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第21話 ばかっぷる〜大樹と美咲〜



「あん、もー5分の遅刻だぞ。大樹〜っ」


「ごめん、ごめん。ちょっと出るの遅くなっちゃって。必死で走って来たんだけど。はあはあ」


「だ〜め、走ってクルマにでも轢かれたらどうするの? 美咲に早く会いたい気持ちは分かるけど、大樹にもしものことがあったら美咲生きていけないんだからね」


「分かってるよ。ごめんね。気をつけるからさ。それより美咲、髪切った?」


「超うれしー! 昨日、美容院でちょっと毛先を揃えてもらっただけなのに、やっぱ大樹は気付いてくれたんだあ。いまので5分の遅刻は帳消しにしてあげる。うふ」



恋は盲目というけど、最近、場所柄もわきまえずにイチャイチャ、ベタベタと2人の世界に浸りきるばかっぷるのなんと多いことか。


なにを隠そう、この大樹と美咲の大学生カップルも、そんなばかっぷるな2人。


付き合って半年で、そのばかっぷるぶりはいよいよ拍車がかかり、


お互い寝ても覚めても


「大樹〜♪」


「美咲〜♪」


とベッタベタ。


友達もみんな呆れて離れていってしまったが、


そんなことはお構いなしに、


大樹と美咲は、


2人のために世界はあるの状態を満喫しているのだった。




そんな2人の当面の夢は一緒に住むということ。


要するに同棲だ。


お互い実家に住んでいるため夜は離れ離れに引き裂かれる毎日。


駅のホームで、毎晩のごとくピッタリと抱擁し合い


「帰る、帰らない」


と1時間も2時間も涙、涙のメロドラマを繰り広げている2人にとって、


同棲は当然の流れと言えるだろう。


いや、毎晩、そんな2人の不快極まりない姿を見せられる世間のみなさんのストレスを考えれば、


一刻も早くこんなばかっぷるは同棲でもして外をうろちょろしないでもらいたいもの。


2人の世界は2人の世界でやってくれ〜。




というわけで、同棲計画を練り始めたものの、


デートで散財し尽くしているばかっぷるに貯金などあるはずがない。


そこでおばかな大樹は考えた。


「美咲、パチンコで稼ごうか」


「え〜、てゆーか、大樹うまいの?」


「あんなものは運だよ。美咲はおれとずっと一緒にいたいんだろ? おれも美咲と住みたい。その熱い想いさえあれば、神様がきっと味方してくれるって」


「てゆーか、美咲、大樹のこと信じてるし」



どちらか1人がおばかなだけでは、ばかっぷるにはなれない。


大樹と美咲、2人揃ってばかっぷるだ。




さて、『大樹と美咲の同棲資金をパチンコで稼ごうラブラブ計画』初日。


「美咲、大切な日に遅れてごめんな。おれ、がんばって絶対に勝つから」


「うん、美咲もがんばる。ずっと念じているから。勝ちますようにって」


 “がんばり”や“念”で勝てるならだれも苦労などしないが、


とにかく駅前のパチンコ店に入った大樹と美咲。


指と指を絡ませながら、2人並んで人とぶつかりぶつかり通路を歩き、


台の選択を始めた。


金髪で体格のいい大樹と同じく金髪でするどいきつね目の美咲の2人には、


ぶつかってもだれも文句など言えない。


どっから見ても、関わり合いたくないオーラ出まくりの2人だった。



「お、柔道の台がある。これにしよう、美咲」


グラビアアイドルが柔道着を着た等身大のパネルを見つけた大樹が言った。


「あー、なんかやらしい〜。胸の谷間見て決めたでしょ、大樹? どーせ、美咲はないですよ。谷間。フン」


確かに、柔道着に不自然なほど胸の谷間が強調されたパネルだ。


「そ、そんなことないよ、美咲。


おれは美咲の胸、大好きだよ。


てゆーか、デカいのキライ。


ばかっぽいじゃん。


そうじゃなくて、ほら、おれ、高校までずっと柔道やってたからさ。


やっぱ柔道に愛着があって、それで・・・・」


「じゃ、いいよ。大樹がよければ。がんばってね」


おばかはくだらないことで怒るが、3歩歩けば忘れる。


「お、新台って書いてあるぞ。やっぱ、新台に限るよね、パチンコは」


「そうなの? やっぱ大樹はなんでも新しい方が好きなの? 女も?」


「もう美咲、どうしたんだよお。


いまはパチンコの話。


たくさん勝って、1日も早く一緒に住むんだろ?


新台の方が店も出すんだよ。


客に出るって思わせるために」



「そうなんだ。じゃ、よかったね、大樹。


がんばってね。


美咲、こうやってずっと大樹の手を握りしめてるっ!」


「美咲、反対側に座って、握り締めるの左手にしてくれる。


右手を握り締めちゃ、パチンコできないからさ」


「あ、ごめん。


美咲ってば、いつも大樹の足手まといになってるね。


いいの?


大樹はこんな美咲でもいいの?」


「おれが選んで惚れた女は美咲だけだよ」


「大樹〜♪」



目と目を見つめ合い、それから抱擁すること10分。


なかなかパチンコが始まらないばかっぷるだった。



「あ〜美咲、パチンコってテレビで見たことあるかも〜。


3つ揃えばいいんでしょ?」



「そうそう、あ、美咲、これ、これがリーチ。


念じて、念じて。


一緒に住めますように!」


「大樹、がんばれ〜!」



ノーマルリーチにそんなに期待する人もいないが、ばかっぷるだから仕方がない。


案の定、中央の絵柄はひとつずれて6で止まった。


「クッソー、6かよ。惜しかったなあ」


「なんで、5で止まらないんだろ。


美咲の想い、神様に届かないのかなあ。グスン」


「み、美咲。まだ、始まったばっかりだからさ。


2人の熱い想いは、パチンコなんかには負けないさ」



それからノーマルリーチが10回ほど来たが、ことごとくはずれた。


「ムカツクなあ。期待させやがって」


「ほんと、超ムカツク。


てゆーか、隣りのおじさん当たってるし」


「ま、最後にはおれと美咲の愛の力が勝つさ。


焦らして焦らして最後にドカーン!


な、ラブストーリーってそうなっているのよ」


「もう、好き好き、大樹のそういう前向きなとこ。


いまここで抱かれたい〜♪」



台も無制限ならこの2人のおばか加減も無制限だ。


「お、美咲、なんか変わった。


これ、スーパーリーチだ。


なんだなんだ。抑え込みに入ったぞ」


「きゃ、美咲も抑え込まれた〜い」


「お、今度は背負い投げだ〜」


「もう背負って、背負って〜」


「巴投げはどうだ〜」


「あん、目がまわる〜好きにしてぇ〜」


「美咲っ、お、おれ・・・・」


「大樹っ、み、美咲も・・・・」



あろうことかパチンコの液晶画面で発情してしまった大樹と美咲。


保留玉も使いかけのプリペイドカードもそのままに、


手と手を取ってラブホへ駆け出してしまった。


想像を絶するばかっぷるだ。


どうなる?


『大樹と美咲の同棲資金をパチンコで稼ごうラブラブ計画』。


大丈夫か?


ニッポンの未来。

 


 

  





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