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第11話 罰当たりな男に罰

泣きっ面に蜂とはこのことだ。


鉄板と踏んだ競馬で10万もっていかれた帰り道、


少しでも取り返そうとスケベ心を出してパチンコに寄ったら


きれいにハマッて、残る5万もスッカラカン。


カーッとなって席を立ち、


一目散に店を出ようとしたら、


床に転がっているパチンコ玉に右足を滑らせて


「グギッ」だって。


もう、足首が痛いのなんのって。



朝になっても腫れが引かないから病院に行ったら、


右足首の骨にヒビが入っているっていうじゃんか。


そんな訳でいま、俺は松葉杖のお世話になっている。


医者がいうには、ヒビは骨折よりも時間がかかるそうだから、


まあ当分は仕事も休んで、のんびり療養生活ってところなんだけど、


なんせ昨日、有り金すべてをスッちまっているから、


のんびりなんて気分には、ほど遠い。


とにかく先立つモンがなきゃ、こっちは餓死しちまう。


治療費も今日のところはツケだが、


明日は払わないとカッコ悪いし。


となると金策だが、親方はこの忙しいのにケガなんかしやがってって怒っているからペケ。


やっぱ、アイツしかいねえな。



「おお、俺だよ。まいっちまったよ。足、ケガしちゃってよお。


ちょっと食い物持って、来てくんねえかなあ。悪いけどよ。


あ、それから金もちょっと……」


「ツーツーツー」


なんだよ、バカヤロウ。


困っている時はお互い様だろうが。


無言で切ることはねえよな。


冷てえオンナだ。


ま、アイツの貯金200万もギャンブルに使っちまった俺が、


そんなこといえた義理じゃないか。


アイツが愛想を尽かして部屋を出て行ってから、かれこれ3ヶ月になるもんな。


もう新しい男でも出来たかもしれねえし。


でも、もう1回だけかけてみるか。



「おい、本当に困ってるんだよ。


病院代だけでも、なんとかならねえか。


5万、5万でいいからよ。


昨日からなんにも食ってねえんだ。


頼むよ、由美。由美様。3万。


俺、いま人生最大のピンチ。助けて。


一度は愛し合って、同棲までした仲じゃねえか。


なあ、ホント、助けて」


「いい気味よ。ばーか。ツーツーツー」



お、こりゃ脈がありそうだ。


ホントにイヤなら、まず電話に出ない。


それに、例え「ばーか」でも、とにかくしゃべった。


まだまだ甘いな、由美ちゃんよ。


それ、再ダイヤルと。



「なによ、何度も何度もうるさいわね」


「だからさ、頭を下げるのが何より嫌いなこの俺が、


こうして『助けてください』って、頼んでいるんだからさ。


お願い。今度だけ助けて。


俺、別れてから、お前になにか頼みごとしたことあるか?


な、ねえだろ」


「う〜ん」



よし、これは落ちる。



「このままじゃ、俺、世をはかなんで自殺しちゃうかもよ。


そうなりゃ、お前だっていい気はしないだろうが」


「なにそれ、脅迫する気。死ねるもんなら、死んでみなさいよ。


そんな度胸もないくせに」


「あ、そう、じゃあな」


と、電話を切って待つこと1時間。


案の定、由美はスーパーの袋を抱えて、俺の部屋をノックした。



「久しぶり。どうでもいいけど、汚い部屋ね。よく病気にならないこと」


「その代わり、ケガした」


おもしろくないわよ、といわんばかりに由美は俺の軽口を無視し、


勝手知ったる元愛の巣に入ると、


矢継ぎ早にケガに至ったいきさつを聞いて来た。



「パチンコ玉に足を取られて、骨にヒビが入ったって?


バッカじゃないの。


散々、お金取られて、しまいに足までケガして、


いい笑いモンだわ」


「そこまでいうか。一度は愛した男に対して。


お前には情けってモンがないのか」


「あんたに対してはね。どうせ仕事もしないで、


相変わらずギャンブルばっかりしてるんでしょ?


ああ、別れて正解だった。


今日は特別だからね。


もう2度と来ないから。


本当は顔も見たくないんだけど、


あの情けない声を聞かされたら憐れになってさ」


よしよし、会話もいい感じで弾んで来たよ。


「まあまあ、来る早々、そんなに忙しく言い訳しなくても、


分かっているって、お前の本心は」


「ばか。勘違いしないでよね。


ふざけたこといってると、帰るわよ」


「分かった分かった。とにかくなんか作ってくれ。腹ペコなんだから」


口ではなんだかんだいいながらも、


由美は結構楽しそうに食事の支度をし、


テーブルの上を片付けて、料理を並べた。


ビールまで買って来ている。


「あんたはダメよ。ケガしているんだから」


「いいじゃねえかよ。な、再会を祝してカンパーイ!」


「なんで祝さなきゃいけないのよ。


あんたから電話が来るなんて、今日は仏滅なんじゃないの。


大体、私のお金200万も使っておきながら、


どのツラして電話して来たのよ。


図々しいったらありゃしない。


私がこの3ヶ月、どんな思いでいたか分かっているの?


本当にあったまに来る」


「痛え。ばか。蹴るなよ。ヒビ入ってるんだからよ」


「私の心のヒビに比べたら、そんなもん大したことないわよ。


男のクセに大げさね」


付き合っている頃も、こうしてよくじゃれ合ったもんだ。


「いや、でも、人間、元気な時はいいけどよ、


ちょっと体が不自由になると、弱気になるねえ。


松葉杖じゃ、なんにもできねえ」


「たく、相変わらず口ばっかり。


あんたがケガしたの昨日でしょ?


たった1日でなに分かったようなこといっているのよ」


「いや、ホント。病院の帰り、松葉杖で電車に乗ったろ?


大変なんだから。


階段なんかどうしようかと思ったね。


でもよ、結構、親切な人っているのな。


俺が困っていたら、そいつ肩貸してくれてよ。


俺、ついでに金も貸してくれっていいそうになっちまったぜ。ハハハ」


「キャハハハ。このバチ当たり。


そんなこといっても、私は貸さないからね。


冗談じゃない」


お、ついに笑った。


「絶対に返すから。とりあえず明日、病院に今日の分を払わなきゃ。


8000円だったかな。


それと給料日までの生活費も。


な、5万でいいから、お願い。


天使のような由美様!」


「だ〜め」


言葉が甘くなって来たよ。


「ところで今日はゆっくりしていけるんだろ?


俺、淋しいからよ。


な、よかったら、泊まっていけよ」


「なにいってるのよ。1回、家に戻って支度する時間もあるから、


遅くても4時には帰るわよ」


「なんだよ、お前。久しぶりに会ったっていうのに、


それはないだろ。まあ、飲め飲め」


結局、由美はお店に「休む」と電話をした。


俺への恨みつらみを延々と口にし、


怒って、泣いて、


そしてヨリが戻った。


まさにケガの功名。


さすがの俺も、今度ばかりはマジで由美を幸せにするつもり。


こんなやさしいオンナは、ほかにいないと分かったからな。


これまでの分も幸せにしてやらないと。



なんて柄にもねえことを考えたのがいけなかったのか、


トイレまで片足ケンケンで行ったところが、


俺、酔っているから段差でグギッ!


左足もやっちまった−−。



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