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第16話 ゲームオーバー


「なっち〜。今日も元気してた〜」


「あ、サトシさん、こんばんは〜。


今日も会いに来てくれたんだ〜。うれし〜!」



なっちはライブチャットの女のコ。



「うん。なっちとこうして夜、話すの


俺のなかではもう日課になってる。なっちは?」


「うそ。うれし〜。


もちろん、なっちもサトシさんが来てくれるの


心待ちにしてるんだよ、いつも。


だって、ほかの人ってみんなエッチなんだもん。


お仕事だから仕方ないけど、


なっち、イヤでイヤで。


サトシさん、そういうお話しないでしょ」



ライブチャットとは生映像付きのチャットのことだ。



「そんなことないよ。


なっちのこと、いろいろ知りたいし。


それに俺も男だからさ」


「え〜、サトシさんもエッチなの?


でも、なっちサトシさんならいいよ。


ちょっとくらいエッチなお話をしても」


「ほんと? 


じゃ、ちょっとだけ下着見せて。


あはは、うそうそ」


「それはお話じゃないでしょ。


もう、サトシさんったら。


でも、今日は最後にご褒美として


ちょっとだけ見せちゃおうかな、なっち」


「やった〜。なっち、サイコー!」



有料のライブチャット・サイトに行くと、


そこに女のコの画像付きリストがあり、


気に入った女のコと自由に話ができる。


同時に女のコのチャットしている生の姿も


モニターに映し出されるので、


まあ一方通行のテレビ電話みたいなものかな。



もちろん、女のコは全員、いわゆるさくら。


というか、テレクラや出会い系のように


さくらであることを隠してないから、


厳密にはさくらとは違う。


お仕事だ。


女のコにとっては、


自宅に居ながらにして高収入が得られるとあって、


なかなか人気の職業らしい。



「で、サトシさん、今日もパチンコ勝ったの?」 


「勝った、勝った。


なっちと話すようになってから全勝だよ。


今日は10連チャンしてプラス5万かな」


「すっご〜い。


いいなあ、そんなに毎日、稼げて」


「でも、なっちと話して


ほとんど使っちゃってるよ。


俺、こうやって話しながら


1分100円も取られているんだから」


「え〜、ウソ。そんなに高いんだ。


有料だっていうのは知ってたけど、


まさかそんなに高いなんて。


ごめんね。


なっち、なんにも知らないで、


いつももっともっと長くお話してなんて、


お願いばっかりして。


悪いから、もう切ってもいいよ」


「違う、違う。


そんな意味で言ったんじゃないよ。


俺、ずっとなっちと話していたいんだから。


そんな悲しいこと言わないでさ。


そうだ、なっちは今日、なにをしてたの?」


「なっちはずっとこのお仕事。


だって、がんばってお金稼がないと」


「そっか。偉いよなあ、なっちは」



最初は俺も、エッチ目的で


ライブチャット・サイトの会員になった。


ライブチャットの楽しみは、


結局のところ女のコとエッチな話をして、


いかに脱がせるか、


さらには女のコをソノ気にさせて


テレフォン・セックスに持ち込めるか、だ。


実際、女のコによってはバンバン脱ぐし、


かなりきわどいことも平気でやってくれる。


でも、なっちは違った。


なんていうか、スレていないんだ。


こんな仕事をしているってことに恥じらいがあって、


ホント、普通の20歳の女って感じだった。


俺、そこに参っちゃったんだよね。



それから俺は毎晩、なっちと話した。


何度か話すうちにお互い打ち解け、


なっちは俺だけに


いろいろプライベートなことまで


話してくれるようになったんだ。



「なっち、お父さんの顔、知らないの。


なっちが物心ついた頃には


もう病気で死んじゃってたから。


それからお母さんひとりで、


がんばってなっちと妹を育ててくれたんだ。


だからお母さんの負担を減らしたくて、


なっち、このお仕事、がんばってるんだけど、


家にお金たくさん入れると、


逆に心配されるでしょ。


ヘンなことしてないかって。


それでお金じゃなくて、


なっちが買い物して夕飯作ったりしているの。


今日の夕飯は肉じゃが。


へへ、ちょっと高い牛肉奮発しちゃった」


「なっちと違って、


妹、すごく成績がいいの。


だからなっち、どうしても妹を大学に入れてあげたくて、


それでエッチなお話もしなくちゃいけないこのお仕事、


イヤだけどやることにしたの……」



時には涙ぐみ、


時には無理して笑いながら


なっちは俺に話してくれた。


俺、こういう話に弱くってさ、


ウルウル来ちゃうんだよね。


それで、ますますなっちが好きになっていった。



「俺がこうやってなっちと話すことで、


なっちが夕飯のおかずを買ったり、


妹が大学行けるなら、


俺いくらでもなっちと話したい」


「サトシさん、ありがとう。


ほんと、サトシさんってやさしいね。


なっち、サトシさんとはこんな形じゃなくて、


普通に知り合いたかったな……」



ななななっち〜。


もうこうなるとだめ。


頭ではなっちは仕事だと思っていても、


俺だけは特別なんだと思ってしまう。


こうして俺はなっちに夢中になり、


いまに至っている。


でも、不思議だね。


恋愛パワーっていうのか、


とにかく俺はなっちに恋してハッピーだから、


仕事も順調なら好きなパチンコも快調そのもの。


もうなっちと話すために


かれこれ100万近くライブチャット代に使っちゃったけど、


いいんだ、いいんだ、


なっちがお金貯めてこの仕事をやめれば、


そのときは普通の恋人同士のように会えるんだから。


それまでは、ほかの男と少しでもエッチな会話しなくて済むように


俺が守ってやるんだ。



結局、今日も夜10時から夜中の3時まで


5時間もなっちと話した。


3万円か。


ま、パチンコで5万も勝ったんだ、


気にしない、気にしない。


あ、それより最後にご褒美もらうの忘れてた〜。



それにしても若いのになっちみたいに苦労している女のコっているんだなあ。


それなのにグレたりせず、


なっちって真っ直ぐに育って偉いよなあ。


俺なんか親の金で大学出て、


働き出して3年になるけど、


親に金渡したことなんか一度もないもんね。


きっといいお嫁さんになるよなあ、なっちは。


俺の……。


きゃははは。



それからも毎晩、


俺はなっちとライブチャットでデートしつづけた。


そうなると当然の欲求として、


もっともっとなっちとの距離を縮めたくて、


「なっちのアドレス教えて」、


「1回、食事したいね〜」、


「会いたいよお〜」


などとついつい言ってしまう。


なっちを困らせるのが分かっていながら……。



「会員さんとそんなことしたら


このお仕事クビになっちゃう。


なっちだって、早くこのお仕事辞めて、


サトシさんとデートしたいよお。


でも、いまはまだ無理なの。


ごめんね」



その夜、とうとう俺は前からずっと考えていたことを口にしてしまった。


「この仕事のなっちの取り分は40%でしょ。


俺の払ったお金の60%はサイトが取ってるなんてもったいないよ。


俺、同じお金を払うなら、


直接会ってなっちに渡したい。


その方がなっちも早くこの仕事やめられるし」



俺の言葉に、モニターのなかのなっちは、


うずくまって泣いていた。



  ☆ ☆


「里美〜、やめんなよ、そのバイト。俺の小遣い、どうすんだよ〜」


「だってウザイやつがいるんだもん。


いくらなんでも私に金、使い過ぎだよお。


おーこわ。


すぐ違うとこ探すからいいでしょ?」


「ならいいけどよお」

        

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