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甘い蜜をすうために

「東の森の方が、いいって言ってたね」

「ええ。こちらの方が森が広大ですしね」


 エイリア北東、森と山の境目のあたりへとメリエとセバルトは入っていった。

 冒険者ギルドとかかわっていると、こういう時に便利だとセバルトは知った。何がどこでとれるなどの情報は豊富にあるし、快く教えてもらえる。


「普通に店で買っちゃだめなの?」

「せっかく素材などを探すのは得意なのですし、節約です。それに、奥の方なら、広く蜂蜜に使われている花と別の花から蜜をとってるミツバチもいるでしょうし」

「別の花って――」

「あれ、あなた方は」


 森の入り口付近で話しているときだった。

 聞き覚えのある声が聞こえてきたのは。


 振り返ると、そこにいたのは。


「ザーラさん。こんなところで会うとは奇遇ですね」

「ええ。この前たくさん作って以来、マジックアイテム作り熱が再燃して、最近熱心にやっているんですが、その材料を採りに来たんです」

「へえー。賢者って呼ばれる人でも自分で採りに来るんだ。人に行かせるのかと思ってた」


 メリエの言葉に、ザーラは首を振る。

 

「皆さん自分のことで忙しいですからね。それに、ちょっとしたものなら自分でやった方が速いというのもあります。こういうのが欲しいっていうのが、人任せだと微妙に伝わらなかったりするんですよね。冒険者ギルドやお店にあればいいんですけど、なかったので」


(そっちもなかったのか。……冒険者ギルドって情報はあれど実はあまり品物はないのでは……?)


「ところでそちらは何をしようと森に?」


 セバルト達が蜂蜜を探していると伝えると、ザーラは即座にそれはいいですねと言って、なにはともあれ、出会ったことだし一緒にいくことになった。

 目が増えればどちらの探し物も探しやすくなるということだ。




 そして三人は再び捜索を開始した。

 まずは蜂蜜を探しつつ、ついでに素材を回収する算段を立てたが、今のところ蜂の巣は見つからず、メリエがむうと難しい表情をしている。


「蜂蜜ってなかなか木を見てもないわね。蜂の巣を見つければいいって言っても、そもそも巣が」

「そうですね。蜂というものは、気がつくと近くを飛んでいるのに、いざ探すとなかなか巣が見つかりません。一つは見つかりましたけど……」


 メリエとセバルトの言葉をセバルトが引き取る。


「あれは、近くにあったレガティの花を蜜に使っているでしょう。そうすると、よくある蜂蜜と同じようなものだろうし、巣も小さかった。30点ですね」

「へー、蜂蜜って花で味変わるの。さっきもそんなこと言ってたね」


 メリエがほうほうと頷きながら、近くに生えている花を見つめている。どんな味なのかと想像しているように。

 ザーラが花に鼻を近づけて匂いを嗅ぎながら言った。


「それはもちろん。元は花の蜜ですからね。香りも味も変わります。特に一種類を多く集めている場合は顕著に。レガティ蜂蜜は癖が少なく数も多くポピュラーなんじゃないでしょうか」

「それだけではなく、蜂自身によっても変わるものもありますね。一部の種は、非常に熱心に羽を羽ばたかせて水分を飛ばし濃縮するようなことをするタイプもいるとか。とても濃厚な蜜になるらしいですよ」

「それは初耳です。セバルトさん、よくご存じですね」

「まあ、色々聞く機会もあったので。それに食べたりも」

「なるほどねえ。先生は蜂蜜の大先生にもなれるわね」

「それは褒めているんでしょうか……?」


 そんなことを話しつつ、森を歩いて行く三人組。

 と、しばらく歩いたとき、セバルトが足を止めた。


「どうかしましたか、セバルトさん」


 セバルトは無言で頷き、唇に指を当てた。

 ザーラとメリエはそのジェスチャーを見て、口をつぐみ、意味を理解し耳を澄ませる。


 チチチチ……という鳴き声がどこからか聞こえてくる。


 周囲をうかがい、セバルトの視線を追うと、その先にコバルトブルーの羽毛をもった小鳥が羽ばたいていた。

 ホバリングしている手のひらに乗りそうなくらい小さな鳥は、チチチチ……と鳴きながら、セバルト達に近づいたり離れたりして飛んでいる。


「あれがどうかしたの、先生」


 メリエが小声で尋ねると、セバルトは


「ついていくんです。あの鳥に」


 といって、鳥を追い始めた。

 すると、鳥も飛んでいく。一定の距離を保ったまま、こちらの様子をうかがうように低空飛行を続ける。


 静かについていき、しばらく歩いて行くと、青色の鳥が低い木に止まり、くちばしをどこかへと向けた。

 メリエがそちらへ目を向けると――。


「あ、あれ、巣だっ」

「ええ。しかもあの形は、近くで養蜂されているものとは別種みたいですね」


 たしかにその通り、よく見る蜂は黄色っぽい部分が多い種だが、ここにいるのは黒っぽい部分が多い。


 メリエとザーラが(どうして巣があるとわかった?)という目をセバルトに向けた。セバルトは指を止まり木のようにする。


「この鳥は、ミツオシエと呼ばれる鳥です。鳥の中には蜜を主食にするものがいるのですが、蜂は知っての通り針で刺して防衛してきて、小鳥では返り討ちに遭ってしまう。そこで、一部の鳥は熊のような他の大型の動物を蜂の巣に誘導して、巣を壊させるんです。そして動物が蜜や蜂を食べている間に、おこぼれに預かるという生態がある。この鳥、かわいい鳴き声をしてますが、結構したたかなんですよ」

「へーえ、頭いい。鳥も色々考えてるのね。それじゃあ、作戦に乗せられちゃおうか」

「ええ」


 そして、セバルト達は蜂蜜をとるための作業を始めた。


「それじゃあ、煙を出しますね」


 ザーラが魔法で煙をもくもくと焚くと、嫌った蜂たちが逃げていく。

 そしてもぬけの殻となった蜂の巣にメリエが近づいて行く。


「空き巣チャンス!」

「狙うのは小さいコブの方です」


 この黒い部分が多い種のミツバチは、大きいコブと小さいコブが合わさったような形の巣を作る。大きいコブの方が女王蜂や幼虫など虫の居住する場所になっていて、小さい方が蜜の貯蔵庫なのだ。


 セバルトの指示に従い、メリエは剣ですぱっと小さいコブを切り取る。

 そして袋に入れて、素早くその場を退散。


「ナイスカットです。これなら蜂自体は壊滅しません」

「お優しいのですね、セバルトさん」

「いえ、蜂が健在ならまた巣を再建して蜜を集めるから、復活した頃に回収できるじゃないですか」

「わーお、さすが先生ね。やる男だね、優しすぎる」


 メリエが感心した声をあげる。

 ザーラは『あ、そっち?』という顔をしている。


 厳しいが採れるものは採る、それがセバルトが知った自然で生き残るための掟なのだ。


「とまあ、それはそれとして、彼にも分け前をあげないといけませんね」


 セバルトは巣を一欠片切り取って、掲げる。

 するとコバルトブルーの翼の鳥が飛んできてとまり、巣の中にくちばしを入れて忙しなくうごかしはじめた。


「ああ、その子がいたね!」

「案内人には報酬が必要ですからね。美味しそうに食べてます」


 ゆっくりと蜂の巣を近くにあった木の枝の上に置き、熱心に巣を突っつき続ける鳥をたまに振り返りながら、セバルト達はその場を立ち去った。

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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