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失われた遺構

 話を聞いたセバルト達は、しかたがないので、甘味のことはとりあえず忘れてシーウーで過ごすことにした。

 とはいえ、ブランカの記憶に関してもいまいちこれといった手がかりがないので、当てなく色々なところを見ることくらいしかできないが。


 とにもかくにも、セバルトは途中だったことを思い出した。

 ハンモック作りが途中だったことを。




「あと少しってところだったからな。やっちゃうか」

「ええ、ぱぱぱっと終わらせちゃいましょ」


 隣でやる気を出しているのはメリエ。

 宿で食事をとりつつ話したら、ノリノリでやると言ったのだ。

 この前ハンモック作りにやる気を出していたブランカもやるかと思っていたセバルトだったが、宿で気付くとブランカの姿が見えなくなっていた。

 どこにいったのかは知らないが、まあ完成したら教えて使わせてやればいいだろうと、気にせず森の中で作業を始めた。


 二人でちまちまと蔓を編んで太いロープにしていく。なかなかメリエは器用で、セバルトよりも素早いくらいに編んでいく。


「へえ、さすが修理屋の娘」

「ふっふ、恐れ入ったか」


 などと話しつつ編んでいき、必要なロープを全部完成させる。

 そうしたら、次は、ロープ同士をまとめて、両端を一つにまとめて太いロープのようにして、輪っかの形を作って結ぶ。こうしてまとめた強靭なロープの輪っかの部分を、木の枝にひっかければいい。


「いいね、いいね。できてきたよ」

「あとは、布にロープを通せば完成です」


 端は一つにまとめられているが、真ん中の方は広げる。そのロープを通る隙間を作った二枚重ねの布にロープを通していき、固定すれば完成。

 木の枝の間でゆらゆらと揺れる、どこからどう見てもハンモックだ。


「さて、それでは僕がまず行きましょう。体重が重い僕で試せば安全かどうかわかりますからね」

「凄く口実っぽいけど、最初からつくってた人には何も言えないね」


 メリエに見送られつつ、セバルトはモスグリーンのハンモックに乗っかった。

 そっと尻を乗せ、そして体を横にしていく。


「……よし、大丈夫です!」


 安全性を確認。

 そうすれば次は、寝心地の確認とばかりにセバルトは目を閉じる。


 寝返りをうつとそれにあわせてゆらゆらとハンモックが揺れ、その穏やかなリズムが、心地よい眠りへとセバルトを誘っていく――。


「――うおおっ!?」


 かと思った瞬間、ハンモックが激しく揺れ始めセバルトは目を開いた。

 その目に飛び込んできたのは――悪い笑顔をしているメリエ。


「はっはっは。そう簡単には寝かさないよ、先生」


 メリエがハンモックを揺らしていた。


「くっ……ふふ、この程度さざ波のごとしです」

「ほー、言うねえ。じゃあもっとやってあげる」


 さらに激しく、回転しそうなほどハンモックを揺らすメリエ。

 しがみつくセバルト。


 攻守交替しつつ、童心に返った気分で、明らかに本来の使いかたとは違うように、セバルト達はハンモックを楽しんだのだった。




「あー、面白かった。なんだか、子供に返った気分だよ」

「はは、そうですね。本当に。普段やらないことをやると、若返ります。若返るというより、子供返ってますけど」


 まあ、たまにはこういうのもいいだろうと思いつつ、セバルト達は町に戻っていった。


 ――翌日。

 セバルトは、再びハンモックの所に来ていた。

 今度は本当に眠るための利用である。

 森のさざめきを子守歌に、ハンモックに揺られるのは、予想以上に心安らぐ体験で、これは必ず持って帰って家に設置しなければとセバルトは決意しつつ昼寝からゆるゆると目を覚ました。


「さて、じゃあちょっと探索するか」


 ハンモックを作る前にやっていた森探索の続きを再開する。

 何か、ブランカの記憶に関するものを見つけ、そしてブランカの記憶が、英雄としての資質に役立てるため――割と忘れかけていた目的である。


 しばらくあてどなくふらふらと歩いて行く。


(昔を思い出すな。もっとおどろおどろしい森だったけど)


 かつて魔領の深い森を旅していた時の郷愁を抱きつつ、あそこはもっと背丈くらいあるキノコとかがあったなあなどと思いつつ、セバルトは森を進んで行く。

 そして一刻ほど歩いたときだった。


「これは、もしかして……」


 セバルトが見つけたのは、明らかな人工建造物。

 崩れた石の門と、その奥にある半分地下に埋まったような石作りの大きな建物。


 この辺の森は未踏の領域もあると言われていた。

 そこには未知の遺構があったとしてもおかしくない。


(何かあるかもしれない。散歩コースは、変更だな)


 せっかく見つけたのに入らないわけにはいかないと、セバルトは地面に埋もれかけ草花に隠されている入り口を見つけ、遺構の中へと入っていった。




 カツン、カツン、と硬質な音が響きわたる。


 遺跡に入ってから半刻ほど、セバルトは回廊を延々と歩いていた。

 地上から見えていた部分より、はるかに地下部分は広かったようで、もしかしたら天然の地下空洞を利用しているのかもしれない。


 これまでのところ、特に変わったものは見られない。

 もちろん、石と木を組み合わせて作った遺跡は珍しく、押し花や葉によって壁や扉を装飾しているなど、この場所自体が興味深いことは言うまでもない。


(いったい何に使われていた遺跡なんだろうか)


 周囲の様子をうかがいながら進んで行くと、分岐があった。

 これまで何度もあった分かれ道だ。

 回廊がランダムな樹形図のようになっているようで、かなり迷いやすい構造になっている。目印はつけてきているので帰ることはできるが、先にすすむのは一筋縄ではいかなそうだ。


「さて、また分岐か。次は……右に行こうかな」


 二択を右に選んで進んで行く。そろそろ何かあってもよさそうなのだが――。


「うーん。行き止まりですね。そろそろ何か見つかって欲しいんですけど」


 セバルトは声を聞いた。

 遺跡の壁に反響した聞き覚えのある声を。


(これは、もしかして)


 セバルトは足を速めて声の元へ進む。

 そして見たのは。


「ザーラさん。こんなところで会うとは思ってませんでしたよ」

「え? あ、セバルトさんじゃないですか。どうしてここに?」


 いつもとは違い、丈夫な生地のシャツとズボンという冒険家のような格好をしているザーラ・アハティが、壁を調べていた。

 セバルトを見ると、セバルト以上に驚いた顔をしている。


「僕らもシーウーに来ていたんですよ。調べたいことがあって。ザーラさんもまだ調査を続けていたんですね」

「実は、公式の調査はすでに終わっているんです。成果無しと言うことで」

「え? そうなんですか?」


 ザーラは少しだけ目を伏せる。


「残念ながら。ですが、私はまだ何かありそうなものを感じたんです。はっきりとわかったわけではないのですが、いくつかこういう遺跡は見てきたので、言語化できない勘のようなものが」

「なるほど、それで一人継続したと」

「はい。他の方はスケジュールがあったので、引き留めるわけにはいきませんしね。私はこんなこともあろうかと、空けて置いたのです」


 ザーラは得意げな表情になる。

 なかなかうまいことやっていく人だ、見習わなければとセバルトは思った。


「ところで、セバルトさん。先ほど、私たちと仰ってましたけれど、他にも誰か」

「ああ、そうです。メリエさんと――」

「我が一緒に来ている」


 突然の声、再び。

 セバルトが振り返り、ザーラがそちらを向く。


 真っ白な神獣、ブランカも遺跡の中にやって来ていた。



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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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