入の部分を機械化されてしまっては、


これはもう別の代物。


例えるなら、弓矢が鉄砲を通り越して一気にマシンガンに変わったようなもので、


プロと素人の力量に関係なくだれでもハンドルさえ握れば一定のスピードで連続して玉が打ち出されていくのだから、


そこに腕の違いは皆無となった。



蒸し暑い夏の日の夕方、祖父はステテコ1丁で縁側に陣取り、


当時、中学生だった私を話し相手にビールを飲みながら


「ただハンドル持っているだけじゃ、つまらなくていけねーや。


パチンコはよ、親指で1発1発、心をこめて打つからおもしろいのによ」


とよくグチったものだ。


そんな祖父に私は、


「なんで? ラクでいいじゃん。玉がすぐなくなっちゃうのは困るけどさ」


なんて反論していたっけ。



庭先には小学生の弟や妹が観察日記を付けるために植えたひまわりが、


大人の背丈ほどに育って、


祖父の顔よりも大きな黄色い大輪の花をいくつも咲かせていたのを、


なぜかいまでも鮮明に覚えている。



それから電動ハンドルは、祖父のよく行く店の総台数の2割、3割、半分……


と徐々にその勢力を拡大していき、


数年後ついには全台がそれに取って代わった頃に、


祖父は天寿を全うした。




そんなパチンコ好きの祖父に連れられ、


小さい頃から景品目当てでパチンコ店に出入りしていた私は、


小学校の高学年にもなると


祖父の横でいっぱしのパチンカー気取りで玉を弾いていたものだ。


だから、祖父は私に電動ハンドルのことをグチったし、


私も反論なんかできたのだった。



当時はパチンコ店も大らかだったのか、


子供の私が1台占領してパチンコをしていても従業員に注意された記憶はない。


逆にチョコをもらったり、ひと握りの玉をもらったり、


なにかにつけかわいがってもらったほどだ。


こんな環境で育った私にパチンコをやるなというのがムリな相談で、


高校時代にはひとりでパチンコ店に入り浸っていた。



オールドファンの祖父にとっては腕の見せ所を奪った憎き電動式ハンドルも、


私がひとりで本格的に打ちはじめた頃にはそれが当たり前だから、


パチンコはそういうモノというだけのこと。


祖父にとってはパチンコじゃないパチンコが、私は楽しくて仕方がなかった。


いま、30年のパチンコ歴を振り返ると、


この頃のパチンコが一番、パチンコらしくて楽しかったように思う。



いまのように攻略本もなければ、インターネットのホームページもないから、


メーカー名や機種名なんかはさっぱり覚えていないが、


それでも夢中になった機種はいまでもハッキリと覚えている。



私が一番、好きだったのはオリンピックの表彰台を模した機種だった。


センター役物のなかに表彰台があり、

天穴から入った玉は、1位、2位、3位の表彰台にある入賞口のいずれかに入る仕組みだった。


チューリップは左右に2個ずつ、


役物下に上下2個(下のチューリップから玉を入れ、次に上のチューリップに入れれば再び下のチューリップが開く)の合計6個で、


一番低い3位の表彰台に入れば、左右の2個が、


2位の表彰台に入れば役物下の2個のチューリップが開き、


見事てっぺんの1位の表彰台に入賞すればチューリップが6個全開となる。


天穴から玉が入って、見事てっぺんの表彰台に玉が入ったときには、


盤面上に一度に6個のチューリップが花開き、それはそれはうれしいものだった。


ツイているときなど、1位に入って、チューリップが6個開き、


そのうちの2、3ヶ所のチューリップに同時に2個入賞して再び開き、


さらにひと通り入賞したと思ったら、


最後にセンター役物下の上のチューリップに2個同時に入って、


それもまた下からちゃんと閉じたりして、ガッツポーズものだった。


それで得られる玉数なんて、いまのパチンコの大当たり1回分とは比べ物にもならないが、


再抽選で確変が来たときよりもよほど胸がスカッとしたもんだ。



あと、忘れられないのが、長い刀を両手に持ったコミカルな侍がセンター役物だった機種。


通常時は、センター役物から伸びた2本の細長い刀は幅1センチの間隔で並び立ち、天穴まで届いている。


それがひとたび、玉が天穴に入賞すると、その侍の持つ長い刀がゆっくりと左右に開き、


大入賞口になるのだが、


その大きさたるや大胆にも盤面の左右ほとんどの幅にまで広がってしまうから、


どこに玉が流れても、入賞してしまうというスグレモノ。


もちろん一定時間で閉じてしまうが、


あの開口時の入賞口サイズはいまだに破られてはいない記録じゃないだろうか。



このほかにも、アイデアに富んだ個性的な機種はいくつもあった。


新台オープンの告知があると、


今度はどんな機種が入るのかとその日を待ちわびたものだ。


ホント、あの頃のパチンコは良かった−−。



「大体な、いまのパチンコのルーツはフィーバーなんだけど、


あれはパチンコでスロットマシーンを作ったものなんだよ。


で、パチスロはパチンコ型のスロットマーシンだろ。


じゃあ、いまのパチンコ店は全部スロットマシーンが並んでいるってことじゃないか。


パチンコはどこに行ったんだよ、まったく……」



私がかつての祖父と同じようにマンションのリビングで


第3のビールを飲みながら息子にグチると、


「はぁ? フィーバー? なにそれ?


てゆーか、パチンコでもスロットでもよくなくない?


連チャンして儲かれば」と息子が反論してきた。



テーブルの上には妻がカルチャースクールでこしらえてきた


白い小ぶりのひまわりのフラワーアレンジメントが飾られている。


祖父なら間違いなく


「ふざけちゃいけねーや。


こんな白くて小さい花のどこがひまわりなんだい」


って、巻き舌で怒ることだろう。


そして私もいまなら


「そうそう。


見上げるほど高くて、


大きく黄色い花を太陽に向けてこそのひまわりだからね」


と、追随するに違いない。



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