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シーウーへの道


 授業をした翌日の朝、セバルトはエイリアを出発し、ブランカ、メリエと共にシーウーへと向かった。

 街道を西へと歩いていき、昼――。 


「うむ。うまい」

「先生は肉には定評があるからね」


 言いながら、肉を挟んだパンを食べているのは、メリエとブランカ。

 街道沿いの丘の一番上で、三人並んでセバルトが作ってきたものを食べるランチタイムだ。


「美味しいと言ってもらえるなら嬉しいです。どんどん食べてください。たくさんありますから」

「あはは、先生教えるときより張り切ってるね。シーウーってどれくらいかかるの?」


 セバルトもサンドイッチを食べつつ、地図を開いた。


「まだまだですね。半分も来てません。途中でどこかで一泊して、明日の朝出発して昼くらいにはつくでしょうか」


 ブランカが地図に鼻先を近づけて見る。

 街道を通りがかった人が、その真っ白な体に驚いたように、見入っていた。


「ふむ。急げば晩のうちにつくこともできそうだが」

「僕らなら不可能ではないでしょうけど、そこまで急がなきゃいけない旅でもありませんしね」

「それもそうだ。では、食べたら一眠りするとしよう」

「そこまではのんきにしなくてもいいと思いますけど」


 とセバルトが言うが、ブランカは大あくびで答える。もう寝る体勢十分だ。

 その大口を開けた顔にメリエが「ふおお、かわいい-!」と首に抱きついた。「暑苦しいわ!」とブランカが言い、しばらくそれから二人がじゃれ合う様子を見ながら、セバルトはサンドイッチを食べていた。




 結局昼寝をしたセバルト達は、街道を歩き西へと向かう。

 歩きを選択したのは、シーウーに向かう三人とも体力にはそれなりに自信があるし、馬車代の節約のためである。


 それに、景色を眺めながらゆっくり行くのも悪くない。

 街道を歩いていると、はじめは草原や平原が見えていた。

 シーウーに近づくにつれ、段々と街道の周りの植物の背が高くなり、一晩明けてさらに歩いていくと、木が増え、森が広がる景色になってきた頃、その中にある町が見えてきた。


 セバルト達はシーウーに到着した。


「へー、ここがシーウーね」

「僕も久しぶりに来ましたけど、意外と変わってないですね」


 到着したセバルト達は、町中を歩いていく。

 同じ国の町であるので、建物の様式などはエイリアやペイルースと似たようなものだが、大きく違うところもあった。


 それは、町の中に植物が大量に入り込んでいることだ。

 森の一部を町にしたような雰囲気で、林のような木々が密集している場所が其処此処にある。


 またそのような自然を切り取ったような森だけでなく、人の手が入っている畑も多くあり、そういった木々や草花の合間に家や店舗などがあるという様相である。


「エイリアとは結構違うね。町の匂いが。土の匂いが町の中でもする、森の中で訓練してる時みたいに」

「ええ。町と森とが融合したようなところです」


 セバルトは道路沿いの畑で、腰を曲げて農作業をしている男を眺めながら言った。

 しばらく歩いていると、正面から親子連れが歩いてきた。周りを物珍しそうに子供が首を忙しく動かし、その様子を両親が微笑んで見ている。

 シーウーは、その豊かな自然や、そこから取れる恵みが有名で、観光に訪れる者も少なくない。そういう者なのだろうと思いつつ、セバルトは通りすがる。


「ふうむ。特に何も思い浮かんでこぬ」


 その時、呟くように言ったのは、ブランカ。


「シーウーに聞き覚えがあると言っていましたね。でも、今のところは何も出てこないと」

「うむ。そうだ。見覚えのあるものもない。本当は見覚えがあるのかもしれぬが」


 顔をしかめるブランカ。

 さすがに来てすぐ思い出すような、都合のいい話はないらしい。

 だがシーウーにも今通った場所以外のところも色々とある。あれこれ調べてれば、何かしらわかるだろうとセバルトは気楽に考えていた。

 

 とその時、ブランカのしかめ面が、急に明るくなった。


「どうかしましたか? ブランカ」

「あれではないか!」

「なにがです?」

「汝らが話していた甘味だ。ヨウカンだ!」

「あっ、本当だ!」


 メリエも気付いて指さした先には、甘味処だと示している看板があった。

 セバルト達はそこへと足を速める。


(しかし、記憶のことを話していたのに立ち直りが早いな。どっちが大切なのやら……そりゃヨウカンか)


 記憶がなくて困っていることも特になさそうだし。気楽でいいなあと自分の気楽さを棚に上げつつ、セバルトは甘味処へと入っていこうとした――のだが、


「なんだと!? 休業日だと!?」

「運が悪かったですね」


 まさに運の悪いことに、店が閉まっていた。

 間が悪いとしか言いようがないが、明日なら空いているとのことなので、今日の所はどうしようもない。


 だが、ブランカは諦めきれない様子で、閉店と書かれた表札を睨み付け、鼻先ではずそうと後ろ足で立ち上がる。


「って何やってるんですか。それを外したところで、店に人がいない事実は変わりませんよ」

「そんなことはわかっておるわ! わかっているが、何もしないわけにはいかぬのだ!」

「そんな熱くなるようなことでもないでしょうに……」


 とセバルトがなだめていると、メリエが口を開いた。


「ここにないなら、別のお店にいけばいいんじゃない? 町にここしか甘いものが売ってないってこともないでしょう。他にも一つくらいはあると思うし」

「おお、それは名案だ。褒めてつかわすぞ、メリエよ。よし、行くぞセバルト、メリエ」


 簡単に気を取り直したブランカ。割と単純な神獣である。


「お前さん達、ここの甘味処目当てか」


 と、再スタートしようとしたとき、道を歩いていた人が声をかけて来た。見てみれば、先ほど畑で農作業をしていた男だ。


「はい。しかし閉まっているので、別のところを探そうかと」

「あー、やめとけやめとけ。アマイモヨウカンだろう?」

「そうです、ヨウカンです。よくおわかりになりましたね」

「もちろん。この店に来る旅の客はだいたいそれ目当てだからなあ。だが、ここの店のじゃないとだめだ。味が違う」


 男は大げさに両手を横に振った。

 セバルト達は顔を見合わせ。


「そんなに違うのですか?」

「ああ。違う。そもそも今は他の店じゃ扱ってない。ヨウカンじゃここに敵わないってんで、やめちまった」

「それでは、ここが開くまで待つしかないと言うことか」


 ブランカが言うと、男は大きく頷いた。


「そうだ。待つことも大事だ。何事も、作物も。……ええ? お前さん、今喋ったのか。喋る狐が、この町の外にはいるのか」

「え? ええ。まあ」

「ほー。俺はここから出たことがないから知らんが、色々なもんがいるんだなあ。ここの森にも珍しい動物がいるが、喋る白狐は初めてだ」


 それからしばらく、男は楽しそうにセバルト達に話しかけてきた。

 旅人と話すのが好きなタイプなのかと思うセバルトだが、とにかくアマイモヨウカンという甘味が食べられないことは確定してしまった。


(まあ、明日だな。とりあえず今日のところは宿をとり、明日また来よう)


 ブランカが、耳をぺたりと伏せて、落胆した様子で、男を適当にあしらう姿を見つつ、セバルトは宿はどこにあるかと首を巡らしていた。

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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