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岩石落とし

「この前の美味しかったねえ、先生」

「そうですね。また蜂蜜が切れたら採りに行きたいです」


 翌週、セバルトとメリエはいつもの場所で授業をしていた。

 今日は細かい力のコントロールの訓練をしている。大きな力を出すことも大事だが、余分な力を出さないことも大事だ。

 そうでなければ、持久力がなくなってしまうから。


 そのために、必要なのは細かいコントロール。欲しいだけの力を使う技術。こちらの方が、メリエは大きな力を出すことよりも苦手らしい。

 マナの動きを目で視て、セバルトはそう結論付けた。

 しばらくはこちらをやった方がいいだろう。


(それはそれとして、話をしてたらまた甘いものが食べたくなってきたな)


 自分も集中力が途切れるセバルトである。


「ああ、いいねー。また行こ――」


 その瞬間、凄まじい轟音とともに、荒野の一部が隆起した。


「うわっ!? なになに!?」

「地面が……! いきなりですね」


 湖にほど近い森と荒野の境目で、それは起きていた。

 凄まじい勢いで突然地面が爆裂し、大小の岩石が宙を舞う。

 そしてそれらは当然、小さな隕石のように周囲に降り注ぐ。


「うぁあああああ!」


 セバルトとメリエは目を見合わせた。

 人間の叫び声だ。

 今の異変で、怪我をしたのかもしれない、二人は授業も話も一時中断し、一目散に声の聞こえた方へとダッシュする。


 そこには、足を大岩にはさまれ動けなくなっている女がいた。

 苦痛で蒼白な顔をしているその女は、セバルト達を見つけるとかすれた声で助けを求める。


「うん、すぐに助ける!」


 メリエとセバルトは言うが早いか、大岩に手をかけ、授業でやっているとおりに体内マナをフルに使って岩を持ち上げ、女を岩の下から救出した。


「ひどい怪我……大丈夫!?」


 足の骨が激しく折れ、折れた骨が肉を突き破り見えている状態だった。出血もしていてかなりの重傷だ。


「すぐに町に連れて帰らないとだめですね」

「うん」


 と、女の肩に手をかけたとき。


「誰か近くにいるのか!? 助けてくれ動けないんだ!」


 今度は、森の中から声が聞こえた。

 女を連れて行きたいところだが、そういうわけにもいかない。少しだけ我慢してもらい、声の主を救助に行く。


 そこには今度は木と降ってきた岩の間に腕を挟まれている男がいた。

 木を切断し、岩を動かし、男を救出する。

 こちらの男もかなり酷い怪我だった。


 まだ近くにいるかもしれないと、声をかけながら、けが人がいないか確認していると、この近くにいたが無事だった者達と会い、協力して周囲の様子を探り、救助活動を行い、そして、最終的には怪我人三人を町へと連れて帰ったのだった。


「大丈夫かなあ、あの人達」

「命には別状ないということですから、心配はしなくていいでしょう。僕らが、メリエさんが素早く救助した成果ですよ」


 メリエがくすぐったそうな顔をする。


「パワーを鍛えててよかったわね。でも、腕とか足とかは結構重傷っぽかったけど」

「それに関しては、まあしかたありませんね。死ななかっただけマシというものです。あのままずっと放置されてたら、どうなってたかわかりませんし。早く良くなることを祈っておきましょう」

「うん、そだね」


 それにしても、とセバルトは思う。

 いきなりの地面の隆起と炸裂、明らかに異常な事態だ。

 これはやはり、マナの異常とやらが関わっているのだろうか。


「先生、何深刻な顔で考えてるの。心配事あるならあたしに話してみなさい」

「あ、いえ、そういうわけでは。なんだか、そっちが先生みたいですね、今の台詞」

「ふふ、結構気分いいのよ、先生に教えるのって」


 メリエは不敵に笑う。


(なかなか頼もしい)


「はは、ありがたいです。……最近、自然に異常が多く起こっていると言っていましたよね、以前。今日のこともそれと同じような異常災害なのでしょうね」

「うーん。多分ね。これもマナの仕業ってやつなのかしら。役に立ったり迷惑だったり、難儀なやつね」

「ええ、まったく。……さあ、切り替えて授業の続きをやりましょうか。今日のようなことがあるかもしれないなら、しっかり鍛えとかなければ」

「ええ。そうね、先生。やりましょう!」


 そして、セバルトとメリエは再び授業をはじめる。


(しかし、大怪我人まででてしまうとは、本格的に、悪影響が加速度的に拡大しているようですね)


 セバルトは頭の片隅で対策を思いながら、メリエとの授業を再開した。



「しかし、メリエさんさすがですね。素早く救助活動に向かうところは、様になっていましたよ」


 メリエは照れた表情を見せる。


「まあ、なんだかんだで冒険者ギルドで色々やり始めてからそれなりになるし。餅は餅屋ってやつだよ」

「なるほど餅ですか、お腹によくたまりそうです」

「どこから太るかどうかの話が出てきたの」


 じろりと腕を組んで睨むメリエ。


「まあまあ……餅?」


(……え? あ、そうか。ああすれば……)


 うつむき、頭の中で素早く算段を立てる。

 そして、笑みを抑えきれずに顔を上げた。


「餅か。……そうか餅屋だ!」

「え、どうしたの先生」

「ありがとうございます、メリエさん」

「へ? 何が?」


 突然身に覚えのない礼を言われてメリエが困惑する。

 だがセバルトは満面の笑みでメリエを見つめている。

 これは不気味だとメリエは顔をしかめた。きっとよからぬことを思いついたに違いない。


「わかったんですよ。そうです、マナを増やせばいいんです」

「はい?」

「餅は餅屋、ならマナのことはマナに聞けばいい。マナを増やして増やして、大量のマナにマナを聞く」

「あのー先生ー何か意味不明なんですけど」

「精霊を呼び出すんです」


 セバルトは、はっきりとそう言った。

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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