第15話 異性の胸の内
すっごくイイ女な私
へ?
居ないの?
まだ来てないの?
信じられない。
初めてのデートで待たせるなんて。
まったく人がちょっと合コンで愛想振りまいてやりゃあ、
もうこの扱いかよ。
それより、なによ、この暑さは。
冗談じゃないわ。
こんな炎天下の道端で
いつまでわたしを待たせるつもり。
医者な俺
マジ〜な。
最初のデートだっていうのに遅れちまったか。
ま、いいか、大体、医者狙いの女なんて
ロクなのがいねーからな。
おれはまず職業から男を選ぶような女なんか信用しないもんね。
遅れたことでブーブー文句言ったら、
機嫌とって一発やってハイさよならだ。
今日の女は見た目だけはよかったからな。
すっごくイイ女な私
ウソ?
もう30分も遅刻じゃない。
倒れるわよ、わたし。
夕飯はちょっとやそっとのレストランじゃ承知しないからね。
どうせ、オープンカーかなんかに乗ってきて
「遅れてゴメン。ちょっと急な手術が入っちゃって」
とかなんとか言い訳するんでしょ。
ったく、医者だと思っていい気にならないでよね。
☆ ☆
「ごめん、ごめん、待った?
いやあ、急な手術が入ってさあ。
急いで来たんだけど」
(フン、医者好き女はこのセリフでイチコロだぜ)
「あ、いえ、わたしもいま来たところで…」
(なに、カローラ?
わたしをカローラで迎えに来たの?
こいつホントに医者?)
「じゃ、乗って。
お台場の方にでも行ってみようか」
(お台場行って海見て、
酒飲ませて夜景見せれば
股を開く、と)
「は、はい」
(げ。こんなクルマでお台場?
友達に会ったらどうするわけ)
「あっちゃ〜。混んでるね。
全然進まないや。どうしようかな。
お台場やめて、横浜の方にでも行こうか」
(ま、海が見えればどこでも一緒だ)
「ええ、わたしはどこでも。
それにしても大変ですね。
お休みの日でも急に手術が入ったりして」
(横浜じゃ中華かあ。
このクソ暑いのに油っこいのはなあ)
「そうなんだよねえ。
おちおちパチンコもできないよね。
確変中に呼び出されたりするから。あはは」
「パチンコとかされるんですか?」
(おいおい、パチンコなんかしてるのかよ、こいつは。
初めてのデートでパチンコの話なんか持ち出すなよな。
なるほど、わたしは庶民の遊びであるパチンコもする気さくな赤ひげさんってか。
残念ながらわたしはそんな話題じゃ打ち解けないわよ)
「あれ、パチンコするの?」
(ありゃ、バカなお嬢様気取りかと思ったら、
ちょっとは話せるのか)
「え、いえ、わたしは一度もやったことないんです。
なんかおもしろそうですよね。
でも、女性同士ではなかなか入りづらそうで」
(だからパチンコ話はいいって。
それより年収いくらあるの?
カローラなんか乗って)
「そっか、パチンコもしたことのないお嬢さんなんだあ。
興味あるならやってみる?
うんうん、結構おもしろいよ。
最近では女性向きのおしゃれな店も多いし」
(海見たってつまんないから、
ほんじゃパチンコにでも連れていくか)
「お嬢さんなんて、そんな全然。
え、パチンコ? あ、はい……」
(うそ、うそ、うそ、
あ〜あ、とうとうパチンコかよ。
なんでパチンコなの?
こんな美女と初めてデートして。
もっと、わたしのこといろいろ知りたいでしょ?
いくらでも話があるじゃない。
普通はもっと機嫌を取るんじゃないの?
マズイな、このわたしが軽く見られている……)
「あー涼しい。やっぱ夏はパチンコだね。
じゃ、ここに座って。
カード買ってくるから、5000円ちょうだい」
「え? あ、はい。ちょっと待って……」
(しょえ〜、初めてのデートで金出さすのかい、女に。
だめだ、この男は。
あーもうキレそう。
一体ここどこ?
どうやって帰ればいいの?)
「やっぱギャンブルは自分のお金でやらないとね。
じゃないと楽しくないから。
じゃ、ここにカードを差し込んで、
で、ハンドルを握って打つ、と。
でね、ここに玉が入るとまわるから。
で、3つ同じ絵柄が並べばいいの。
ま、そんなに簡単には揃わないけどね。
じゃ、がんばって」
(大学出たての勤務医なんて給料安いんだよ。
人のパチンコ代まで出せるかって。
今日はこの後、夕飯代にホテル代もかかるんだし。
お、そうだ、パチンコで稼げばいいのか。
こりゃ。がんばろ)
「は…はい」
(なにをグダグダ楽しそうに説明してるのよ。
そんなこといくら初めてだって、見りゃ分かるって。
それより5000円痛いなあ。
医者狙いの合コンに出るために
自分を磨いてるOLはお金がないのよ。
いくらすると思ってるのよ、
今日着ているこのシャネル。
グッチのバックにティファニーのアクセサリー。
まさかこんな勝負服でパチンコするとは。
完全にわたしだけ浮いているじゃないの、ったく)
「あ、ほらほら、これがスーパーリーチっていうやつ。
おおお、くるか、くるか、よし、こい、こい、
あーダメだったあ。あははは」
「あ、惜しかったね。もうちょっとだったのに」
(おい、医者。
いいのか、こんな美女を連れてパチンコなんかしてて。
なに、そんな思い切り楽しそうに笑ってるんだよ。
怒って帰るぞ、
いいのか、いいんだな。
もう5000円なくなるって)
「あーなくなっちゃった。
あと5000円づつやろうか。
じゃ、ぼく買って来てあげるから」
「すいません。じゃこれで」
(今月、最後の万札だよ、それ。
どうするのよ、
こうなったらなにがなんでも揃えてやる)
「お、いいね、その表情。
ヤル気になってきたね。
そうこなくっちゃ。
ね、パチンコってけっこう熱くなるでしょ。あはは」
(おれもマジで揃えないと、
あと2万しかねーや。
飯食ったら、ホテル代足りねーぞ)
「あ、きた、ね、ね、これ、見て」
(冗談じゃねーぞ、医者。
パチンコなんかやらせやがって。
こっちは明日の昼食代がかかってるんだよ。
好きで熱くなってるんじゃねーや。
絶対にこいよ!)
「あ、ほんとだ、よし、ほら、
きた、きた、きた。
よーし、きた!」
(クソ、そっちの台に座ればよかったなあ。
ま、いいか、最悪、
この女にホテル代払わせよう)
「きゃ〜。
ね、ね、どうするの?
どうすればいいの?
うれし〜」
(それより、これでいくらになるの?
7000円使っていくら儲かったるの?
まだ足りないのか?)
☆ ☆
「あはは、結局、
2人ともスッカラカンになっちゃったね。
あはは。
ま、たまにはこういうデートもいいか。
あはは。
あ〜腹減った。
ラーメンでも食って帰ろう」
(失敗したなあ。
でも、このコ、なかなかいいじゃん。
マジで付き合おうかな)
「うん、こんな楽しいデート初めて。
横浜っておいしいラーメン屋さん多いんですよね」
(なに笑ってるんだよ、医者。
もう最低。
1万5000円どうしてくれるんだよ!)
☆ ☆
「また会ってくれるよね。
じゃ連絡するから。
おやすみ」
(このコ性格いいや。うん、惚れた)
「気をつけて帰ってくださいね。
おやすみなさ〜い」
(事故って
てめえの病院にでも
担ぎ込まれろ、
ばっきゃーろ!)