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この剣を抜ける者が現れたならその者こそが真の英雄である!

「あの男はただの使いぱしりだった、か」


 魔神の欠片を守っていた男をエイリア市に引き渡し、取り調べを行ったが、どうやら人に頼まれたらしいということしかわからなかった。


 ローブを着た何者かに、高額な金銭と、人間を越えた力を報酬に誘われたならず者ということで、魔神の欠片自体を設置したわけでも、その意図に詳しいわけでもないらしい。


 また、魔神の欠片を置いた者もわかった。

 あの借金シャーマンのエデノルードだ。金に困った彼に、何者かが声をかけて来たという。同じように詳細は話さず、何も聞かずに仕事をすれば大金を払うといったという。


 魔法の力があって、やばいことをしてでも金が欲しい人ということで目をつけられたようだ。もちろんエデノルードはもう一度絞られていた。

 こちらも何も知ってはいなかった。末端はただ使うだけということのようだ。


 ちょっと肩すかしだが、ただ、はっきりしたことはあれが人為的なものだということだ。誰かが何かの意図でマナを乱し、人に魔神の力を与えた。


(魔神本体は凄まじい力を持っていた。欠片でも相当厄介だ。狙いはやはり、マナを混乱させることだろうけど、はあ)


 セバルトはため息をつく。


「やれやれ、人がのんびり暮らそうって時に余計なことしないで欲しいよ。まあ、でも、家庭教師やった甲斐がありそうってのはいい……のかなあ」


 何も起きない方がやっぱりいいはずと自分に言い聞かせるセバルトだが、せっかく備えたのに何も起きないとちょっともったいない気がするのも事実だ。面倒な人間心理である。


「ま、準備はしてるしいつも通りでいいさ」


 とセバルトは釣りをしてきた魚を下ごしらえして夕飯の用意でもしはじめる。

 やってみると楽しくて、湖にちょくちょく釣りに行くようになったのだ。


 とそのとき、


「先生先生! ニュースよ!」


 勢いよく家のドアが開き、メリエが飛び込んできた。


「どうしたんですか? 何か教えて欲しいことが?」

「違う違う、先鋭、凄いものが見つかったのよ」

「凄いもの?」

「そう。兎に角急がなきゃなの! 他の人に先を越される前に」


 メリエはセバルトの手を引き、走り出す。

 そしてセバルトが無理矢理連れて行かれたのは――町の東の荒野だった。




「げ」

「ほら、地面に曰くありげに剣が埋まってるの。これは間違いなく、あれよ。抜いた者が英雄という伝説の剣!」


 そこは、セバルトが刺したスノードロップが埋まっていた場所だった。

 そしてなんと、メリエだけでなく、他にも人が数人いて、剣を抜こうとしているのだ。


(……おいおいおい。おいおいおいおいなんか凄いことになっちゃってるし!)


 今は男が抜こうとしている人がいるが……スノードロップは根を張ったように動かず、結局男は抜けない。

 もう一人やってみるがやはり駄目で、その次にメリエが挑戦する。


「はああ……ふん!」


 腰を入れて体内マナを活用して、思いっきり力をいれる!


 ……が、やはり抜けない。


(糊でつけたわけでもないのに。マナを通じて大地と一体化しているということでしょうか。大地を持ち上げることができないように、単純な力だけでは抜けないのかもしれませんね)


 自分が抜けにくくしたわけでもないのにこうなっていることを分析していると、ザーラまでやってきた。


「セバルトさん、なんだか楽しそうなことになってますね」

「ザーラさん。あなたも噂を聞いて?」

「ええ。珍しいスポットができているということで。不思議な光景ですね。ちょうど私たちが話していた場所ですけど、どうしたんでしょうか」

「え……ええと……僕もよくわかりませんが、きっとウォフタート様が何かしてくださったんだと思います。マナのこととか」


 じっと見つめて問いかけてくるザーラに、セバルトは即興でそれらしいことを言う。ウォフタートもかかわってるから嘘じゃない。多分。


「そういうことかもしれませんね。なんだか、心なしか昨日より魔法も使いやすくなっている気がしますし。セバルトさんは、試さないのですか?」

「え?」

「勇者の証を抜けるかどうか」


 にっこりと笑ってザーラがいう。


(これは、わかって言ってるのか? それとも天然?)


 セバルトはいぶかしげな視線を返すが、ザーラの真意は掴めない。どっちもあり得そうで、人の心はなかなか難しい。


「はあ~、やっぱり英雄への道は遠いね。まだ抜けなかったよ、先生。あ、ザーラさん。ザーラさんも見物しにきたの?」

「ええ。珍しいものがあると聞きまして」

「うん、ワクワクするよね! 先生もやってみたら?」

「え? 僕ですか?」

「そうですよ、セバルトさんも剣を扱われるのでしょう。でしたら」

「うんうん」


 二人から同時に迫られては、断るわけにもいかない。

 セバルトは剣の柄に手をかける。


「まあ、やってはみますけど、僕が出来るわけ――」


 言いながら、軽く上に力をかける。


(ん?)


 手応えがほとんどなく。

 スノードロップは簡単にその刀身を土の中から――。


(あ、やべ)


「う、ぐぐぐぐう! はぁっ、はぁっ、これは無理ですね! 超重いです!」


 勢いよく叫んでセバルトはもう一度地面の中に剣を押し込み、その場から離れた。


(あっぶないところだった。たいして力入れてないのに。剣が俺を持ち主と認識しているのか? それともマナをうまく調整する技術みたいなものがあると簡単に抜けるとか、そんな感じか。ギリギリでバレてないようだけど、危うく英雄になってしまうところだった)


 セバルトは額の冷や汗を吹いて、二人に振り返る。


「先生でも無理かー。そんなに汗かくほど力入れるなんて、結構好きね」

「え? いやこの汗は……ああ、はい。いやあ、結構熱中しちゃいました」

「ふふ。抜かなくていいのかもしれませんね。精霊様の思し召しなら。メリエさんと、セバルトさんでも無理なら、そうそうできる人はいないでしょうし、マナはこれで安定化して、このあたりも落ち着きそうです」


 三人はそんなことを話しながら、新たな挑戦者が剣に挑んでいく様子を眺めていた。


 こうしてエイリアに起きていた、マナのバランスが崩れたことによる異変は、一振りの聖剣によって終結し、そして新たな町の名物『抜くと英雄になれる伝説の聖剣』ができたのだ!


(また変なものが英雄関連のものに追加されてる……やめてくれー!)


 セバルトは心の中で叫んだのだった。




 (第二章 完)

これで第二章は完結です。

ここまで読んでくださってありがとうございました!


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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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